第1章 「小4女子トリオの宿題対策」
夏休みの宿題って、何故かズルズルと時間がかかっちゃうよね?
最初は「早めに仕上げて後は遊ぼう。」って決意していても、いつしか気が緩んでダラダラし始め、気付けば8月下旬になってて大慌て。
私こと吹田千里も、今年で小学4年生。
毎年同じ過ちを繰り返すのも芸がないって学習したよ。
そこで今年の夏休みは一計を案じ、仲良しの友達2人と協力する事にしたの。
問題集は各々の得意科目を重点的に仕上げて、解けなかった問題は得意な子の答えを写させて貰って。
1人じゃ手間も時間も掛かる自由研究と工作は、3人の共同製作にして。
この友情の共同戦線は見事に実を結び、終業式の日には途方もなく膨大に見えた宿題も、8月に入る前には粗方片づいちゃったの。
誰かの家に持ち回りで集まる必要はあったけど、力を合わせて宿題に取り組んでいる娘達の姿を、私達の家族はみんな好意的に見守ってくれたんだ。
その日も私は、堺市立土居川小学校4年1組のクラスメイトである月石明花ちゃんの家に集まって、友達と一緒に工作の宿題に取り組んでいたの。
「ここに最後の殻を貼り付ければ…やった!何処から見ても、浜寺公園の薔薇園だよ!ふぅ、骨が折れたなあ…」
赤く塗った卵殻の最後の1枚をベニヤ板に貼り付け終え、栗色の髪をセミロングにカットした女の子が感慨深そうに溜め息をついている。
アクリル絵の具で彩色した卵殻を使って作るモザイクアート。
図工の成績優秀な猪地乃紀ちゃんに仕上げを任せて、やっぱり正解だったよ。
「上手いもんだよ…さすがは県の美術コンクール入賞者の乃紀ちゃん。私だったら、こうは上手くいかなかったろうな。」
「そんな事ないって、千里ちゃん。何と言っても、千里ちゃんが用意した写真の構図が良いからだよ。」
そう言って乃紀ちゃんはフォローしてくれるけど、薔薇庭園の写真を写したのは、私じゃなくてお祖父ちゃんなんだよなぁ…
「そうそう、乃紀ちゃんの言う通り!大体、『3枚で連作のモザイク画』ってアイデア出してくれたの、千里ちゃんでしょ?ベニヤ板を繋げたら大きな絵になるなんて、バラバラで工作してたら思いつかないもん。」
更なる助け舟を出してくれた茶色い御河童頭の少女は、私や乃紀ちゃんのクラスメートである所の月石明花ちゃんだ。
「これで図工の宿題も仕上がったし、後は7日分の日記だけか…」
仕上げに塗ったニスの乾きを待ちながら、明花ちゃんが感慨深げに呟いている。
この工程をサボったら最後、卵の殻がボロボロと剥がれてしまい、夏休み明けには無残な事になるからね。
「どうかな、2人とも?日記も協力するってのはさ!」
ここで私の出した提案というのは、「3人一緒に遊ぶ時は、日記のネタになるようなドラマチックな演出をしよう。」って事なの。
御盆の帰省とか海水浴とかの「ハレの日」ならともかく、夏休みって案外「普通の日」が多いからね。
「取り敢えず、これから銀座通りの映画館にでも行って、『不可思議少女ヤマトなヒミコ 吉野ヶ里の奇跡』を見に行こうよ。そこで私、来場者特典の『ジャンピングどぐりん人形』で好きな色が当たったって、大袈裟に喜ぶからさ!」
「それ、千里ちゃんが贔屓にしている特撮じゃない。ホントに好きだよね…」
私に応じる乃紀ちゃんは、いかにもダルそうに軽く伸びをしているの。
あくまで集中力を要する精密作業の反動であって、私に呆れているからじゃないよね、きっと…?
「だけど、その案には賛成!仮に筋書きがあっても、実際にやれば嘘じゃないからね。もし千里ちゃんの入場者特典が好きな色じゃなかったら、私のと交換しても良いよ。」
飲み込みが早くて助かるよ、乃紀ちゃん。
「私も協力するよ、千里ちゃん。来場者特典は全12色。3人で行けば、千里ちゃんの好きな色に当たる確率も上がるからね。」
屈託のない眩しい笑顔で同調してくれたのは、人数分の麦茶を持ってきてくれた明花ちゃんだ。
「乃紀ちゃん、明花ちゃん!2人とも、本当に助かるよ!」
図り事を企む時は、意志と秘密を共有出来る仲間の存在が重要だからね。
やっぱり持つべき物は、空気の読める友達だよ。