少女side:賢者の友人
王宮の控え室。
勇者パーティの面々は国王に会うため謁見の間へ行っている。
ミーナが控え室でおとなしく待っているとノックの音がした。誰か来るとは聞いていないが、返事をすると入ってきたのは見知らぬ男。
「こんにちは!君がミーナちゃんだね?」
「は、はい」
「はじめまして。僕は賢者の友人でね、君のことは賢者から聞いてたんだ。だけどこんなに可愛い子だったとは知らなかったなぁ」
かなり身なりがいいので身分は高そうだが、妙に軽い感じの男にとまどうミーナ。
賢者の友人は椅子にちょこんと座るミーナの顔をのぞきこむ。
「あれ?ミーナちゃんって誰かに似てるとか言われたことない?」
「いえ、ありませんけど」
そもそもミーナが人間で知っているのは勇者パーティしかいない。
「君ってさ、僕の知ってる誰かに似ている気がするんだよねぇ…う~ん、誰だったかなぁ?」
ミーナは顔をじっと見つめられ、どうしていいかわからず困惑する。
「ま、思い出せないから、とりあえずいっか!」
どうやら早々に思考を放棄したようだった。
「ミーナちゃんは北の辺境の村で魔王に拾われたんだよね?」
「はい、そうです」
賢者の友人はポケットから紙を取り出して広げる。
「あのさ、小さい頃だから覚えてないかもしれないけど、こんなの見たことない?」
そこに描かれていたのは髑髏に蛇と鎖が絡む気味の悪い紋章。
ミーナの頭の中で何かが弾け、そこで意識はぷっつりと途切れた。
「ミーナちゃん?!」
無言で気を失って椅子から落ちそうになるミーナを男があわてて支える。
「すぐに医者を!それから勇者パーティに連絡を!」
廊下で控えていた王宮職員達に向かって叫ぶと、すぐに数人が走り出した。
男は改めてミーナを抱きかかえた。
廊下に出ると勇者パーティが走って戻ってきた。男の腕の中でぐったりしているミーナ。
「何があった?!」
賢者が詰め寄る。ミーナを抱える男は顔色を失っている。
「ごめん…原因はよくわからないけど、きっかけは僕だ」
「だから何があったと聞いている!!」
殴りかからんばかりの勢いの賢者。
「北の辺境の村について聞きたいことがあったんだよ」
そこまで話したところで医師が駆け寄ってきた。
王宮職員の案内で客室に通され、ミーナはベッドに横たえられる。診察のため医師と聖女を残して男性陣は廊下に出た。
「で、何があった?」
凍りつくような怒気をはらんだ賢者の声。
「君に頼まれて10年前に消滅した村について調べていたら、消滅する前の村では邪教信仰がはびこっていたという情報に行き着いた。そこで確認しようと思って彼女に邪教の紋章を見せたら突然倒れたんだ」
男が賢者に髑髏の紋章が描かれた紙を手渡す。
「これをいきなり見せたのか?」
「…ごめん」
男はうなだれる。
「もう嫌になるほど言っているが、お前はもう少しきちんと考えてから行動しろ。お前は初対面で彼女の心の傷を深くえぐったかもしれないんだぞ」
「本当にごめん。反省してる」
ドアが開いて医師が出てくる。
「精神的なショックを受けたため倒れたようですが、他に身体上の問題はないようです。まだ眠っていますが、どうなさいますか?」
「もちろんすぐに連れて帰る。こんなところには置いておけない」
客室に入ると聖女が付き添っていた。
「国王陛下が彼女に会いたいと言ってたのに帰っちゃっていいの?」
「かまわん。どうせこの状態で会ってもしかたなかろう」
勇者が先にベッドに近寄って軽々と抱き上げる。
「俺が運ぶよ。ミーナを運ぶのは慣れてるからね」
勇者パーティは王宮を後にした。