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村 「魔導士再び」

むら 「シズルと村の子供達、ローブ男との遭遇」

 


 衝撃(?)の一夜が過ぎた。

 寝不足の三人は出発した日の翌日、正午になろうとする頃にようやく目的地に着いた。

 エイシカ村では陳情書を出してから、助けが来るのを今か今かと待ち望んでいたようだった。



 見慣れない三人組が、アウレーの森の反対側から村に入って来た、と知らされた村長むらおさたち数人が、ジークハルトたちのもとにすっ飛んできた。名乗りを済ますと、まさか領主本人が直々に問題解決に乗り出してくると思っていなかった彼らは、腰を抜かさんばかりに驚いた。



「領主様、こんな寒村にまでわざわざご足労頂き、誠にありがとうございます。すぐにお出迎えできず申し訳ございません」



 村長は地面にひれ伏さんばかりの勢いでジークハルトたちを出迎えた。



「堅苦しい挨拶は抜きでいい、俺はそういうのは苦手でな。なに、領民あっての領主だから気にする事はない」



「勿体無いお言葉です。寒村ゆえ特別なおもてなしが何もできないので大変恐縮ですが、ひとまずは我が家でお休みください」



「すぐにでもくだんの魔導士とやらに会ってみたい所だが。そうだな、馬も休ませたい。邪魔させてもらおう」



 こうしてひとまず三人は村長の住まいへ向かう事になった。






 村長の家で今の状況を改めて聞いた。

 現在も、陳情書に書かれていた通り結界はそのままだが、最近では魔力を笠に着た、魔導士たちの傲慢具合に拍車がかかり、益々対応に苦慮しているという。

 ()()魔導士の弟子曰く、魔獣が森から出ないように日々見張ってやっているのだから、村人が感謝して自分たちに尽くすのは当然の事、らしい。



「頼みもしないのに、魔獣ごと勝手に森を結界で塞いでおいて、何言ってんでしょうね」



 魔導士ってみんな頭弱いのかな、とシズルが呟いている。

 今のところシズルの知る魔導士は、図書館で火炎弾を放とうとした愚か者だけなので、そういう呟きになったようだ。



「研究と称しているが、設備も何もないところで長期間何をやってるんだか。さっさと本人たちを捕まえて聞いた方が早いな」



「最近は昼間は殆ど森に入っておりますから、今は森の中でしょう。結界で入れませんので、出て来るのを待つしかありません」



 村長がジークハルトに済まなそうに言った。



「問題ない。直接森に入って話を聞く」



 ジークハルトの魔力は、どこの馬の骨か分からない()()()()()に遅れを取るほど弱くない。そんな者の張った結界など、薄い布ほども感じることはない。そもそもそれくらいでなければ、この世界でとても領主など務まらない。

 魔導士という生き物は身勝手なものが多いが、それでもその土地の領主の許可なく、村ひとつを自分勝手に使用するなど許されるはずもない。当然ジークハルトは自領でそんなことを許すつもりはなかった。魔力が全てな世界ではあるが、力がある者はそれ故に自分を律する必要がある。弱いものいじめなど論外だ。



「おお、流石領主様、実に頼もしいお言葉です」



 感極まった様子の村長に案内され、アウレーの森まで行くことになったジークハルトだが、シズルには村に残るように言い渡した。



「何でですか?」



「こんな時だけ察しが悪いな。危険だからだ」



「魔術が使えないからですか?」




「そうだ」



 今回の相手は全員魔導士ではないかと思われ、内ひとりは、森全体に結界を張れるほどの魔力を持っている。いくらシズルが強いとはいえ、それは相手が魔術を使わないことが前提での話だった。



「・・・わかりました。大人しく、他の超能力の研究でもして待ってます」



()()()()()()()



 ジークハルトが指先を突きつけて念を押すと、シズルは、はぁいと間延びした返事をした。






 ジークハルトとシルベスタが、村長と数人の男衆に案内されアウレーの森へ向かった。シズルはその後ろ姿を村長の家の前で見送った。


 さてどうしようかと辺りを見回すと、家の角から覗いていた数個の目と視線が合った。じっとそちらをみていると、やがてそろそろと数人の子供たちが姿を現した。子供たちはシズルの世界で言えば就学前の年齢に見えた。一番年嵩でも小学校低学年くらいだろうか。


 その中で最年長らしいそばかすの、いかにもガキ大将風の男の子が、他の子供たちに後ろからせっつかれながら、おっかなびっくり話しかけてきた。



「お、お前も領主様と一緒に来たのか?」



「そうだよ」



「何で一緒に魔導士を退治に行かないんだ?」



「魔力が無いからね」



 シズルがそう言った途端、ガキ大将は急に背筋を伸ばして側に寄ってきた。他の子供たちもわらわらと寄ってくる。傍若無人な魔導士たちのせいで、力のある見知らぬ大人が怖かったのだろう。

 シズルはすっかり子供たちに囲まれてしまった。



「なんだお前只人か。弱いから置いていかれたんだな」



「そうだね」



 足元に群がる色とりどりのつむじの中、ひとり偉そうに言うガキ大将の言葉をシズルは素直に認めた。ジークハルトたちが帰るまでのいい暇潰しになりそうだと思いつき、子供たちに提案してみた。



