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火星の雪  作者: 上泉護
34/42

宇宙(そら)へ


冷たい風をきり、小型のモノレールが8人を乗せて走り抜けていく。


ブロディは後ろに静かに座っている、元D小隊のエースに向かって振り返り聞いた。


「お前・・本当の(ねら)いはなんだ?」

皇帝は黙っている。


「どうして俺達を助けた?!・・・答えろ!」


前の車両に乗っていたアリソンが気付いて

「ブロディ、やめて」と言った。


「あんた達はあますぎるんだ。こいつはなにか(たくら)んでる」

半身になり振り返り皇帝に詰問しているブロディを、ペグが熱い眼差(まなざ)しで見ている。


「ブロディ・・・あそこで私達を助けた所で、この人にはなんの得もないわ・・・疑ってばかりだと人の本当の姿を見誤る恐れがあるわ」とアリソン


「どうだかな・・俺達を安心させてギリギリのところで裏切るんじゃないか?」

アリソンを見たブロディの顔をペグが見て、放心した様な顔になった。


実はペグ、体を張って自分を守ろうとしてくれたブロディに、淡い恋心を抱き始めていた・・・


そんな事とは露知らずアリソンはブロディの言葉の意味を考えていた。

「ブロディ・・・」ブロディの言い分ももっともだった。



しかしアリソンにしろアルフレッドにしろ、この男を信用するという賭けにでたのは、ベティの行動によるところが大きかった。


幼い子供は人の善悪を見抜く力を自然と持っている。と二人は考えている。


ベティはなんの躊躇(ちゅうちょ)もなく、この男の手を取った。

その時の、ウェイド・セローンという人の所作やしぐさ、態度などを考えてみても、この人は


”信用できる・・”と思えたのだ。


それが狙いだと言われれば、そうなのかもしれないが、

言葉巧みに自己の正当性をたたみかけてくる人間よりも、口を閉ざしなにも言わない人間の方が信用が出来る。


黙っている・・という事は”嘘はつかない”という事だ。


それだけでも好感がもてた。


アリソンがブロディ越しに皇帝を見ると、腕を組み目を瞑る様に下を向きブロディの相手をしていなかった。


なにを言っても返事すらしない皇帝にブロディが切れた。

「おいっ!!」

ペグがびくっとして肩をすぼめ、半身で振り返っていたブロディが、シートに膝をのせ皇帝に向き直る。


皇帝の襟を掴もうとしたブロディの右手首を皇帝が掴んだ。


凄まじい力でブロディの手首を締め上げる。

「ちっ」ブロディが歯を食いしばり、皇帝を睨みつける。


と、先頭車両からオーソンが

「ブロディ!!ベティにまた怒られるぞ!!はっはっはは」と大声がかかった。


「ちっ!わかったよ!」と皇帝の手を振り払った。


皇帝はまた腕を組み、目を下に落とす。

「けっ!」とブロディも前に向き直る。


ブロディと目があいそうになったペグも、いそいで前に向き直った。


そんな彼らの視線の先になにかが見えてきた時、はるか後方で爆発する音が聞こえた。


「もう見つけやがったか!」とオーソン。


「奴らは徒歩だ、まだ余裕がある!」とアルフレッド。


と、今まで黙っていた皇帝が、


「いや、特殊装備がある。急いだほうがいい・・」と言った。


「あぁっ?!!なんだってぇ?!」聞こえているのにブロディがわざわざからんだ。

ジロリとブロディを皇帝は見る。


ひとしきり胸倉をつかみあった二人だったが、

「特殊装備があるってよ!」とあてつけがましくアルフレッド達にブロディは声を上げる。


そんな様子をベティとマリアは心配そうに見ていたが、ペグだけはどこか放心した様にブロディを見ていた・・・

そんなペグにマリアが気が付いた。

”どうしたのかしら?・・・”


