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火星の雪  作者: 上泉護
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艦隊決戦 前編(3週間前)

西暦2062年、集団的自衛権の行使により小惑星帯での艦隊戦に参軍する事になった日本艦隊は、複縦陣(単縦陣を二列に並列した形)の後方に位置していた。


AARF(独裁政権国家連合)宇宙艦隊は単縦陣で前方より接近しつつある為、その全容はいまだつかめてはいなかったが、会敵はおよそ30分後の見通しだ。


国連宇宙艦隊提督は北アメリカのジョン・アンダーソン大将。

緻密な計算に基づく大胆な戦法を得意とする。

12年前の2050年、いまだ解明されいない無国籍艦隊との決戦で功績をあげ今の地位がある訳だが、その際アンダーソンを神業の様な操船技術で支え、この太陽系にその名を轟かせた一人の航海士の姿は見る事ができなかった。


今回の艦隊決戦でアンダーソンがたてた計画は、自軍の独自技術である長距離によるステルスミサイルで先制攻撃を行い敵軍の索敵能力をを封じ、爆薬を満載し正面防御を強化した高速駆逐艦を単縦陣の先頭に突っ込み自沈爆破させる。

隊列が崩壊し指揮系統が混乱しているところで、複縦陣(ふくじゅうじんから捕捉単縦陣ほそくたんじゅうじんへ隊列を替え、取り囲んでの包囲殲滅戦に移行するというものだ。


捕捉単縦陣とは前方から接近しつつある敵艦に対し、後続の艦が攻撃しやすい様に、上下方、左右に少しズラして布陣する陣形である。

射程に捉え次第、各艦攻撃できる利点があるものの、先頭艦と最後尾艦で広がってしまい、正面から接近しつつある敵に対し自軍の戦力を露呈させてしまう欠点を持つ。


作戦は初弾のステルスミサイルで敵艦隊の索敵能力が落ちなかった場合や、高速駆逐艦の自沈爆破がうまくいかなかった時の艦隊コースなど、詳細に決められていた。


重巡洋艦マツシマ艦長、立花はアンダーソン提督の作戦に一抹の不安を感じていた。

アンダーソンは決められた事を完璧にこなす能力は高いが、突発的な事態に対処する能力に欠ける。

そして、それを補って余りある優秀な航海士はもういない。


そう立花は評価していたからだ。

優秀な参謀(さんぼうがたてた作戦を寸分の狂いなく実行する。それはそれでいい・・

だが、宇宙での戦闘は思いもかけない事が起こるものだ。

その時の素早い臨機応変さが大切だと立花は考えていた。

そんな事を思う立花が座る艦長席の艦橋ブリッジの窓から、巨大な隕石が通り過ぎて行くのが見えた。


無重力のブリッジで(せわ)しなく働く火器管制士官や、打ち合わせをしている航海士達の中で、立花はあらためて戦略について考えていた。


宇宙での艦隊戦は地球上のそれとは大きく違う。

なぜなら、海洋上を進む艦隊の速度には限りがあるが、宇宙空間であればそれがない。

加速を続けていれば、艦載機ですら追いつくことの出来ない速度を、艦艇が出す事が出来るからであり、艦隊決戦を行おうとした場合、双方が相対速度を合わせる必要があるからだ。

玉砕覚悟で敵艦隊に突っ込んでいくのならともかく、そうでないのであれば尚更なおさらである。


宇宙は広大で戦闘を避けようと思えば逃げ回ればよく。

戦う意思がなければ補給が続く限り、敵艦隊から遠ざかればいいのだ。

戦う必要性は拠点防衛や制宙権の奪取。

守る為の戦いの比重が極めて大きなってくるのである。


大規模な艦隊戦は双方がそれぞれ有利な宙域での開戦を狙い、戦略(狭義の意味で、敵と離隔した状況において艦隊を効果的に運用する術策)を練り、相対速度を合わせる探り合いが始まりとなり、双方の戦う意思が合致した時、戦術(狭義の意味で敵と接触した状況において艦隊を効果的に運用する術策)を駆使しての開戦となる。


相対速度が小さくなり、艦載機やBRが母艦及び拠点への帰還が可能な距離となり発艦にいたる訳だが、戦闘可能時間を考慮した戦術が必要となる。

もちろん国連軍は前述の大前提を無視する事はなかったが、AARFは神の名においてパイロットに無理を強いる事が多々あった。


”戦って死ねば天国に行ける”という事らしい。

AARFは自爆による特攻が後を絶たなかった。


ならば長距離ミサイルにより攻撃をすればいいわけだが、多弾頭ミサイルや電磁パルスなどによる迎撃技術の向上により、長距離ミサイルの有効性がうすくなり、至近距離からの攻撃か、相手を超える物量で攻撃する戦術を選ぶしかなかった。


