第1話 黒神 紀子 その1
頭を振りながら立ち上がり、髪や服についた汚れを叩き落としながら
(とりあえず・・・ここがどこなのか分かんない)
何もかもが分からない、数多のの世界?どういう意味なのだろう?自身の知識を総動員する。今までの戦いの経験を振り返って考える。分かんない。
周囲を見渡し、感じた限りの気配では安全だと思うけど油断は出来ない。
自身の姿を見る限り変身は解けていない、ミリュー曰く余りに強力な攻撃を受けた時は安全装置的に変身後の衣装に全ダメージを負わせる代わりに変身が解けるらしい。今まで二度あり、どっちも絶体絶命、偶然と奇跡が同時に起こったとしか思えない状況で生き残った。
ともあれ観察した限りにおいては安全と思われたので、警戒は解かずにゆっくりと歩き出しながら考えを巡らす。
(私はどうなったの、ここはどこなの、考えるべきはどっちなの?)
自身の安全を優先すべきなのは確かだろうけども、それが果たして最善なのか、今までの戦いでそうではないと思わされることが何度もあったし最善が最高とは思いたくはない。
それに、何より。
皆がいない今に耐えられない!
「どこに言ったの・・・・一人に、しないで・・・」
途方にくれて、私は気付いたら涙が溢れていた。
それからしばらく後、少し冷静になって周りを確認するといつの間にか鬱蒼と繁った森林に迷いこみ、そんなことにも気付いていない程私は動転していた事実に愕然と揺さぶられた。
「みんな・・・」
心細くて寂しくて、泣き止みそうだったのにまた溢れていた。
「ううんっ・・・」
ごしごしと袖で涙を拭って、気付く。変身が解けていたって。
「あれ・・・?」
両腕を、胸元を、どこを見ても変身前の制服に戻っている。今の状況になった時には何とも無かったのに今になってどういうこと・・・?
混乱が混乱を生んで収まりかけたパニックがひょっこりと芽生えてくる。
でも次の瞬間、それはすぐに考えられなくなった。
「ギャアアァァアひああああっー!!」
森の奥から聞こえてきた叫びが拙い思考を遮り、私は反射的にその方向へ走り出した。
ただ救わなきゃとそれしか頭に無かった。
-この世界に神は存在した-
だが、それに匹敵する存在が突然現れる。
[魔王]だ。
それまで人も、他の動物も狩り狩られ、どの生物が支配するでもなくお互いを狩り、この世界はある意味で調和が保たれていた。
それゆえに世界は常に弱肉強食、一時は人種も絶滅の危機にあったがこの世界には[神]と呼ばれるものと[精霊]と呼ばれるものが存在しており、どの種もそれらの加護の元にギリギリの線を保ちつつ種の保存をしていた。
それを砕いたのが[魔王]だった。
[魔王]がいったい何なのか、分かってはいないがこの世界の理と秩序を壊す存在なのは確かだ。
明確には定かではないが数十年前に突如現れた[魔王]を倒そうとした者は、全て返り討ちにあっている。
[神]も[精霊]も
一部の[精霊]は[魔王]の破壊から逃れ潜むがそのまま隠れ続けていて未だに行方が判っていない。
そして元凶の[魔王]の目的は未だに分かっておらず、ただ、ただ生物を殺し、混沌を与えて混乱を撒き散らし終わらない戦役を続けることだけだ。
その[魔王]のせいなのか、これもまた不明であるが、死者が蘇ることも多発していた。
蘇るといってもアンデッド、いわゆるゾンビやスケルトンはまだいい方でスペクターやファントムなどの実体を持たない霊的な存在までもだ。流石にここまで来ると[神]に仕える高位の神官でなければ対処どころか対応も出来ず、それに絶望したのか、呼応したのか、人々の心は荒んでゆき、強大な力を持つのもほどその心を[魔]に堕とし始めていく。
世界は、ゆっくりと破滅へと向かって進み始めていたのである。
-この世界に神は存在しなくなった-
生きるため森林で狩りをして妻子を養ってきた。今までそれが普通であり、それは自然の摂理の内であった。
「が、・・・ふっ・・あっ・・あぁ」
首筋に噛み付かれロイは口から血の泡を吹いていた、全身は痺れ全く動けない、唯一出来るのはせめて妻と子供が幸せに過ごせる事を[神]に祈ることだけだった。
「が、・・・ふっ・・あっ・・あぁ」
微かに聴こえたそれに頭が沸騰した、そうとしか表現が出来ない。
迷わず右手を頭上に掲げて叫んだ!
「セーヴェル!」
その叫びに呼応して灰色の渦が私の周りを囲んでいく、そして四肢を覆うように灰色の螺旋が私を包み
「全てを貫く闇の螺旋!セーヴェルージュ!」
徐々に服装が変わっていき、私の叫びに応じて変身が完了する!いや、服装が変わっただけじゃない、[魔法少女]に変わる!
変身前は普通の中学生、でも今はきらびやかな衣装に身を包んでいるけど力はゴリラどころか象以上!
そして以前の失敗を忘れてはいない、変身し、叫びながらも聴こえた声の先にいるはずの被害者の元に飛ぶように向かう、絶対に救う!今度こそ!
変身した私の身体能力はとにかく凄い。
えっと。凄い。
めちゃくちゃ凄い。強い。
とにかく!
見えた!
木々の奥でまるでゾンビ映画に出てくるようなモノに左肩を噛まれている人が見えた。その瞬間に
「やぁあああああああぁ!」
全力で駆け込んで腰を捻りながらジャンプ、ゾンビ(仮)に左腕で弾き飛ばすように拳を叩き込む。
ゾンビ(仮)の頭が吹き飛んで粉々となっていく・・・グロい・・・けど何度か味わってたお陰で色々耐えれた。
それより・・・!
「大丈夫ですかっ」
左肩を噛まれてた人がぐったりと膝をついていた、どう見ても傷が酷く、すぐに医者に看せないと・・・
こんな時、日南ちゃんがいてくれれば・・・
「ぼ、冒険者の方ですか・・・?ありがと、うございます、たすか、りました・・・」
左肩を手で押さえ、真っ青な顔色をしながら彼は微笑みながら私を見ていた。
「まだ、世の中って、す、捨てた、もんじゃない、ですね、う、くぁ」
「喋らないで!今、今、な・・・何とか、何とかするから!」
傷口を刺激しないように抱き抱えて、とにかく治療が出来るとこにいけば
「・・・いいん、です、分かっ、てます。もう・・」
彼は、それっきり何も言わなかった。