王宮へ行く少女
翌日。
朝食を終え、身支度を整えてからミーナと馬車に乗り込む。
「これからどこへ行くんですか?」
ミーナに聞かれ、そういえば話していなかったことに気づく。
「王宮だ」
「えっ?!」
驚くミーナ。
「今回の遠征の報告だな」
「あの、もしかして魔王様を討伐できなかったから王様に怒られちゃうんですか?」
「まぁ、そうかもな」
ミーナが心配そうな表情になっているが、おそらく叱責はないだろう。
王宮内の控え室に勇者パーティが揃う。
「おう、賢者の家はどうだった?ちゃんと眠れたか?」
「あらあら、その服かわいいわねぇ。とてもよく似合ってるわ」
笑顔の勇者と聖女にとまどっている様子のミーナ。
「皆さん、これから王様に怒られちゃうんじゃないんですか?」
笑いながら勇者がわしわしとミーナの頭をなでる。
「そっか、心配してくれてんのか。ありがとな。そもそも今まで魔界の情報そのものがなかったんだから、今回は魔王城まで行って帰ってきただけでも上出来だろうな」
「そうよ。前回は何百年も前のことで、最近の魔界の様子は何もわからかなったしね」
控え室でしばらく雑談していると職員が迎えにやってきた。
「それじゃ、ちょっくら行ってくるか」
「終わったら一緒に買い物に行きましょうね。お洋服たくさん買ってあげるわ。美味しいお菓子の店もあるわよ」
謁見に向かうとは思えない軽い調子の勇者と聖女が先に控え室を出る。
「では行ってくるが、この部屋からは出ないように。王宮は増築や改築を重ねて職員ですら時々迷うそうだから、迷子になったら自力で戻ってくるのは難しいぞ」
そう言ってミーナの頭にポンと手を置く。
「はい、わかりました。いってらっしゃいませ」
我々は玉座の前にひざまずき、帰還の挨拶を述べる。
「此度の遠征、ご苦労だった。そなたらの無事の帰還は大変喜ばしいことだ。それに魔界に関する情報も多く得られたようで何よりだ」
「詳細につきましては後日報告書を提出いたします」
私が話した後に聖女も王に告げる。
「ただいま大神殿にて魔王の転移先を調べております。判明次第、再度出立いたします」
「うむ。それより魔王城で人間の少女を保護したそうじゃな?」
これに関しては私が答える。
「はい。幼い頃に北の辺境の村にて魔王に拾われ、10年ほど魔王城で過ごしていたそうです」
「そうか。して、その娘はどうするつもりじゃ?」
「なかなかの料理上手で旅にも慣れたようなので、引き続き我々で雇って次の遠征にも同行させる予定です。その後のことは本人の意向を考慮して対応したいと考えております」
面倒なことになりそうなので、本人は魔王に再び会いたいと思っていることは伏せておく。
「わかった。ところでどんな娘なのじゃ?」
「ミーナと申しまして、黒髪に紫の瞳の十代半ばほどの少女でございます」
王が少し驚いたような表情を見せる。
「その娘、王宮に連れてきておるのか?」
「はい。今は控え室におりますが」
「少々興味がわいた。会ってみたいが、ここへ連れてこれるかの?」
侍従がうなずき、謁見の間を出て行こうとする直前に突然扉が開く。
そして飛び込んできた王宮職員が叫んだ。
「失礼いたします!勇者パーティの皆様、お連れの方が控え室でお倒れになりました!」