ただ後者は双方の戦力の消耗が著しく、第三軍が存在するこの世界では、もっとも忌み嫌われる戦術である。


そうなると至近距離からの攻撃しかないという事になるわけだが、ここでその有効性を見出みいだされたのがBRバトルローバーであった。


当初の艦載機はノズルが四方にむき出しにされた、現代の戦闘機に近いものであったが、BMIブレーンマシンインターフェースの技術革新により、人が手足を動かす様に操作できるBRが、無重力の世界では極めて有用で有る事が判明し、各国はこぞってその開発に力を入れた。


一見、無重力の世界で無駄と思える手や足が、無重力状態で命中精度をあげ、機動力を大きくあげる要因となり、高い必要性を帯びたのである。

それは電磁パルス攻撃によるAIの脆弱性が露見し、兵器を人間が操作する必要性が強まり、その人間が兵器を操作する場合、己の感性に近いもののほうが、動かしやすい。といった側面があった。


戦闘機や爆撃機としての役割をBRが務める。

それが主流となりつつある中、いち早くBR開発に着手し、D小隊を代表するいくつものBR部隊を有する南アメリカが、その優位性を握っていた。


相対速度を落としつつ、双方がBRや艦載機の航続距離と戦闘可能時間をさぐりながらの発艦となり、敵艦の対艦ミサイルを迎撃しつつ、同時に攻撃を繰り返す。

そして双方の戦術や意思が合致した時、接近しての艦隊決戦となるのである。


国連宇宙艦隊もAARF宇宙艦隊も太陽系火星外苑部の小惑星帯の中で、索敵しあいながら速度を落とし相対速度を小さくしていく・・・



「距離10万km、ポイントデルタです」

「各艦ステルスミサイル発射」旗艦オハイオの艦橋ブリッジでアンダーソン大将が指示を出した。

それぞれの艦のブリッジで艦長が命令に従っていく。


「1番から3番までのステルスミサイル発射!」

一度見当外れの方向にミサイルが発射され、宇宙の深淵に溶け込み見えなくなる。


「バークレイ(高速駆逐艦)両舷全速!加速最大」アンダーソンが指示をだす。

大量に爆薬を積んだ無人の高速駆逐艦が、速度を落としつつある艦隊から離れ速度をあげていく。


「へリントンミサイル装填!」


ジリジリするような焦燥感と、接近してくる、全容をつかめぬ敵艦隊を見ながらの緊張感が長時間に渡り続いた後、


「着弾予定まであと30秒!」カウントダウンが始まる。


「5・・4・・3・・2・・1・・」

「0」

ステルスミサイルがAARF艦隊先頭の大型戦艦に着弾!光点が連続で発生している。


様に見える・・・


自艦の光学望遠鏡の映像を確認していた立花艦長は、違和感を感じた。


着弾し、艦が破壊される”手ごたえ”がない。

それはあくまでも感覚的なものだ。


しかし、艦が爆発する時に発生する空気の流失や装甲板の剥離、炎上する際の特有の炎の色。


そんな物が感じられないのだ。


それに加え、不自然に爆煙があがり、真空状態であるにも関わらず広範囲にわたり留まり、単縦陣をひく敵の動きが見えない・・・



「バークレイ自沈!」高速駆逐艦がAARF艦隊の戦艦の前で大きな火球と化した!


アンダーソン提督はなんの疑いも持たず、次策に移行しようとしている。


「捕捉単縦陣へ移行する!各艦展開せよ!」


国連宇宙艦隊が先頭の旗艦オハイオを中心に広がり始め、速度を落とすオハイオに、艦隊の外側に位置する艦艇ほど速度を上げ、AARFの艦隊を押し包む形となっていく。


敵艦隊の威容が明らかになっていく・・・


その場に居合わせた者達はそろって凍り付いた。それはあまりにも大艦隊だったのである。


国連宇宙艦隊の倍はある。


そして、先制ミサイル攻撃もバークレイの自沈爆破による被害も全くなかった・・・


ステルスミサイルは?・・・


バークレイの正面防御力はそんなにももろくはない筈?・・・


この大艦隊はどこから来た?・・・・


凍り付くアンダーソン大将の視界の先で、AARF艦隊が展開を始めている。

完全に最悪の想定の範疇を超えていた。


立花は通信士に命じると、マイク越しに提督に進言した。

「マツシマ艦長立花です。提督!全艦加速最大!現宙域を離れましょう!」


アンダーソンはまだ凍り付いている。

「なぜだ・・・なぜなんだ?・・」


その一瞬の隙をつくかの様に、AARFが全方位にミサイルを発射する。


今度は逆に国連宇宙艦隊にミサイルの光跡が迫ってくる。

「迎撃ミサイル発射!」捕捉単縦陣をひく艦隊からは即座に電磁パルスの”ピン”が撃てない。


各艦がミサイルによる迎撃を開始する。

それは時限信管で、あらかじめミサイルの進路上で爆発し、散弾を撒き散らすものだ。


艦隊の近い距離で迎撃ミサイルが爆発、AARFのミサイルが爆発する。

しかしそれをすり抜けてくる物も多かった。


重巡洋艦マッキンレィの艦首に直撃、爆発し艦内を炎が駆け巡る。

それをさきがけに次々と自軍の艦艇にミサイルが直撃する!


