ブラック会社が倒産しました
「【薬草】、【薬草】……さっきはここに生えてたのに無くなってるよ!! 似たような草ばかりだし……【毒消し草】でも生えてたら問題解消……にはならないし……くわあああ!! タイムリミットだ!!」
『ゲームオーバー。【最初からやり直す】【ログアウトする】』
俺は【求】というフルダイブ型のVRゲームを始めて半日。未だに他のプレイヤーとの接触、敵との戦闘も行ってなく、開始場所から全く進めないでいる。いや……少しずつは攻略出来ているはず……。
というのも、俺が【求】で選んだ職業が最悪なものだった。その職業は【毒】。それを承知で選んだはずなのに想像以上だった。今ならあの言葉の意味が分かる。
職業及び種族により、開始場所は三つの街の何処かになっている。けど、稀に外から開始するのもあって、【毒】の職業がその一つだ。
【原初の森】という神聖そうな場所から開始されるのはいいとして、問題なのは開始早々に【毒】という職業のせいか、毒の状態異常から始まる。しかも、その毒は【十秒毎にHPが1減少する】という効果があり、初期ステータスでHP20にした事から、三分強の間にどうにかするしかないって、某ヒーローでもあるまいし……
それでもキャラメイクからやり直すつもりはなく、【求】を辞めるつもりはなかった。俺、薬屋宙がこのゲームを始めたのは働いてた会社が倒産したのがきっかけだった。
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「お疲れ様。ようやく、私達はこの会社から卒業出来ました。というわけで、乾杯!!」
『乾杯』という音頭で四つのビールジョッキがぶつかり合う。
「卒業というか、倒産だけどな。不謹慎な事かもしれないけど、解放された感はある。半年……いや、少なくても一年は仕事をしたくない」
俺達は居酒屋で打ち上げ? 送別会?をしていた。俺達は高校卒業してから就職したから、現在は二十二歳。何十人もいた同僚も四人まで減っていた。原因を一言で言えば、ブラック会社だったからだ。一ヶ月の会社泊まりもあったし、上司のミスの皺寄せ等々。休みの日があったとしても、睡眠解消するだけで終わる日ばかり。
それでも負けずに頑張ったのが俺達、薬屋と山野、乃木、霧崎の男女四人。会社が潰れたのは最近の御時世とでも言っておこう。
「分かる!! 私は世界一周旅行でも行こうかなと思ってるわ。全く使えなかった給料がたんまりあるからね」
ブラック会社ではあったけど、給料が悪かったわけじゃない。いや……良かった方かも。仕事三昧の生活で、お金は貯まる一方だったから。
「俺は英語とか全然だから、日本食べ歩きの旅をして……」
旅行か。ストレス発散は人それぞれだからな。乃木さんと山野君がアウトドア派という話も今知ったかも。仲間意識があっても、そこまで会話する機会はなかったわけで……二人は旅行話で盛り上がっている。
「あの……薬屋さんはどうするんですか? すぐにでも新しい仕事を探すとか」
声を掛けてきたのはもう一人の同僚、霧崎さん。寡黙というか、おとなしい感じで、一番最初に会社を辞めてもおかしくないと思った女性だ。
「ん~……俺は山野君や乃木さんみたいに外に出歩く方じゃなくて、久し振りにゲームを楽しもうかなって。会社に入る前は結構なゲーマーだったんだよ」
プロゲーマーの誘いもあったけど、それを仕事みたいにするのは違うと思ったんだよな。
「そうなんですか!! 私もそうしようと思っていて……このゲームはどうですか? 【求】というフルダイブ型のVRゲームなんですけど」
霧崎さんもゲーム好きなのか、嬉しそうな顔でスマホで【求】の詳細を見せてきた。
現在の主流ゲームはフルダイブ型のVRだ。それは俺が高校一年の時から変わってない。格闘やFPS、勿論VRMMOは当然としてある。それでも当初はバグ、不具合が多かったわけなんだけど……
「一年前に発売したゲームで……おおっ!! どこからもゲーム評価が高い。グラフィックとシステムなんか満点ばかりだし……それも開発者が神野……神野司だと!!」
「やっぱり、薬屋さんも神野さんをご存知でしたか」
ご存知も何も数多くの神ゲーを生み出した人物だ。更にフルダイブ型のVRを開発したのも彼であり、世界の大富豪、五本の指にも入ると噂されている。
だが、フルダイブ型を開発して以来、ゲームを作成した事はない。引退したという話もあったぐらいだ。そんな彼が再度神ゲーを生み出していたなんて……
「ああ……神野司が作ったゲームの話なら、yagooニュースでも載っていたぞ。金持ちの考える事はよく分からないな。一番最初にクリアした者には十億を進呈だろ? それで未だにクリアした奴はいない。難攻不落の【求】と書かれていたな」
山野君の言う通り、yagooを開いてみると【求】のニュースが掲載されていた。
【求】は今日で丁度一周年らしい。その一年でクリアした者は無し。誰かがクリアした時点で閉鎖すると書かれているから当然かもしれない。
「何々……月額五万、毎月五万も払わないと駄目なんてクソゲーという物じゃないの?」
山野君がこちらの会話に加わった事で、乃木さんも中に入ってきた。
「実はそうでもないんですよ。操作は初心者から玄人まで楽しめるように作られているみたいですし。他にも報酬がゲーム通貨、道具じゃなく、現実でも使用出来る電子マネーと交換する事も可能だから、月額五万円も幾つかは返還、それ以上にお金が貰えるかもしれないんです」
霧崎さんはゲームに関して、流暢に会話を続けてる。報酬という事はゲームの中でのクエストやイベント、ボスの撃破が現実のお金に替える事が出来ると思えばいいのか。
「という事は、霧崎さんは十億を手に入れようとしてるわけだ」
「そ、そういうわけでは……私は薬屋さんにこんなゲームがあると紹介しただけで」
霧崎さんはこちらをチラチラと見てくるけど、別に【求】をする事は悪い事じゃないと思うけど。
「十億とか、他にも報酬があっても、クリアしてる奴はいない。ゲーマーとしてやりがいがあるよな。お金目当ての奴に負けてやるつもりもないし。霧崎さんが進める【求】をやってみるか」
十億という報酬に興味がないと言えば嘘になるけど、神野司がそんな事までして作ったゲームが気にならないわけがない。
俺は山野さん達が別の会話に移行しても、【求】の事で頭が一杯になっていた。




