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火星の雪  作者: 上泉護
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戦艦武蔵


その男の名を聞いた者達は、こぞって耳を疑った。

アルフレッド・ビーン・・・同姓同名の別人か?または()の人を(かた)偽者(にせもの)か?

とまで疑う者もいたほどだった。


しかし立花には予感めいたものがあった。

だから、最初にその男の名前を聞いたのだ。


「アルフレッド・ビーン・・・あのジョン・アンダーソン提督旗下だった?・・・」

しかしそれでも、おいそれと信じる事の出来なかった立花は確認した。


「なぜそれを知っている?」とアルフレッドは意外に思い聞いた。

自分の名が、この宇宙に鳴り響いていたとは想像すらしていなかったからだ。



軍人(ぐんじん)で君の名を知らぬ者はいない・・・会えて光栄だ」と立花は手を差し出した。

半信半疑でその手を取りながらアルフレッドが

「あなたは?」と聞いた。


「小惑星帯国連方面軍マツシマ艦長立花だ」これは中岡博士の仕組んだ事なのか?

と立花は疑った・・・

しかし時に真実は、創作された話より奇なる事があるものだ。

アルフレッドとマリアの出会いは、奇跡という他はない。


アルフレッドは小惑星帯での艦隊決戦の結果も、その敗北した艦隊の提督も知っていたので、旧知の提督の安否をこの男に聞こうか・・・とすら一瞬考えたが止めた。


それは捨て去った過去の出来事に他ならないからだ。


握手する二人の後ろから次々と人が出てきた。頭に包帯を巻いた髭面の巨漢に、まだ若い青年といっていいほどの男。

女性と少女、子供もいれば、仔犬すらいた。


握手しているアルフレッドを見てオーソンが

「なんだ?知り合いか?」とアルフレッドに聞いた。


「いや・・」アルフレッド自身まだ状況をよく把握していなかった。


そして・・・最後に出てきた黒いスーツの男を見た途端、ブリッジの空気が一変した。


「D小隊!」誰かが叫び、粟野も立花も拳銃を抜く!

アルフレッドが急いで皇帝をかばう様に前に立ち、拳銃を向ける男達に両手を広げながら


「彼は味方だ!」と叫んだ。


立花はしばらくの間、銃を構えながら状況を把握しようと皇帝とアルフレッドを交互に見続けた。


しかしどう考えても目の前の状況が理解し難い。

死を覚悟したかと思ったら、夢にも思わなかった人物が現れ、先日まで命を取り合った敵まで出てくる。まるで走馬燈のごとく起こる出来事に、さすがの彼も思考が停止しそうになった。


