23 君はもう戻らない
「え?」
振り返った瞬間、時が止まったように動けなくなった。
「彩芽、一緒に生きよう」
言葉を重ねるように、俺は必死に訴えた。
でも、それは届かなかった。
「生きないよ」
次に彩芽がこちらを向いた時、その瞳には揺らぎのない強い意志が宿っていた。
黒目の中心が微動だにせず、真っ直ぐに俺を見つめていた。
「もし、生きられるとしたらね」
冗談めかして言うつもりだったその言葉は掠れてしまった。
「ごめん、知ってるよ」
瞳孔を動かさず、真剣な眼差しで俺を見つめながら言った。
「蓮が私を生き返らせようとして、楽しいことをして、生きたいって言わせようとしてること。最初に言ったと思うけど、昼間でも雨じゃなくても、声も聞こえるし姿も見えてるから」
冷静で、感情の波がまったくない。事実だけを淡々と述べるその声には、異様な冷たさがあった。
「確かに…」
思わず口にした言葉が、胸に突き刺さる。
高ぶる気持ちを抑えるように、彩芽は目を閉じて深く息を吸った。
そして、さっきの柔らかくあどけない笑顔に戻って、微笑んだ。
「どんなことがあっても、私は生き返らないよ。だから、それは諦めてね」
優しい声なのに、拒絶の意志は揺るがない。
罪悪感が口の中で溶ける生クリームのように広がっていく。
血の味が胸の奥に広がり、赤黒い塊となって沈んでいく。
言葉が出なかった。
怒っても彩芽の心には届かないと分かっていたし、納得の言葉を口にしても、自分の心は晴れなかった。
親指の爪を人差し指に立てるだけで、俺は何もできなかった。




