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火星の雪  作者: 上泉護
30/42

地下の攻防


薄暗い通路を走るランドローバーの眩しいライトで、運転するアルフレッドの姿が(おぼろ)に見える。


車高ギリギリのアーチを描く天井下をランドローバーが走り抜け、その後を震えるオーソンを抱えたBRが追随する。

追いついたブロディが速度を合わせ、血まみれのオーソンをアームでランドローバーの荷台に乗せた。


荷台で出迎えたアリソンとマリアが、オーソンに肩を貸しながら室内にもどる。

マリアは真っ青だった顔に血の()が戻り、嬉しそうにオーソンを見上げた。


暖かい室内に入ってもオーソンの震えはしばらく止まらなかった。


「くそ寒かった・・(ひげが凍るかと思った・・・」震えながらオーソンが言う。

頭から血を流していたがオーソンは元気そうだ。


「オーソン!生きてたか?」運転しながら嬉しそうに振り返りアルフレッドが言う。


「あぁ、この通りピンピンしてるぞ」


医療キットを持ち出してきたアリソンが


「さぁ、早く座って、手当てしないと」

震えが収まってきたオーソンが

「大丈夫だよ、こんなもん唾つけときゃ治る」と言う頭から血が流れている。


「駄目よ!そんなに血が流れてるじゃない!」

アリソンはオーソンを押さえつける様にマリアと手当てを始める。

「ありがとな・・」とオーソンも神妙になり、黙ってされるがまま手当てを受けた。


そんなオーソンにアルフレッドが

「しかしよくその程度で済んだな?」と聞いた。


「とっさにシートの隙間に飛び込んだのさ、潰されなかったが衝撃で頭をぶつけちまった。

ブロディのおかげで命拾いしたよ」


アリソンは頭の傷を消毒しガーゼを当てて圧迫すると、頭全体を包帯でぐるぐる巻いた。


「いいわ」

「いけるか?」とアルフレッド

「もちろんだ」オーソンは元気よく立ち上がり聞いた。

「で、あとどれくらいだ?」


「まだもう少しある・・この先にここら一帯を受け持つ空調システムの区画を過ぎた場所に人間用のエレベーターがある。そこでローバーもBRも置いていかなければならない・・・」


どんどん八方ふさがりになっていく・・・

やはりランドローバーを置いていく・・・という事に強い抵抗を感じた。

が、惜しげもなくカーネリーを使ってくれたオーソンの前で、そんな事は言えなかった。


アルフレッドが目印の空調システムの区画を表すなにかを探している時、銃弾が襲ってきた。

黒いBRがわずかなRを描く通路の後方に姿を現す。


規則正しく並んだライトが後方へと流れ去っていく中、背走しながらブロディが反撃する。


”あった!”アルフレッドは下向きのフロントガラスから上を覗き込む様に見た。


天井のエアーダクトの(たば)が、この先の区画へ数を増しながら向かっている。

そのわずかなRを描く通路の先で壁が途切れ、へこみが見える。

「ブロディ!あと400m、BRを捨てる準備をしろ!」


ブロディはランドローバーとの距離を確認する。


「了解」片膝をつき、BRの膝と足の裏から火花を散らし急制動をかけながら”ガツンッ”と頭部の砲身を伸ばす!

降ろしたバイザーの中の、黒いBR手前天井に狙いを定める。


”ドンッ”発射音と衝撃が通路内に響き渡り、止まりかけたBRがさらに後方へと火花をちらし滑る。

光跡を引いた弾丸が天井に着弾し、天井が崩れ落ちる。


ついでに腰だめのバルカンをあるったけお見舞いし、肩の後ろのスモークデスチャージャーを残らず撃ち込むと、パニッシャー達の姿は見えなくなり、視界を失ったパニッシャーの追撃が止まった。


ブロディが排莢(はいきょう)すると、コンクリートが崩れ落ちる音に混ざり、薬莢(やっきょう)の転がる金属音が通路に響く。

さらにブロディは砲弾を撃ち込んだ。


煙にまかれる黒いBRの前に、崩れ落ちるコンクリートや土砂が積みあがっていく。

耳をふさぎながらランドローバーから降りてきた、アルフレッド、オーソン、アリソン、マリア、ペグ、ベティとケイティが通路のへこみにある人用のエレベーター前に駆け込んだ。


エレベーターのボタンを叩きながら、動き出したエレベーターの位置を確認したアルフレッドが

「ブロディ!早くしろ!」と叫ぶ。

もう一発撃ち込んだブロディが、BRのハッチをスライドし出てくる。


空いた扉からエレベーターに駆けこんんだ6人と1匹の後からブロディが駆け込んだ。

”ブンッ”と弾丸が飛びぬける!

