知らないトイレなんですが。
今日も何気ない日常、その筈だった。
「はぁ……」
気がつけば私は眠ってしまっていたようだ。まだ寝起きなせいか視界はぼやけ、夢見心地な感触である。
「……っ、あれ……?」
そこは入った覚えもないトイレの個室の中だった。どこだ、ここはどこだ。必死に私は思い当たる節が無いかどうか眠る前までの記憶を辿った。
「……どうしよう、覚えてない。」
しかし、私が眠るまでの経緯を覚えていないだけで、私が誰なのかや、友人や家族の名前……住んでいた所も鮮明に覚えている。私はどこにでもいるような女子高生の杉田菜緒。完全に記憶喪失になった、という訳では無さそうだ。でも、なぜ眠ってしまったのか。これだけはどうしても思い出せない。そんな事を考えながらもゆっくり個室を出る。
あの前は、確か……学校帰りで……
「あっ、人だぁ〜!!!」
突然背後から声がした反動に肩が跳ねる。おそるおそる後ろを振り返る。
「な、何ですか」
「いやぁ〜、最近ここ人が来なくなっちゃってねぇ」
「……どういう事ですか」
初対面にも関わらずタメ口で話すのは、私と同い年か年下に見える中性的な人物である。髪型は男性のような短髪で、目元は愛らしいくっきりした二重で全体的に掴みどころがなさそうな雰囲気を放っている。
「君、ここが何処かわかんないでしょ」
「え…はい、全く」
「ここに来た人、み〜んな同じこと言うんだよねぇ〜。」
どうやら私は彼にとってテンプレートなことを言ったらしく、面白おかしそうな目で私を見つめてくる。
「でもね、僕もここが何処か分からないんだよね」
「どういう事ですか」
彼はきょとんとした目をしながら話を続ける。
「僕も君と同じように寝て起きたらトイレの中にいたのぉ。君とは違う個室なんだけど。」
そういえば、改めて辺りを見回してみたらここにはおびただしい数のトイレがある。洋式、和式はもちろん、シャワーが付いたトイレや、レールが付いた使い方すらよく分からないトイレもある。何故私がこれに気づかなかったのかは謎だが、とにかく視界の限りにトイレがあるのだ。こんな場所がこの世に存在していたことが衝撃だが、私は話を続けた。
「他に会った方は何処に居るんですか?」
「それはねぇ〜……」
彼が放った言葉はーーーーー。