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火星の雪  作者: 上泉護
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エピローグ


薄暗い通路の先に、人一人(ひとひとり)用の独房が並んでいる。


その一室で皇帝は右膝を立て、その上に右腕を乗せベッドの上で静かに座っている。


と・・・

”コン、コン”とノックする音がした。


「よ~、暇をもてあましてんだろう?」とオーソンの声がその扉の外から聞こえてきた。


ウィスキーの瓶とコップを持つオーソンの横にいたマリアが、パネルに手を置くとロックが外れ扉が開いた。


そのオーソンとマリアの後ろに、アルフレッドとブロディがいる。


「やるか?」とオーソンがグラスを持ち上げた。


狭い独房の床に座り込んだ男達は、グラスを傾けあう。


マリアはブロディの後ろでベッドに腰かけた。


「なぁウェイド、TMPの地下のラボでアルフレッドが名乗った時、気づいていたのか?」とオーソンが聞いた。


「アルフレッド・ビーンの名を知らぬ軍人はいない。本物なのか?と疑った」と皇帝。


「アルフレッド、ずいぶん世間を狭く使ってるな」

「知らなかった・・まいったよ」と本当に困っているかの様に、頭を押さえアルフレッドが言った。


その横でウィスキーをなめたブロディが嫌な顔をした。

「どうしてこんな物をうまそうに飲むんだ?」

「お前さんがまだお子ちゃまだって事さ、はっはっはっはっははは」とオーソンとアルフレッドが笑い、ウェイドが微笑した。


「あんたはどうなんだ?」とウェイドにブロディがつっかかった。

ウェイドは黙って、うまそうにグラスを傾ける。


「けっ、おもしろくもねぇ!」

また、みんなが笑う。


とそこに立花が顔を出した。

「いいか?」と皆に(なら)って床に座り込んだ。


ブロディからウィスキーのグラスを受け取り、傾ける。


「2、3質問をさせてもらっていいか?」と皇帝に言った。

「あぁ」

「なぜ、彼等を助け、祖国を裏切った?」


「・・・意味はない・・・」と皇帝


しばしの沈黙のあと、

「はっはっはははははは!意味はない?そりゃぁいい!」とアルフレッドが陽気に言った。


「人は死んでも譲れないものがある・・・か?」

「あぁ・・そうだ」と皇帝。

ブロディが怪訝そうな顔をして、アルフレッドと皇帝を交互に見る。


立花は微笑むと、

「最後に一つだけ」と前置きすると

「今後どうするつもりなんだ?祖国には戻れまい?」


皇帝は天井を仰ぎ見ると

「わからん・・・」と答えた。

その姿は途方に暮れている・・様にも見えた。


とアルフレッドが

「俺達も今後どうすればいいのか、まったくわからない状態だ・・・ゆっくり考えればいい・・・俺達と共に行くっていうのも選択肢の中にいれておいてくれ」


アルフレッドを見た皇帝が、下を向き目を(つむりグラスを傾け

「あぁ・・」とだけ答えた。


納得のいかないブロディがなにかを言おうとした時、鍋をかかえたアリソンが子供たちとケイティを連れあわれた。


「お待たせ」と言って開けっ放しの扉の向こうで鍋を下に置いた。

ベティがマリアの横に、ペグがブロディの横に座ると、ケイティが独房の中に飛び込んできた。

ケイティが人を踏みつけ走り回る。

「おいおい、ケイティ、落ち着け」とオーソン

狭い独房の中を走り回るケイティを皆が笑顔で見ていた。


「こぼしちゃうからケイティを(つか)まえて」とアリソン


たまたま膝に乗った所を、ウェイドが抱え込んだ。

その腕の中でケイティがじたばたする。

それを両手で優しく抱え微笑む姿を見て、皆がウェイド・セローンという人がどんな人か解った様な気がした。


そしてアリソンが鍋の中にあるものを皿に分けてサワークリームを乗せ、みんなに配る。

「これは・・」とブロディが気が付いた。


アリソンとマリアが見交わしニコっと笑うと、マリアが

「私がアリソンさんに頼んだの、とっても美味しかったから」


それはブロディとマリアが、ビーン一行と出会って初めて振舞われた料理だった。

グーラッシュという、牛すね肉をトマト、クミン、オレガノなどで煮込んだ料理である。


皆が床に座った状態で食べ始める。

「うまい・・」と立花。

ビーフシチューよりもあっさりしていて、どちらかと言うと日本の肉じゃがに近い感じだ・・

パプリカが普通のトマトスープとは一味違う独特の風味を(かも)し出し、サワークリームを軽く混ぜると、クリーミィーな味わいに変化する。

具だくさんで栄養もあり、体も温まる。


そんな立花にアリソンが、

「どんどんおかわりしてくださいね」と笑顔で言った。


「すいません」と立花。



暗く陰湿だった独房のエリアは、明るい笑い声が響きわたる居心地のいい空間になっていた・・・





            完


料理協力: にゃんこ聖拳さん


  にゃんこ聖拳さん、ありがとうございました。

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