09 梅雨の終わり
梅雨の終わりが近づいている。
空はまだ灰色に覆われているが、雲の隙間から差し込む光が少しずつ強さを増している。
「まだ来なくていいのに」
誰に向けたわけでもない言葉が、耳の奥で静かに響く。
頭上にぽつり、ぽつりと滴が落ちる。
雨が減れば、彩芽に会えなくなってしまう。
夏の空気が嫌いなわけではない。でも、もう少しだけ待ってほしいと思ってしまう。
焦燥感という風に背中を押され、俺は屋上を後にした。
肌に触れるむわっとした風が頬を撫でる。
乾いた風は、自分の内側と切り離されたように感じる。
願っても、雨は降らず、乾いた風だけが頬を通り過ぎていく。
今年は例年よりも雨が少ない。
気象情報でも、そう言われていた。
それでも、降水確率50%の文字を見ると、つい期待してしまう。
今日こそは雨が降るのではないか——その期待が裏切られるたびに、思いは募っていく。
溜め息が、自分の部屋に静かに積もっていく。
「今日も駄目だったか」
自分がただ時間を浪費しているだけだということは、わかっている。
俺は彩芽の幻影を追っているだけなのかもしれない。
それでも、俺は追い続けてしまう。