それを閉まる扉から見た。

一瞬、彼らをエレベーターの下がる浮遊感が襲い、かすかな揺れの中降下していく。


エレベーターの表示を見ながら、アルフレッドは思っていた。


奴らがランドローバーをそのままにしてはおかないだろう・・・

とうとうランドローバーまで失ってしまった・・・

あしかけ8年、住み慣れた我が家でもあるローバーを、”失った・・”と思う事は、彼にはとてもつらい事だった。

まだ現状をよく把握できていない子供達はどこか楽しそうにしているが、目のあったアリソンはそんなアルフレッドの気持ちを察して、黙ってうなずいた。


「どこまで下がるんだ?」とオーソンがアルフレッドに聞いた。


「更に300m程下がったところに地熱発電の中継所がある・・かなり大きな区画だ」


「ここはTMPの二本のリングの内の南極側のリングだったよな?」

「そうだ・・・?」


「北極側のリングとは繋がっているのか?」

「地下でつながっていると噂されているが詳しい事は知らん・・なんでだ?」


「どうも納得がいかんのだが・・確かマリアのじぃさんは、発明したものが悪いやつらに奪われそうなら破壊してくれ・・という事だったよな」

「あぁ」

「破壊した後、マリアをどうするつもりだったんだ?・・・それともAARFは頭になかったのか?」

オーソンもやはり危惧していたのだ。


「わからん・・・」さすがのアルフレッドも解りかねた。


するとブロディが、どこか楽し気に

「あれこれ先の事を考えてもはじまらねぇよ」と口を挟んだ。


「いやいや、最悪の場合に備えての事だ」とめずらしくオーソン。

「地下通路を使って、別の場所へ抜けられる・・・って事か?」とアルフレッド


「そうとしか考えられん。そうなるとランドローバーを失ったのは痛いな」


「北側のリングまでとなると地下を何千kmと行かなければならんしな」とオーソン


「北のリングではなく途中で地上に上がれるとか?」とアリソン


「それもありうるな」

「しかしこんなに下らされるのが腑に落ちんな」頭の傷がうずいたのか、しかめっ面でオーソンが言う。


彼らの足元で、ベティがケイティと遊んでいる。

なんの不安も感じていないかの様だ。


それを見ていたマリアがふと言った。

「まさか・・・」


大人達がマリアを見下ろす。

「大きな破壊や爆発が起こるのは地表付近・・・」


「ありうる・・」とアルフレッド。

「そうなるとD小隊の連中やAARFの奴らは一掃できるかもしれないが、一般の人達も巻き込まれる事になる・・・」


「おじぃさんはそれがやむを得ない事だと・・考える人だったかい?」

「わかりません・・ただ強い使命感を持つ人でした・・・大義のためならやむを得ない・・・そう考えても不思議ではありません・・・残念な事ですが・・・」


その人達の犠牲をマリアに背負わせる気か・・・アルフレッドは心の中で博士に呼びかけた。


いくら考えても答えは出ないだろうとオーソンが

「まぁ行けるところまで行くしかないって事だ。博士のラボに行って、次の指示に従うしかあるまい」

自分で言い出しておきながら、話を()めくくった。


「そうだな」とアルフレッドは気を取り直した。

「だから、あれこれ考えたってはじまらねぇって言ったろ」とブロディ


「まったくだな」と笑ってブロディの肩をアルフレッドは叩いた。

「しかし出たとこ勝負すぎるんだお前は」と笑顔のオーソン


「あんたにだけは言われたくない。カーネリーで奴らに突っ込むなんて自殺行為もいいとこだ」とブロディもやり返す。


「なにを言うか、緻密な計算による臨機応変な処置と大胆な行動力の結実と言え」とアルフレッドの口ぶりを真似てオーソンが言う。


「はっはっはっは、良く言う!はっはっはっは」全員が笑った。


そんな彼等を載せエレベーターは、ワイヤーの弾む音を垂直のエレベーター通路に響かせながら下降を続けた。


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