宿場町の妖し
路地の真上に
切り取られた青空
入道雲はなにも語らずに
空の上で煙草をふかす
止まれの標識が
いつの間にか「地獄行き」の文字に
古い郵便ポストの口に鋭い牙が
なにかがおかしい
学校の先生はいつも
帰り道に気をつけなさい
部屋にある朝顔はいつの間にか
部屋中を覆う
母親の胎に戻りたいときがある
夢を見ている
揺り籠の中の赤子の牙がですね
凡ては云わなくていい
此処は宿場町
不思議な事が起こる土地
雨の日はあめふらしが人の魂を求めてさまよい
夕暮れ時になれば黒マントの怪人が
子供を連れて行こうと跋扈する
眠っている子供の枕には枕返しが
夜の便所に行くときは
背後に気を付けてね
もしもしと声を掛けられて
振り返ったら誰もゐない
そんな事が宿場町ではよくある
宿場町の魔物
古い土地には魔物が
病の様に古い物を見たくなる
寺山修司のサアカス団を再び
古いボンボン時計を持った学生が
真っ白なドーランを付けて
通りの向こうで嗤ってゐる
麻酔を頂戴
ちょっともう酔っている
蔵は魔物
土蔵、なまこ壁、瓦屋根
宿場町にも負けない魅力
なんであんなに男らしく銀色に光っているの
時代劇の御殿様みたいでかしずきたくなる
蔵の中で眠っていたら
封の解けた巻物から妖が
僕の持っていたサイダーを盗んでいった
蔵の二階には
包帯だらけの美しい娘が隠されていて
座敷牢の中は夢
何処か知らない町へ行きたい
雪に凍える海を眺めたい
誰もゐない静かな道端で
一人で隠れんぼをする
裏山の鬼と子供を取り換えっこする
山奥の山彦と寝るまで会話をする
僕らは何時まで経っても子供の様
賽の目はまたも壱
蔵の裏の人魚と酒盛りをしたら
両手一杯の彼岸花を抱えたまま死んでしまおう
宿場町の凩
妖しいモノが好きなんです
丑三つ時に洗面所の鏡で合わせ鏡
十三番目の鏡に見知らぬお婆さんが
子供の頃失くしたはずの
赤いリボンの人形を抱えて
道端のお地蔵様に
彼岸花をお供え
夢みたいなことを考えている
葬式をしている家の前で
弔いの線香花火を
僕らは白髪頭になっても夢見がち
夕焼けの獅子舞は
ちょっとだけ寂しい
飲んだくれで博打うちの
小鬼が家に帰ってしまうから
旅人が孤独を求めて旅しているよ
小さな虫なんかは
あんまり寂しいと
死んでしまうというのに
人間は頑丈に出来ているんだね
そうでもないよ
先月、父が若くして亡くなって
これで家族は私だけなんだ
と微笑む
もう夜かい
夜はニヒルに嗤って
シュールレアリズムの入ったグラスを一気飲み
真っ赤なドレスの彼女に
ダダイズムの唄なんかをその口から吐いて
すべて嘘っぱち
逆さ廻りの時計を蔵に戻したら
小指に垂れている赤い紐を
そっとハサミで切ってしまって
此の世の凡てから自由になったら
黄泉平坂へ行こう
魂を縛る呪いの古時計を
包帯でぐるぐる巻きにして
僕は年を取るのを辞めた
永遠の少年は
真っ赤なマントをひらめかせて
宿場町の魔物を倒します
古き物には妖が取り憑くよ
お気をつけ
辻占の婆の家には
バラバラになった蛇の抜け殻が
旅人はコートの中から
冬の風を取り出して
宿場町で吹かせている
宿場町に巣食う
闇の中で蠢く鬼たちを
退治します
そんな張り紙が
古い郵便ポストに
僕は影法師のお面をつけて
神社で出会った狐面の子と
銭湯に入ってゐる
今日は一段と寒くなるよ
君の睫毛に乗った霜が
お湯に溶けてゆく
何度死んだだろうか
僕の魂は九つあるんだよと
仏間にある遺影の中で
微笑む
鳥居の隣の自販機では
彼岸花味の炭酸飲料が売られていて
飲むと牙が角が生えてくるとか
冬の冷たい空気は朝焼けを凍らせる
一人でぽつんと世界を救う旅
旅人は風になったのだ
湯船の中で溶けているヒトデは
古いビデオ屋さんの中で
夏祭りの夜の日へ逆さ戻りする
呪いのビデオを見つけたんだ
草原にぽつんと蔵屋敷
忘れ去られた家には
包帯で顔を覆った大火傷の娘
狂った妹は今では座敷牢の中
二階からは船町から海が綺羅綺羅と輝いて
ねえ生きているって美しい
壁に張り付いた家守もそう云って
たとえ胸の裡の鬼が大きくなろうとも
彼女は必死に苦しみに耐えている
空はこんなにも晴れている
路地の真上に
切り取られた青空
入道雲はなにも語らずに
空の上で煙草をふかす
止まれの標識が
いつの間にか「地獄行き」の文字に
古い郵便ポストの口に鋭い牙が
なにかがおかしい
学校の先生はいつも
帰り道に気をつけなさい
部屋にある朝顔はいつの間にか
部屋中を覆う
母親の胎に戻りたいときがある
夢ばっかり見ているんですね
現実ばかりじゃ疲れてしまうからね
瓦屋根に入道雲がへばりついていて
嫌だ、まだ夏で居たいと
大声で泣くもんだから
夕立が降ってきて
私はびしょぬれ
履いていた下駄に
ひだまりが当たる頃
小さな子供は
辻道で神隠しに逢うでしょう
辻占の御婆の
皺を数えている合間に
壊れかけた本のページをめくって
あの日に帰りたい
孤独はいつも背中の裏に張り付いていて
お風呂場にこびり付いた水母の足跡みたいに
何時まで経っても足にへばりつく水子の様に
夏は呪いだよ
そう云った兄がプロパガンダにかぶれて
夕陽と共に死んだんだって
夏とはいつまでも続く迷宮の様に
沢山のお餅をついて
仏壇に積み上げて
賽の河原の遊びをして
僕ら子供の知らない処で
大人たちはこの古町の内緒話をしている
土踏まずに隙間風が寂しい夜
ゆっくりと柔らかい階段を踏みしめて
開かずの扉の呪いの札をそっと開けて
あの沼で泳いでいたら
いつの間にか
指と指の間に水掻きができていて
もうすぐお祭りだからと
遺影を持ってお囃子を
座敷の暗がりには
獄卒が座っていて
僕の踝をいつも撫でている
古町で天狗が空を舞っているのはいつもの事
気を付けないと
家の前の植木の中には
亡くなったばかりの水子の幽霊がと祈祷師が
オブラートや肝油を舐めて
それから海に遊びにゆく夏の終わり
夢の幾ばくかは
陽だまりに落ちている
蜜柑で出来ている
踝の柔らかい処を
丸いあごのラインを
そっと撫でて夏を想う
仏壇の隅の暗がりには
いつの間にかマンホールの穴が
地獄へと繋がる宿場町の裏道には
午後五時になると赤い紐がどこからか
仏間はいつもしんとしていて
遺影の中の人だけが笑ってる
壊れかけた本のページをめくって
あの日に帰りたい
孤独はいつも背中の裏に張り付いていて
お風呂場にこびり付いた水母の足跡みたいに
何時まで経っても足にへばりつく水子の様に
夏は呪いだよ
そう云った兄がプロパガンダにかぶれて
夕陽と共に死んだんだって
夏とはいつまでも続く迷宮の様に