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類人園アルテラ  作者: J・S・フランコ
13/17

試験

 その日は、ハーリンの捜索隊加入のための試験と聞いて、仕事の一段落したナタリは様子を見に向かった。町に来て十日が経っていたが、フィオーレは相も変わらず部屋で寝転んでいるだけで、応援しに行く気もさらさらないらしい。せめて自分だけは行ってこようと彼は思った。


 戦士たちの集まる広場に行くと、いつか見た大柄の男とハーリンが対峙していた。訓練用の木刀をそれぞれ構え、向かい合い、じりじりと互いの隙を見計らっている。


 ハーリンは滝のように汗を流し、肩で息をしていた。対する男は険しい面持ちを崩さず、筋骨隆々の腕でしっかと剣を向けている。余裕、経験、体格のどれをとっても、劣勢にあるのはハーリンだとナタリは素人ながらに直感した。


「いや、よくやってるぞ。彼女」


 見物していた戦士の誰かがナタリに囁いた。声の主の方を見ようと思ったその時、大地を蹴る音がしてはっと彼は勝負に向き直った。岩肌のように荒々しい足で駆ける男がハーリンに迫る。剣など使わずとも、その体一つで彼女など押し潰してしまえそうだった。


 男の剣が、ハーリンの細い腕に構えられた剣を叩き落そうと振り下ろされる。だがその直前、彼女は地を一蹴りして飛び込んだ。男の間合いの内側。地面を転がり、汗に砂埃を混ぜながら、彼女は男の一撃をかいくぐる。


「らあッ!」


 短い叫びを発しながら、彼女は斬撃と共に立ち上がった。振り上げた木刀は男の手首を捉えていた。震えを見せなかった山のような腕が激震し、彼の手から剣が抜けた。


 あっと思った男の顔に、彼女の二撃目が迫った。しかし木刀は彼の鼻を潰すことなく、その寸前でぴたと止まった。砂だらけのハーリンが荒く息をしながらも、逃すまいと相手を睨んでいる。


「はっ……はっ……おしまいっ……?」


 勝ち誇ることなく、相手の戦意の喪失を完全に確認するまで、緊張を手放すまいと知った剣士の姿がそこにあった。


「やりやがった、彼女。稽古つけて十日で、俺どころか団長まで超えやがった」


 先ほど囁いた戦士が感心を隠さずに言う。ナタリが改めてその方を見ると、彼は水に濡らした布を赤くなった自身の額に宛がっていた。ナタリからすれば彼もまた百戦錬磨の武人に映ったが、その言からハーリンがそれ以上に強くなったということに衝撃を受けた。

 ナタリが後で聞いた話だと「団長」とは今ハーリンが下した男のことで、町の武人ではカイトに次ぐ実力者だった。ここに来る前はラサで名うての傭兵団の団長をしていたことから、そう呼ばれているとも聞いた。


「飲み込みの早さじゃ天才だよ、あの子」



「合格おめでとう、ハーリン」


 試験が終わり、顔中の汗と砂を濡れた布で拭っている彼女に、ナタリは声をかけた。


「あ、見てたの?」

「途中からだけど。すごかったよ、何が起きたのかわからなかったくらい」

「ま、まあ……ざっと、こんなもんよ」


 面と向かって褒められたのが照れ臭いらしく、ややぎこちない返事をしながら鼻の頭を指でかく。汚れを洗い落とした顔がほのかに赤く染まっていた。

 それに微笑ましさを覚えながらも、少しの不安を思い出して、彼は尋ねた。


「で、それじゃあ……ハーリンも捜索隊に?」

「そのために試験受けたんじゃない」

「そうだろうけど」

「何よ」

「いや……」


 自身の胸の内を言葉にしかけて、ナタリは思いとどまった。単に彼女の不安を煽り、気力を阻害することにしかならないのではないか。居場所を見つけよう、やることを探そうと思い立ったのは自分も同じなのに。


 ましてや、彼女はもとより傭兵を志していた。死地に向かう覚悟はできているはずだ。

 訓練と実戦が違うことも、相手が人間を殺すことのみを目的とした「何か」であることも、承知の上で試験を受けたに決まっている。


 自分が止める権利はないと自分に言い聞かせて、ナタリは声にしかけた言葉を飲み込んでしまった。しかし不安が顔に出るのまでは隠しきれず、それを見て彼の言わんとしたことを大よそ察したハーリンが笑った。


「大丈夫よ、勇者様もいてくれるし。私も自分の経験の浅さはわかってるから、無茶はしない。やばくなったら逃げるわよ、今まで通りね」


 彼女の笑顔に、ナタリは安堵を見出そうと励んだ。けれど不安はどうしても拭いきれなかった。実際に彼女が捜索隊の一人として出かけ、地下道から五体満足で戻ってくるのを見なければ「大丈夫」という言葉の確約を得られない気でいる。けれど見送りたくもない。ここまで生死を共にして、ナタリの中には彼女とフィオーレに対する一定以上の感情が芽生えていた。


「勇者様が戻られたぞーっ」


 向こうから、誰かの叫ぶ声が響いた。まだ全身を砂にまみれさせたまま、ハーリンがその方へ駆けていく。ナタリもその後に続いた。

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