30 それでよかったんだよな
唐突に俺は自分の部屋を飛び出した。
俺は走った。
どうしてかはわからない。
なぜ、走るべきだと感じたのか。
わからないまま走り続けている。
傘を放り捨てて、彩芽がいるはずの公園に向かって、走っている。
彩芽が生き返ることは望まない。
だから、ただ、伝えたかった。
傘を差さぬまま走り続け、俺は彩芽のいた公園に着いた。
息が切れて胸が痛むほど走ったはずなのに、足は自然と止まった。
止まった瞬間、心地よかった疲れがドンと肺に来る。
雨に濡れた舗道が街灯の光をぼんやりと反射している。
木々の葉はしっとりと濡れ、風に揺れて時折滴を落とす。
バックからスマホを取り出して、時間を確認する。
6月24日0時03分。
無理だったか。
惜しかったな。
俺が幽霊の彩芽に初めて会った日に壊したブランコが目に入った。
使用禁止のテロップは剥がされて、綺麗に修理されている。
ギシリという金属の鎖の音が小さく響き、俺はブランコの座面にそっと腰を下ろした。
「彩芽、死んでよかったんだよな」
昼時にあった少年の顔と彩芽の笑顔がほのかに蘇り、目を閉じた。
「それでいいんだよ」
水がぽつりと一滴垂れるように付き戻されて真横を見ると、俺に微笑みかける彩芽がいた。
懐かしく温かいあの笑顔で。
月光に照らされた彼女の笑顔は透きとおるように美しく、俺の心を潤した。
もう一度目を瞑ると、もうそこに彩芽はいなかった。
気がつくと目から涙が溢れ出していた。




