町
地下道から顔を出すと、そこは町の通りの只中だった。
周りにはものものしい出で立ちの人々が待ち構えていて、『勇者』の帰還と彼が守った人々を迎えた。足を怪我して自力で立てないフィオーレが、屈強な男たちの腕でひょいと引き上げられる。すかさず寄って来た女性が魔導書らしい本を手に何か呟くと、足の傷から溢れる血が止まった。
「ひどく疲れてる。まず休ませよう」
カイトが戦士たちの中でも一際大柄な男に囁くのが聞こえた。思わずナタリはそれを遮ろうと、未だ肩で息をしながら声を上げる。
「ま、待って、待ってください……」
振り向いたカイトの表情には、半年前に見た微笑の欠片もない。沈着冷静で、冷徹にも取れ、もしかすれば冷酷かもしれない気配さえ感じさせた。しかしここまで抱き続け、散々自問自答してきた疑問の数々を一刻も早くぶちまけることの方が、ナタリの意識では優先された。
「こ、ここはどこなんですか? 皆さんはいつからここに、どうやって……」
ナタリたちを囲む人々は、ざっと見渡しただけでも二十人以上。辺りにそびえる建物は地下道に入る前に見たそれよりも手入れされており、確かに人の住む気配があった。町の広さまでは定かでないにせよ、ここにいるのが住民の全てというはずがなかった。
だが彼らはナタリの焦りと不安を酌むつもりはないというような無表情をたたえるばかりで、誰一人として答えを明示しなかった。カイトが代表するように言った。
「話せば長くなる。まずは手当てと休息が先だ」
「で、でも……」
「お前だけの話じゃないだろう。その二人にもまず時間を置いてやるべきだ」
言われて、手当てを受けるフィオーレと、疲れ果てて呆然としているハーリンの姿を目の当たりにしたナタリは、自身の気の逸りを戒めた。二人とも、すぐに話が聞けるような状態ではなかった。カイトの言葉を受け容れようという気になった途端、自分も体中の重さと節々の痛みを思い出す。
ナタリもまた誰かの肩を狩り、近くの建物へ運ばれようとしていた。ひとまず、彼らに任せて休んでしまおうか。そう考えかけて、ふと無視できない気付きが急浮上してナタリはがばと顔を上げた。
「あ、あの子は?」
「あの子?」
「道を案内してくれた女の子がいたはず……先に逃げることができたの?」
「いや、お前たちだけだ。少なくとも俺は見ていないが……」
ナタリはフィオーレとハーリンを見た。ハーリンは項垂れていて顔を見合わせようともしない。フィオーレもさすがに疲弊した様子で、軽く肩をすくめる以外の反応を示さなかった。




