魔王城を去る少女
翌日も全員揃って朝食を食べていると、不意にミーナが尋ねてきた。
「今日はいつ出発するのですか?」
「早めに出るつもりだが、どうかしたか?」
「まだ時間があるのなら今のうちに昼食のお弁当を作っておこうかと思いまして。あと、ここにある食材も持ち出せませんか?」
雇われたからにはきちんと仕事をこなそうと考えているのだろう。
「日持ちするものなら私がそれなりの量でも持ち歩ける。自分で使えそうなものを選んでくるといい。調理道具なら我々もある程度持っているが、もし使い慣れているものがあるなら持ってきてもかまわないぞ」
「わかりました」
朝食の後片付けを済ますとミーナは聖女とともに食品貯蔵庫へ向かった。姿が見当たらない勇者は城の中を探検しているらしい。
私は魔王の執務室と思われる部屋から本をいくつか持ち出した。本当はもっといろいろと探したいところではあるのだが、時間が足りないのであきらめるしかなさそうだ。
「よし、出発するぞ!」
勇者が全員に声をかけて歩き出す。
「あの、ずっと歩くのですか?」
少女が隣を歩く聖女に尋ねている。
「そうよ。人間界の馬は魔界に入るのを拒んじゃうのよねぇ。魔界を抜けたら馬車移動になるから、それまでがんばって」
ミーナは最初のうちこそ我々に合わせて歩いていたが、歩む速度がだんだんと遅くなってきている。
「ったく、しかたねぇな。おぶってやるよ」
勇者がひょいっと少女を背負う。
2人の会話を聞きながら歩く。
「お前、体力ねぇんだなぁ。魔界じゃ出歩かなかったのか?」
「魔王城の中は仕事で動きまわってましたけど、1人で外に出ちゃダメって言われてたんです。誰かと一緒だったら出かけたことはありますよ」
「へぇ、なんで?」
「魔王様から『魔力を持たない人間の子供には危ない』って言われました」
「そっか~」
なんだかんだで話も弾んでいるようで、どうやら勇者は子供の扱いが上手いようだ。
数週間かけて徒歩で魔界を抜け、そこからは馬車で王都を目指すことになる。
ミーナはなぜか野営にも慣れているようで、テキパキと調理していつも美味しい料理を作ってくれる。
「魔王城では屋外での調理まで教わってたの?」
聖女が後片付けを手伝いながらミーナに尋ねる。
「はい。『一人で何でもできるようになれ』って言われていろいろ教わりました。狩りは下手だって言われましたけど、獲物をさばく方は褒められましたよ」
魔界の教育というのはなかなか野生的であるらしい。
やがて人間界に入ると境界近くの集落に預けていた馬車での移動に変わった。
ミーナは馬車から見える景色を飽きることなく眺めていた。