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04 灯る静寂

 目の前に立っていたのは彩芽だった。


「えっ…」


 思わず声が漏れる。


 傘も差さずに濡れた髪のままじっとこちらを見つめる。


「彩芽…」


 慌ててロープから手を放し、足元が滑りそうになりながらも一歩を踏み出した。


 その瞬間、彩芽は懐かしい微笑みを浮かべている。


 死んだはずの彩芽がそこにいるはずがない。


 俺の頭がおかしくなってしまったのかもしれない。


 それでも彩芽がそこにいるのなら。


 確かに彩芽はそこにいた。


 手に触れるとちゃんとぬくもりがあった。


 俺は言葉を探しながら震える手で隣に座り込む。


「なんで…」


 彩芽は死んだはずだ。


 その言葉が喉元まで込み上げる。


 だが、みぞおちのあたりに重く溜まるだけで続きの言葉は出なかった。


 今それを言葉にしてしまえば彩芽は本当のことを言わずに、嘘で通そうとすると思ったから。


 それに、彩芽の死を認めてしまうのが怖かったから。


「もしかして、死ぬつもりだった?」


 天気を尋ねるようないつもの笑顔で残酷な問いを投げかける。


「まあ…」


 曖昧に答えると、彩芽は小さい声で「そっか」と呟いた。


 彩芽はただその事実を受け止めるだけで怒りも責めもしなかった。


 ただ、温かく冷え切った俺の心をそっと乾かしてくれた。


「私はね、彩芽じゃなくてあめみやほのかだよ」


 寂しげでありながらどこか企むような微笑み。


「あめみやほのか?」


「雨宮は分かる?ほのかは灯るっていう字に夏」


 湿った土を木の棒で削るようにその名前を描いていく。


 懐かしい彩芽の声が春の風のように柔らかく俺の心に溶け込んでいく。


 弾けるような笑顔。


 空を見上げて彩芽は「またね」と笑った。


 雨はすでに止んでいて、空気には静けさが灯っていた。


「ブランコ、弁償しないとな…」


 小さく呟きながら学校で配られた手紙の裏に赤ペンで「使用禁止」とかき、ブランコの座面にそっと置いた。

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