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紫色のクラベル~傾国の悪役令嬢、その悪名伝~  作者: 星見だいふく
語り部たちの幕間
172/234

そして歴史は繰り返す


「アルフォンソ」


女性の声がして、クリスティアンは話を切った。

呼びかけられた少女も、振り返り、お母様、と目を丸くする。


「こんなところにいたの。クリスティアンと一緒に……。お話はここで中断よ。あなたは授業へ行きなさい」

「えーっ。いま、良いところなのに!マリアのかつての婚約者だったチャールズ王子様がエンジェリクに帰ってきたところでね――」

「だめ。お話の続きを聞きたいのなら、先に授業を受けてらっしゃい。お母様は忠告したはずよ。お勉強を後回しにしたら、楽しいことだって後回しになっちゃうわよって」


ぷうっと頬を膨らませながらも、アルフォンソ王女はぷりぷり部屋を出て行き、授業へ向かった。

くすくすと笑うクリスティアンに、あなたもよ、とイサベル女王がちょっと意味ありげな視線を向ける。


「私より先にアルフォンソに会いに来るだなんて。薄情じゃない?」

「申し訳ありません。アルフォンソ様からは熱烈なラブレターを受け取っていたので、つい彼女を優先に」


――早く話の続きをしに来てね!

エンジェリクにいるクリスティアンに、いったい何度その手紙が届いたことか。おかげさまで、クリスティアンが彼女との約束を忘れる日はなかった。


「ご無沙汰しております、イサベル様。ご挨拶が遅れました」


クリスティアンが丁寧に頭を下げるのを女王はじっと見つめ、ふっと笑う。


「あなたが来ると、昔は飛びついたものだわ。とても懐かしい……」


昔を思い返して、どこか遠い目をするイサベル女王に、クリスティアンは何も言わなかった。

しばらく、二人の間を沈黙が流れ――女王は、王女が読んでいた物語を手に取る。


「あの子は本当に、マリアに憧れているのね。時間があれば、いつもマリアの物語を読んでいるわ」

「慕ってくれるのは嬉しいんですが……母の生き方を見習うのは、いささか不安が」


クリスティアンが苦笑いする。

好奇心旺盛で、危ないことにもすぐつっこんでいきたがるし……自分の身を危険に晒すことを、まったくためらわないし。


……それに、母自身、本当にそんな生き方をしたかったのかと問われれば、きっと返事を濁したことだろう。


自分の選んだことに後悔していなかったとは思う。

でも、クリスティアンも時々考えるのだ。もっと……どこにでもいる、ありふれた生き方を選べたのなら、と。


「イサベル様」


母の生きた道をあれこれ考えるのは止め、クリスティアンはイサベル女王を見た。

母を否定するような真似はしたくないし、もしも、なんてことを考えても仕方ない。ありもしなかった未来を考えても、意味がないのだから。


「母の、最後の物語が書き上がりました」


そう言って、女王に持参した物語を差し出す。

今回キシリアへ来たのは、これをイサベル女王に渡すためでもあった。


愛する男と結婚し、セイランで別れた我が子とも再会できて、めでたしめでたし……とはならなかった、マリアの物語。


アルフォンソ王女から、書き上がったら一番に読ませてね、と言われていたが。


「この物語は、アルフォンソ様に語って聞かせるにはさすがに抵抗があります」


クリスティアンから物語を受け取ったイサベル女王は、そうね、と呟く。


「マリアを始め、多くの人の最期が書かれているもの。私のお父様も……」


大事そうに物語を抱きしめ、女王は微笑んだ。


「でも、大事な物語でもあるわ。いずれあの子もキシリアの王になるのだから。知らなくてはならない歴史よ」


クリスティアンも頷く。


フェルナンド・デ・ベラルダの時代に起きた、王位を巡る兄弟の争い。

フェルナンドの息子がその内戦を終息させ……フェルナンドの孫が、次の争いを招いた。


それはキシリア全土を巻き込み、遠いエンジェリクで暮らすマリアたちの命運も変えた。

――キシリアで始まったマリアの物語は、キシリアで終わる。


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