「ニューハンプシャー航行不能!艦隊を離れてい行きます!」

「ラムシュタイン撃沈!電磁衝撃波来ます!」


艦内の照明が明滅する!


「第二波来ます!」

敵大艦隊から迎撃弾を考慮にいれた、細かい波が連続でうち寄せるかの様な、ミサイルの波状攻撃が始まる!

各艦の迎撃が追いつかない。


敵艦隊を包囲しようとしていた艦艇にミサイルが襲い掛かった。

「ラングドッグ轟沈!テレマルク大破!」

「応戦しろ!へリントンミサイル発射急げ!」


アンダーソン提督の乗艦する旗艦オハイオにミサイルが直撃!

艦内を衝撃と爆音が響き渡る!


「直撃です!第2プラズマエンジン融解!第4ブロックにも被弾!艦内に炎が回ります!」

「第2プラズマエンジン切り離せ!第4ブロック閉鎖!各ブロック消火をいそがせろ!」

それは第4ブロックの生存者を切り捨てるという意味である。

苦渋を噛み殺した艦長の指示が艦橋に響き渡る。


立花艦長は、対艦ミサイルの間隙をぬって、襲ってくるミサイル群を迎撃ミサイルの射線上に位置する様に操艦し、一発の直撃も許していなかった。


「反撃を開始する。ハープーン装填」

「ハープーン装填完了、残弾数は三分の二です」


「目標!正面のフリゲート艦。7番から15番まで発射!」

マツシマ甲板上のミサイル砲座横から煙が噴き出しハープーンミサイルが飛び出していく。


ミサイルの光跡がフリゲート艦に吸い込まれた。

爆発!重巡洋艦マツシマのブリッジの窓の中央で光の玉が発生する。

「敵フリゲート艦大破!」火器管制官が喜ぶ。


「敵駆逐艦接近!」

「迎撃しつつ敵艦隊最後尾に進路を取れ!ピッチ角3、ロール角15、面舵30、下げ角12、16番から31番までのハープーンミサイル発射!」


「発射!」火器管制官の短い復唱が響く

重巡洋艦マツシマの上甲板砲座からミサイルが発射され、接近してくる駆逐艦に命中、撃沈した。

マツシマの様に反撃に転じている艦艇は少なく、ほとんどがミサイルの猛攻に晒されている。


国連宇宙艦隊は、今やその陣形は崩れ去り、襲い掛かってくるBRの群れや駆逐艦に撃沈されていく!


「旗艦オハイオ轟沈!」それはアンダーソン提督の死を意味した。

脱出したかもしれないが、提督の指揮系統はなくなったという事だ。

先任将校は戦艦サフォークの艦長マグナンティ中将だ。


「サフォークは?」

「撃沈されています!」

次の艦隊指揮をとるべき左官は、巡航戦艦ブルターニュ艦長ベネックス大佐だ。

「ブルターニュは?」

「10時上方向!」巡航戦艦を斜め下から見上げる形となった。

そのブルターニュに幾筋ものミサイル光跡が襲い掛かる!


頑丈な戦艦の装甲に連続で爆発、火球が広がる。

10数発のミサイル直撃を受け、巡航戦艦ブルターニュは爆沈した。

「現在先任の左官は立花一佐です!全艦に指示をだしてください!」


立花は即座に

「こちらはマツシマ艦長立花。残存艦艇に告ぐ、準惑星ケレスに向け加速最大。戦線を離脱せよ!」

「繰り返す。準惑星ケレスに向け加速最大。戦線を離脱せよ!」


遼艦が爆沈していく中、航行可能なわずかな艦艇が準惑星ケレスに向けて加速を開始する。


準惑星ケレスはAARF艦隊からは反対方向に位置する。


質量の大きい艦ほど反転操舵には時間がかかる。

現宙航速度を0にし反転するには時間がかかる筈だ。


包囲殲滅のベクトルを当初の向きに戻し、残存艦艇がケレスに向けて加速していく。

敵艦隊はすぐには方向転舵できず、もたついている様に見える。


立花の読みは当たったが、被弾により加速の鈍い残存艦艇にBRの群れが襲い掛かる。


雲霞うんかの如きBRの攻撃に晒された軽巡洋艦ヘルマンドが轟沈した。



「各艦足を止めるな!隊列無用!加速最大!ケレスへ向かえ!」立花の冷静な声がブリッジに響いた。


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