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紫色のクラベル~傾国の悪役令嬢、その悪名伝~  作者: 星見だいふく
幕間小話集 未来の予兆
162/234

スカーレットの運命


「お父様!」


スカーレットが呼び掛けると、父は優しく笑ってくれた。絵を描いている父の膝によじ登って、父が描いていた絵に、手を伸ばす。


「こら、スカーレット」


絵に悪戯をする娘の振る舞いを咎めながらも、メレディスはやっぱり優しく笑って、スカーレットを抱きしめてくれる。

大好きなお父様。目が覚めてしまったら、父はいなくなってしまう。

目が覚めなくてもいいのにな……と、そんな考えが、ちょっとだけスカーレットの脳裏に浮かんでいた。




ふわりとした感覚に、スカーレットは目を覚ました。見上げてみれば、自分に毛布を掛けようとしていたおじと目が合った。


「すまない。起こしてしまったかな」


寝かせてあげようと思ったんだけど、と苦笑いするヒューバート王に、スカーレットも笑う。

長椅子に座り、肘掛けにもたれかかってぼんやりとしている内に、眠ってしまったらしい。


ここはエンジェリクの城。いとこのエステル王女を訪ねてきて、彼女を待っている間に、つい。淑女にあるまじき振る舞いではあるが、おじはスカーレットを咎めることなく、手を伸ばし、彼女の目尻に触れた。


おじの指が、スカーレットの涙を拭った。


「……メレディスの夢かい?」


切ない夢を見て、どうやら自分は涙を流していたようだ。もしかしたら、寝言を呟いていたのかもしれない。


少し恥じ入りながら、スカーレットは頷いた。


「そうか……僕も時々、彼の夢を見る。大切な友人だった。僕も、彼のことは大好きだったから、彼がいないことがとても寂しい」


そう言って、ヒューバート王はスカーレットのそばに腰かけ、労わるようにスカーレットの頭を撫でた。スカーレットも、優しいおじの手の感覚に目をつむった。


「スカーレット、お待たせ――」


スカーレットたちのいる部屋に、エステル王女がやって来る。王女は長椅子に並んで座るいとこと父を見つめ、ぱちぱちと目を瞬かせた。

それから長椅子に近づき、強引にスカーレットとヒューバート王の間に座った。


「……エステル。君の大事ないとこに、悪さしたりしないよ」


いとこから自分を引き離すような娘の行動に、ヒューバート王は苦笑いする。エステル王女はスカーレットの腕に、ぎゅっとすがりついた。


「男の僕は、すっかり仲間外れだね。分かった。もう行くよ」


そう言って、ヒューバート王は部屋を出て行く。

まだ自分の腕にしがみつく王女に、スカーレットは優しく話しかけた。


「心配しなくても、オフェリア叔母様から、おじ様を奪ったりしないわ。そんなこと、考えてもないわよ」


眉を八の字にして、少し不安そうに……そして、ちょっぴり申し訳なさそうに、エステル王女はスカーレットを見つめる。

幼くても、エステル王女は女。父親に近づく女の気配に敏感だ。スカーレットの淡い想いも、彼女はとっくに見抜いている。

叔母オフェリアやおじのヒューバート王は、スカーレットの気持ちにまったく気付いていないようだけれど。


スカーレットだって、理性はある。想いは胸に秘め、公にするつもりはない。エステル王女が気付いたのは、女の勘と……いつもスカーレットのそばにいて、スカーレットのことを見てきたから。

親友なのだから、気付かないはずがない。


「叔母様のことも大好きよ。叔母様を悲しませたくないし……私は、叔母様を一途に愛していらっしゃるおじ様が好きなの。だから、おじ様が他の女を見たら、私の恋心は一瞬で冷めてしまうわ。例えその視線の相手が、私だったとしても……」


言いながら、何とも不毛な恋をしたものだ、とスカーレットは思った。

おじが、自分を見ることはない。見てほしくもない。叶わないことが前提の恋だなんて。


「あなたのことだって大好きよ。あなたとの友情も壊したくないわ」

「……私も、スカーレットのことが大好き」


だから、複雑なのだ。

愛し合っている両親に横恋慕するような女は嫌いだけど、スカーレットのことは大好きで。父が他の女性と浮気するなんて絶対に嫌だけど、スカーレットが叶わぬ恋に苦しむのも嫌で。


大好きだけど、どうしたらいいのか分からない。いとこの恋心。

悩む王女に、スカーレットは笑う。悩ませている張本人なのに、申し訳ないけれど。


「いつか、思い出になるわ。それがどれぐらい先になるのかは、私にも分からないけれど」


自分の運命は、ヒューバート王ではないような気がする。彼は淡い想いの相手であって……永遠の相手ではない。自分の運命は、まだ顔も知らない誰かに繋がっている……。

不思議と、そんな予感めいたものを、スカーレットは抱いていた。


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