「そうだ、暇になったから村を案内してよ。私はこの国に来たばかりなんだ」



「え?! よその国の人なの?」



「すごーい! 村以外の人だってめずらしいのに」



「ね、どこから来たの? そこどんなとこ?」



 恐らくこの村から一歩も出たことがないのだろうし、多分下手をすれば一生をこの寒村で過ごすことになるのだろう。そんな環境からだろうか、外から来たシズルに、子供たちは好奇心一杯のきらきらした目を向けた。

 シズルは子供たちに手を引かれ、一緒に小さな村を巡ることになった。





 エイシカ村は聞いていた通り寒村で、特に見るものは無かった。しかし子供たちにとっては自慢の村らしく、シズルに一生懸命村のことを説明している。

 草原の向こうに小さくアウレーの森が見えて来ると、子供たちは途端に顔を顰めて口々に不満を吐き出しはじめた。



「今の季節はあそこでおいしいきのこがいっぱい取れるんだよ」



野ウサギ(コウネリ)も狩れなくなっちゃたし」



「おれももうずっと干し肉しか食ってない」



「りょうしごやをせんりょうして、ごはんをはこばせてるくせに、まずいとかひんそうだとか、もんくばっかりいうんだ」



「ぼくたちを森から追い出しておいて、自分たちはときどき森で狩ったものを食べてるんだ。ずるいよ」



 この村の者でなくてもそれはどうかと思う。

 魔導士たちの傍若無人さはかなりのものらしい。そばかすの少年が自分たちの置かれている状況を説明した。



「ほら、あそこ。あの森に一番近いところにある猟師小屋にあいつらがいるんだ。村のみんなが住んでるとこより、だいぶ離れてるだろ? 村のおとなたちは忙しいから、おれらが世話をしに行かないといけないんだ」



「向こうも勝手にやってるんだし、自分のことは自分でやらせればいいんじゃないの?」



 シズルがそういうと、子供たちは暗い顔をして答えた。



「そうするとひどい目にあうんだ。村のおとなたちに言いつけても誰もかなわないし」



「・・・ふぅん」



 他人事ながら、シズルはだんだんむかむかしてきた。

 魔力の強さが全て。それがこの世界のルールなのは知っているが、力あ

 るものがわざわざ弱いものいじめをしなくてもいいではないかと思った。



「おい! そこの! ちょっとこっちへ来い!」



 突然大声で呼び止められ、子供たちがぎくりとする。年齢の低い子供はシズルにぎゅうとしがみついた。

 シズルが声のした方を振り向くと、ローブを着た男がこちらへ大股で近づいて来るところだった。思わず溜息が漏れる。シズルはつくづくローブ男と相性が悪いらしい。



「ちょうどよかった。お前らごみを片付けていけ。洗濯物も溜まってる、持って帰ってやってこい」



 いい年をした男がふんぞり返っていう言葉(セリフ)ではない。シズルは呆れかえって、ローブ男こと魔導士に向かって心で思ったままを口にした。



「洗濯くらいご自分でどうぞ? 魔導士なんだからそのくらい魔術でどうにかできるでしょう?」



「ああ?! お前見ない顔だな。魔導士はそんな些事に貴重な魔力は使わないんだ。何度説明すれば理解するんだ。これだから学のない愚かな貧民は」



 それはシズルの世界では宝の持ち腐れという。いや豚に真珠か? こんな男に例えられたら豚が可哀想だとシズルは思った。

 魔導士の発言にシズルは心底呆れ返った。



「自分のことは自分でしなさいと習わないのかね、この世界の人間は」



「おれは母さんに言われてやってるよ」



「わたしも」



「ぼくも」



 シズルの疑問に子供たちが口々に答える。普通はそうだよねぇ、とシズルは誰にいうでもなく呟いた。

 その様子を見て魔導士が顔を赤くして激昂した。



「貴様らいい加減にしろ! 高貴な者はそんな事はしなくていいんだ! また罰を喰らいたいのか」



 魔導士の大声に、子供たちが一斉にびくついて黙り込み、シズルの後ろに隠れる格好になった。その様子を見て魔導士が嘲笑した。



「弱いものは逆らわず、そうやって黙って言う事を聞いていればいいんだ」



 その言葉を聞いて、すっとシズルの顔から表情が抜け落ちた。

 側にいた子供たちがいち早くその変化に気がついて、恐々とシズルを見上げた。



「みんなちょっと離れててくれるかな・・・危ないから」



 子供たちは無言で頷き、シズルと魔導士から距離を取った。シズルは無表情のままゆっくりと魔導士に向き直った。



「何だ貴様、私に逆らうのか?」



 魔導士は村人が誰も敵わなかった事を思い出し、或いは自分の力を信じているのか、真正面からシズルを迎え撃つ形になっていた。その顔には嘲笑が浮かんだままだった。



「寒村の貧民風情が。メガス・フロガ・ア」



 シズルは最後まで言わせなかった。


 地面を蹴って一気に近づき、十分な射程距離まで近づいたシズルは、魔導士の横っ面目掛けて、思いっきり回し蹴りを叩き込んだ。

 シズルの踵が顔に綺麗にきまって、魔導士は折れた歯を撒き散らしながら吹っ飛び、そのまま気を失った。



「どいつもこいつも何故、呪文を言い終わるまで相手が待つと思うのか。この世界ではそういうお約束でもあるのかな。それとも魔導士はやっぱり馬鹿ばかりなのか。あ、誰かタオル、こっちじゃ手拭いかな? そういうの持ってない? あと何か縛るもの」



 シズルは魔導士の側にしゃがみ込み、子供たちに声をかけた。










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