暴れる少女
帰りの馬車の中で目覚めたミーナは恐怖心からか半狂乱状態に陥っていた。勇者が力ずくで押さえ込み、聖女の癒しの力で何とか再び眠りにつかせる。
「子供だと思って甘く見てたら、とんでもない力で暴れやがったな」
まだしっかりとミーナを抱えている勇者がため息をついた。
「2人がいてくれて助かった。私だけではどうにもならなかっただろう」
私は2人に頭を下げる。
「いいってことよ」
「そうよ。彼女だって私達の大事な仲間だもの」
帰宅するとぐったりしているミーナを見た使用人達が心配そうな顔で出迎えた。
勇者が客室まで運ぶと聖女に聞かれた。
「私達もついていましょうか?」
「いや、拘束の術具の設定をいじることで暴れるのは何とか防げると思う」
さすがに全員がずっとついているわけにもいかないだろう。
「わかったわ。でも何かあったら連絡して。いつでもすぐに駆けつけるから」
「力が必要なら俺もすぐ来るからな」
勇者と聖女はそう言い残して帰っていった。
それからミーナは数回暴れかけた。拘束の術具を最高強度にしたおかげでひどい状態は回避できたが、それでも悲鳴やうめき声をあげ続けてのたうつ小さな身体をとにかく抱きしめるしかなかった。
翌日、ミーナは暴れることはなくなったが高熱を出した。うわごとを繰り返すが、何を言っているのかわからない。
王宮から様子を確認するため職員が遣わされたので、前日のことと今日の発熱のことを話したところ、すぐに医師を連れてきてくれた。
「これも精神的なものでしょう。お薬はお出ししますが、この場合は聖女殿の力を借りた方がよいかもしれませんな」
聖女の力は医療とは別次元のものであることを医師も認めているようだ。
「ありがとうございます。そうしたいと思います」
王宮の職員は聖女にも連絡を取ってくれていたので、すぐに連れてきてくれた。
「ようやく暴れなくなったが、熱がひどくてな」
「よく見ると貴方も傷だらけね。私がついているから少し休んだら?」
「すまないが、そうさせてもらおう」
軽く食事を取った後、着替えもせずにベッドに倒れこむように眠った。
一眠りすると頭も身体も少しすっきりした。起き上がってまず着替え、ミーナのいる客室へ向かう。
「あら、もう起きたの?もっとゆっくり休んでてもよかったのに」
ベッドの脇の椅子に座る聖女がこちらに気づいて声をかける。
「大丈夫だ。それより様子はどうだ?」
「熱は少し下がったかしらね。暴れたりはしていないわ。癒しの力を使っていることもあってほとんど眠ってるけど、時々目が覚めても何を言っているのかよくわからなかったの」
「そうか」
ベッド脇に腰掛けて眠るミーナを見る。
「こんな小さな身体にいったい何を抱えているのかしらね」
聖女もミーナの顔を見つめる。
「あの馬鹿が何か情報をつかんだようだが、そのせいでこの状態だからな」
「あの方に馬鹿とか言えるのは貴方くらいのものよねぇ」
苦笑いする聖女。
「落ち着いたらあの馬鹿と情報交換しなければならないが、細心の注意を払う必要があるだろうな」