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26 死の境界線

 フェンスに足をかけた。


 抜けていく風が恐怖心を煽る。


 屋上の床に、雨粒がぽつぽつと落ちる。


 制服の方も、もうすっかり濡れている。


 空は灰色に染まって、荒んだ俺の心と同じ色。


 何もかもすっかり失ってしまった色。


 懐かしさと寂寥が胸の淵にこわこわと湧きあがってくる。


 けれども、どうすることもできない。


 俺という人間は何の運命も変えられないちっぽけな人間で、彩芽を生き返らせるなんてことはできなかった。


 彩芽のいない人生なんかに何も成せない俺が生きている意味なんてない。


 生きたところで、嫌な感情に苦しめられるだけなのならば、俺はもう。


 彩芽の記憶が何度も何度もフラッシュバックしてしまう。


「諦めて」という言葉、励まされたあの笑顔、言葉。


 溢れんばかりの思い出が脳内に流れ込み、こぶしを握り締めたまま涙が溢れ出した。


 全てが幻のように遠ざかってしまう。


 俺の叫びも、涙も、誰にも届かない。


 雨はただただ静かに降り続け、俺の存在を洗い流してゆく。


 彩芽が消えたら、俺の居場所なんてもうどこにもない。


 生きる意味がないのなら、死ぬべきだ。


 死ぬべきだけれど。


 けれど。


 怖い。


 足の先に広がる遠い小さな景色にどうしても震えが止まらない。


 怖気づいてしまう。


 あの雨の日はそんなことはなかったのに。


 いや、きっと高いからだ。


 あと一歩を踏み出せば、大丈夫。


 息を大きく吸って、足を少し前に進ませる。


 あと、少し進んだら死ぬんだよな。


 もう何もかも、おさらばなんだよな。


 死んだら、彩芽のように幽霊になるのかな。


 彩芽がいない現実世界で幽霊の俺なんかを見つけてくれる奴はいないだろうけど。


 涙が地面に零れ落ちた。


 雫が弾けるのと同時に、何かが弾け落ちた。


 ああ、怖えな。


 死にたくねえな。


 死にたく、無いよな。


 生きることに希望はなくても、死ぬのは怖いよな。


 もう一度、息を吸うとその息が酷く冷たかった。


 フェンスに足をかけたまま、手を組んで伸びをした。



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