「なかなかどうして、あいつら馬が合いそうじゃないか」とオーソン

「どこが?」とアルフレッド。


「喧嘩するほど仲がいいって言うだろう」

「そうは見えんが・・・」

「多分あいつは・・あの小隊の中でその喧嘩すらできなかったんだろうよ・・・」

とオーソンがすました顔で言う。


「そういうもんかね・・・」とため息交じりにアルフレッドが言った。

彼はあまり争いごとは好まないからだ。


それに反しオーソンは争いごとや喧嘩が大好物で、若い頃はけっこう無茶をしてきた為、皇帝とブロディをほほえましく見ていた。


皇帝(あいつ)も可愛いとこがあるじゃないか」と嬉しそうに言った。

「そうか?」とアルフレッドはまったく理解できない。


そんな話をしていた二人の視線の先に、長い直線通路の終わりが見えてきた。


その先には・・・広い空間があるようだ・・・


アルフレッドはスロットルを少しづつ戻していく。


速度を落としたモノレールが通路を抜けると・・

地下空間であるにも関わらず、天井を見る事の出来ない吹き抜けの大きな空間に出た。


そこに円筒形の物体が鎮座している・・・

ロケット・・・とマリアは思った。


「MAⅤ(火星上昇機)だ・・・」とアルフレッド

その高さ約20m。


アルフレッドはそのロケットを見上げてうめいた

「これで宇宙(そらへ上がれ・・という事か・・」


「しかし、火星の大気圏を脱出する能力しかないぞ、こいつには・・・どこへ行けって言うんだ?」とオーソン


すると今まで自分達が駆け抜けてきた直線通路の向こうから、モーター音が聞こえ始めた。


「悩む暇さえ与えてもらえそうにないな、全員こいつに乗り込むんだ!」

とアルフレッドは梯子(はしごを上り始める。


大きな4っつのバーニアに囲まれたMAⅤの胴体下には、下向きの丸い入り口がある。


アルフレッドがMAⅤの中を覗き込み、確認すると中に入った。

レールの横で後方を警戒する皇帝以外の全員が、梯子の周りに集まった。


アリソンから

「ケイティは俺が担いでいく」とブロディが引き受け、女性陣を先に上らせようと

「さぁ、早く上るんだ」とマリア、ベティ、ペグに声をかけた。


「うん」と真っ先に答えたペグが、小走りに梯子に向かい上り始める。

マリア、ベティと続き、そのベティを手助けする様にアリソンが上った。


ブロディがケイティを左手で抱き、器用に梯子を上っていくと、片手のブロディを助けようとしたオーソンが、

無駄だったな・・・とニヤリと笑い上り始める。


中に入ったアルフレッドが中を見渡すと、背を向けあう様にシートが10席丸く並んでいる。

その狭いコクピットに丸く並ぶシートの中央に梯子からの入り口があり、操縦席と思われる場所に網膜認証システムがあった。


シート同士の隙間をすり抜け操縦席の横まで行ったアルフレッドが、上ってきたマリアに網膜認証の場所を示す。

「マリア、ここだ」


シートの間をすり抜けたマリアが急いで覗き込むと


「マリア・ウィンフィールド確認」の後、


ナカオカ博士の声がコクピット内に響き渡った・・・


「マリア、このMAⅤはフォボスへと向かう・・・フォボスへ行ってくれ・・・そして戦艦武蔵に乗るんだ・・・マリア・・武蔵を頼む」とだけ言って消えた。


「スペースバトルシップ、ムサシ?・・・」とマリアが呟いた後、


「発射シークエンスに入ります」と無機質な女性の声が響き、いろいろなパネルや計器類がオンになっていく。


あちらこちらで明滅が始まり、アリソンにシートベルトを装着してもらっているベティが

「きれい・・」と言った。


さらに無機質な女性の声が告げる。


「オペレーションα発動、圧力バルブ正常、各燃料問題なし、オールグリーン。

 フォボス確認、発射後の角度調整はオート、再計算開始・・・」


息を切らして上ってきたオーソンを引き上げたアルフレッドは、入り口から下を覗き込み皇帝を探す。


”ドンッドンッ”と

皇帝は通路に向かって発砲していた。

追手がそこまで(せま)って来ているのだ。


「エンジン点火用意カウント開始、発射まであと30秒・・29・・28・・・」カウントダウンが始まった。


「ひょ~始まったぜ」とオーソンがシートに座りベルトを()める横で、ベティがはしゃいでいる。


アルフレッドはハッチから

「ウェイド!!早く来い!後25秒だ!」と叫んだ。


一瞬アルフレッドを見上げた皇帝は、胸の手榴弾を二つ取るとピンを外し通路に投げ入れ、あっという間に梯子まで駆け寄ると、飛びあがり高い位置で梯子を掴み上ってくる。


通路の奥で爆発が起こり、MAⅤまで煙が吹き込んきた!


「20・・19・・18・・」


一気に梯子を上った皇帝の右腕をアルフレッドは掴み、引き上げる。

二人して丸く重いハッチを閉め、ハンドルを回しロックする。


そして二人は駆け込む様にシートへ座りベルトをした。


「12・・11・・10・・」


駆け込んできたD小隊の連中が見上げたその先で、バーニアの先に火花が飛んでいる!


「退避!退避だ!通路へ戻れ!」とカーター大尉の叫び声が響く!


「5・・4・・」


マリアは見上げる様に青い顔を上げる。

D小隊の連中が駆け込んだ通路の入り口扉が閉まり、通路全体が密閉された。


「さぁ行こう、フォボスへ!」アルフレッドの言葉に全員が身構える。

「3・・2・・1・・」


バーニアから霧状の物が噴き出すとそれが火花で点火する!


「0、エンジン点火」

爆音がとどろき、凄まじいGが全員を襲う。


煙と炎が充満した天井の無い吹き抜けをMAⅤが浮き上がる!


MAⅤはライフル銃の様に、発射通路バレルアイルを噴射エネルギーを効率的に利用し加速していく。


皇帝以外の全員が苦しみの表情を浮かべる。

皇帝の涼しい顔を見たケイティを抱えたブロディが、負けじととぼけた表情に笑みを浮かべた。


”負けてたまるか・・・”と歯を食いしばり、ニヤリと笑う。


マリネリス峡谷の断崖の一部、カモフラージュされたバレルアイル出口から、爆発したように爆炎が立ち上がる!


TMPを占拠しようとしていた多くのBRがそれを見上げ、攻撃の是非を上官に問うた。


爆炎の中から飛び出したMAⅤは加速しながら上空へと飛び去って行く。


攻撃許可を取る間もなく、


蒼い空へ・・・MAⅤは噴射する炎と煙をなびかせ遠ざかっていき・・・射程圏外へと達してしまった。


AARFの揚陸艇の間をMAⅤがすり抜ける様に、宇宙そらへ・・と加速していく。


AARFの将校達は、色めきあって


「あれはなんだ?」と叫んでいた。


すいません。

仕事が忙しくなってしまったので、来週は休止します。

再来週の話はいったん3週間前にもどり艦隊決戦の話になる予定です。

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