だが、こういった時にこそ立花という男の真価が発揮される。


今この時の状況をそのまま受け止め、取り返しがつかない判断をしない。

解らない事は最悪の状態を回避し保留にして、状況証拠や判断材料がそろい次第、結論を下す。

そして、今この時の最善をつくす。それが彼の信条だった。


経緯(いきさつ)を聞きたいところだが時間がない。名前だけ聞いておこう」とだけ立花が言った。


皇帝が静かに

「ウェイド・セローンだ」と答えた。


またもブリッジの空気が凍り付き、事情を知らない者たちが後ずさる。

「皇帝?・・・なのか・・・・」


それはMAⅤの中であらかじめアルフレッドとウェイドが打ち合わせしていた事だ。

最初の段階で嘘をついてしまっては、信用を勝ち取るのは永遠に不可能となる。

だから正直に名を名乗るべきだと、アルフレッドが言ったからだ。


そしてブリッジにいた者達の頭は混乱の極致におちいってしまった。


この宇宙にその名が鳴り響く二人、” アルフレッド・ビーン ”と” 皇帝ウェイド・セローン ”その二人が並んで立っている。

正確には無重力空間で手すりに摑まり、同じ上下方向を共有している。と言ったところか。


あまりの事に立花ですら凍り付いた。


「どういう事だ?・・・」


そんな凍り付いたブリッジに無機質な女性の声で

「フォボス爆発まであと3分です。至急退去してください」と日本語と英語でアナウンスされる。


「なに?爆発だ?」とオーソン。


オーソンの言葉で我にかえった立花は、皇帝に向かって

「武装を解除してもらおう。今ここでだ」と必要な事に立ち返った。


すると皇帝は素直に全身の武器を外し、立花と粟野に渡す。


あまりのあっけなさに、つい粟野が頭を下げたほどだった。

「すまないが、しばらくは独房に入ってもらわなければならない・・いいか?」


皇帝は短く

「あぁ」とだけ答えた。


そして立花は聞いた。


「中岡博士にゆかりのある人は?」


すると美しい一人の少女が一歩前に進み出る。


「ナカオカ博士の孫にあたる者です。祖父にここへ来るように言われました・・」

「君の名は?」立花はアルフレッドや皇帝へした同じ質問をマリアにもした。

まるで名前を知れば、全てが理解出来るものと彼らに知らしめたかの様に・・


鷹森は緊張で”ゴクリ”と唾をのみ込む。


「マリア・ウィンフィールドです」


その名は・・鷹森は電撃が走った様に腑に落ちる事があった。


「ちょっと!こっちへ!」と鷹森がマリアを艦長席にいざなった。

コンソールパネルの陰にその名が刻まれていた事を思い出したのだ。


マリアを艦長席に座らせると、

「ここに手を置いて」と不自然に空いた艦長席のコンソールパネル上に手を置かせた。

するとマリアのそれぞれの手を囲む様に輪郭がひかり、指紋・手相の認証スキャンが始まる。


(いた)・・」とマリアが小さな声で言った。

それはマリアの親指に細い針がさされ、血液を採取されたからだ。


するとコンソールパネルの一部が開き、網膜認証用のゴーグルが立ち上がってきた。

それをマリアが覗き込む。


「すべての生体認証、マリア・ウィンフィールドと確認」と無機質な女性の声が発せられた後、中岡博士の声で


「マリア・・・よくここまで来てくれた。今マリアの周りにいる人たちは味方かい?」と聞いた。

もしマリアが ” いえ、敵です ” と答えたならば、武蔵は自爆しただろう。


ブリッジにいた者たちはマリアの言葉を緊張しながら待った。


するとマリアは

「はい、味方です」と答えた。


「マリア・・本当にありがとう・・・武蔵を始動する」と中岡博士の声。


フライフォイール、メビウス加速器が回り始め、うなるような音と振動が艦橋を震えさせる。

皆が緊張の面持ちで立ち尽くしている。


モニターを覗き込んだ鷹森が

「陽子衝突しました!ヒッグス検知!・・・ヒッグス維持されています!!」

圧縮注入器がニュートリノ振動を大きくさせている!ニュートリノとヒッグスが衝突する!!」


モニター上で放射線状に伸びた線が収束されていき、中央に黒い点が生まれ大きくなっていく・・・

その黒い点へと、螺旋を描きながら素粒子が落ちていく・・・

それはまるでブラックホールに落ちていく光の様だった。


そして、フライフォイールの回転が加速されていく。


「やっ・やった!かかった!エンジン始動しました!!!」鷹森が叫んだ。

すると艦内に重力が発生し、皆が床に膝をつく。


「慣性制御・・・そんな事が可能なのか?・・・」とアルフレッド

それは立花も同じ気持ちだったのだろう。

よろめき立ち上がりながらアルフレッドを見て頷いた。


[フォボス爆発まであと1分です]とアナウンスされる。


立花がアルフレッドに

「この巨大戦艦を動かせる航海士がいないんだ」と言った。


一瞬、その立花の目を覗き込んだアルフレッドだったが、意を決した様にブリッジ中央の武蔵操舵席に飛び込んだ。

アルフレッドの座ったシートが、床に落ちていくかの様に沈んでいき、胸の高さで止まった。


コンソールパネル上に目を走らせたアルフレッドは、両手持ちの操縦桿を握る。


立花が言った。

「武蔵発進準備!」

ブリッジにいた者達は生き返った様に持ち場へ着こうとする。

しかし長い時間無重力空間で過ごしていた為満足に歩く事さえできず、その動作はいらいらするほど緩慢だったが彼らは必死だった。


「フォボス武蔵発進シークエンス開始します」と粟野がパネルを操作すると・・


武蔵がある巨大な空間の天井が割れていく。

フォボスの外では、突如その一部が爆発し、爆風と岩石が噴き上がる!


[フォボス消滅まであと30秒・・29・・28・・]


立花が

「武蔵緊急発進する!総員衝撃に備えよ!」とマイクに向け言った。

フォボスが爆発した。いやフォボスの中央で真っ二つに割れたのだ。


武蔵の前面に広大な宇宙が広がっていく。


[20・・19・・18・・]


「両舷微速前進、武蔵発進!」立花が操舵席に座ったアルフレッドに言った。

アルフレッドが操縦桿をかすかに引く。

武蔵周囲の岩石やら人工物が一瞬、噴き上がり、武蔵が浮上する!

「アルフレッド!武蔵は艦底が恐ろしく頑丈にできている!爆心にふねを立ててくれ!総員、衝撃がくるぞ!」立花が叫んだ。


アルフレッドは巨大な戦艦の端々まで目を走らせ、この巨艦の大きさを目視だけでその感覚をつかむ。

そして見事な操艦で、武蔵は天井の割れ目をすり抜けて上昇していく。


[5・・4・・3・・2・・1・・0]


”カァッ”とフォボスが火の玉に包まれた。



南アメリカ宙軍第2遠征打撃艦隊提督パウエル元帥は、自爆するフォボスから距離を取った旗艦テキサスのブリッジで、火球に包まれるフォボスを眺めながら言った。

「あれではどんな頑丈な艦でも、ひとたまりもあるまい・・拿捕(だほ)には失敗したがこれで脅威はなくなった。まぁよかろう・・」


「提督!爆発光源の中に巨大な艦影を確認!モニターに投影します」と管制官。


消えつつある火球の中に、巨大な戦艦がその姿を現していった・・・


挿絵(By みてみん)

次回最終回、” 巨艦の咆哮 ”です。

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