表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
火星の雪  作者: 上泉護
29/42

TMP


”カランッ・・カラン”とパイプらしき物が落ちてくる。

炎は一瞬で消え、暗い通路がより暗く感じた。


エレベーターはかなり下降していたので、ブロディは分厚い天井が破壊されるのを遠くに見た。


ズームされたスクリーンに、大きな穴の開いた天井が映し出される。

そこから黒いパニッシャー達が飛び降りてきた。


きつい傾斜を見事に滑り降りてくるその姿は、アイスクロスレースの選手の様に見える。

そのパニッシャー群の得もいえぬ圧力は凄まじいものだった。


「まだか・・・」アルフレッドは焦りながら下を見下ろす。

底が見えてきた。


「あとどれくらいだ!?」とオーソンが眉間にしわを寄せて聞く。


「50m、準備をしろ!」とアルフレッド。


金属がこすれる嫌な音を響かせ、黒いBRの群れが上方からどんどん近づいてくる!


しばらくそれを(にら)みつけていたオーソンが

「ここは俺にまかせておけ!先に行け!」と叫んだ。


「無茶だ!やめるんだオーソン!」アルフレッドも叫ぶ。


コクピットをカーネリーの両腕で守る様にしたオーソンはカーネリーを屈ませる。

マリアも真っ青になって叫んだ。

「やめて下さい!死んじゃいます!」


一瞬ノイズが入ったオーソンの声が

「マリア、今度手料理食わせてくれ。頼んだぞ」と言ってカーネリーが勢いよく駆け上る。

「オーソンさん!」


最下層まであと10m、黒いパニッシャーの群れはすぐそこまで迫っている!


早く!・・開け・・開け・・とアルフレッドは心の中で念じる。


パニッシャー達が発砲し始めた。

巨大地下通路で空気を切り裂き弾が飛び跳弾する!

カーネリーに着弾し火花を散らした。


”ゴトンッ”と底に着いた。


ゆっくりと巨大な扉が開いていく。


腕を組んでコクピットを守っているカーネリーに火力が集中し、カーネリーが穴だらけになっていく!


「オーソン!」アルフレッドは叫びながらアクセルを踏み込んだ!


カーネリーの目の前まで迫ったパニッシャー達は、カーネリーの横をすり抜けようとする。


「なめんな!」オーソンは組んでいた両アームを思いっきり開く!

2機がそれぞれ壁に押し付けられ凄まじい火花が飛んだ。


遅れてきた2機が乱射し、弾丸がカーネリーを穴だらけにしていくがカーネリーの突進は止まらない。

パニッシャーはきつい傾斜で速度が落とせず、迫るカーネリーに一瞬腰が引けた。


カーネリーは頭突きの要領で2機のBRと激突した!

ぐしゃりとカーネリーのコクピットが潰れ、そのまま頭で2機のパニッシャーを抑えつける。


・・・カーネリーは動かなくなった。

バニッシャー達も動かない・・・


ブロディは焦った。

”死なないでくれ!・・・”心の中で叫ぶ。


上方からやや遅れてくる後続を見ながら、ブロディは急いでカーネリーのコクピット裏を力任せにはがした。

ブロディも一宿したコクピットは無残に潰れ、横長のシートは山なりに変形している。

焦ったブロディが

「オーソン!」と叫び、コクピットの隅々を探す。

すると・・シートの隙間から、血だらけの腕が出てきた・・


頭から血を流したオーソンが顔を出し

「死ぬかと思ったぜ・・」ニッと笑った。


「・・しぶといね」ブロディもニヤッと笑う。


ブロディはアームでシートを取り除きオーソンを助け出すと、そこから滑り降りる。


がその時、信じられない事が起こった。

いかにBRといえどパイロットにかかる今の衝撃ははかりしれない。

暫くは動けるはずはないのに・・・4機のパニッシャーが押さえつけているカーネリーから脱出を試みている。

金属の(きし)む音と共に、カーネリーが変形していく。


それを後ろにみながらブロディはアクセルを踏み込んだ。


カーネリーの右腕をもぎ取った一機が、容赦なく動かなくなったカーネリーに向けて弾を撃ち込む。

両腕で壁を抑える形でバランスをとっていたカーネリーは、ゆっくり崩れ落ちた。


抑えがなくなった4機のパニッシャーも追跡を再開し、後続がそれに加わる。

オーソンを抱えたブロディのBRに攻撃を開始した。


空気を切り裂き巨大な地下通路を無数の弾丸が飛びぬける!

とその時オーソンが


「あれをばら撒け!」と指さした。


それは、配管が横積みされている山だ。

ブロディは右腕を延ばし配管の端をひっかける様に走り抜ける。

配管の重みでBRはバランスを崩し倒れそうになるが、回転する様に背面走行に移り態勢を立て直す。


”ガランッ、ガランッ”とパイプが派手に転げまわる。

その中にパニッシャー達は飛び込んできた。


凄まじい反射神経でそれらを躱し、躱せない物はアームではじく。ダメージを与えられた奴は一機もなかった。

が、速度を落としたパニッシャー達にわずかばかりの距離を取る事ができた。


「もう一山だ!」オーソンが叫ぶ。


ブロディは同じように配管の山を崩す!


パニッシャー達は狙い撃つ事が出来ず、さらに距離が広がる。


「もう一丁!」ブロディとオーソンはそれを繰り返しつづけた。

挿絵(By みてみん)

ランドローバーが走る巨大な地下通路の左側壁は、湾曲しながら通路に覆いかぶさり、右側壁は垂直の壁が高い天井まで立ち上がっている。

左側の湾曲した壁の向こう側で超電導コイルパイプの埋設工事が進んでいたが、度重なるアクシデントに工事の進捗状況は捗々(はかばか)しくなかった。


湾曲した壁には重機が入る事が出来る大きな入り口が所々開いていて、地には巨大なレールが敷かれ、太いホースやコードの束が散乱していた。


走り抜けるランドローバーの中で、アルフレッドはそれらに目をやる余裕はなく、ひたすらオーソンの無事を祈りながら、どうやって助けに戻るか必死に考えていた。


まずマリアを目的の場所まで送り届けなければならない。

それがオーソンの願いでもあるからだ。


さすがのベティも泣きそうになりながら、

「オーソンさん大丈夫かな?」と心配そうに後ろを見ている。


マリアの顔は真っ青だった。

そんなマリアにアリソンが


「火星の男はそんなにヤワじゃないわ、大丈夫よ」

と自分に言い聞かせるように言った。


と後方で飛び交う銃弾が見えた。

ブロディか?・・・



機銃を乱射するパニッシャーの中で、怒りも(あらわ)にまだ若いパイロットが叫んだ。

「あの四つ足野郎!ふざけやがって!」

どこかおかしい。

「レナルズ、任務に集中しろ」とマーク・カーター大尉が声をかける。

「くそっ!くそっ!」怒り方が尋常じゃない。

どこか人としておかしいのである。


鎮静剤が必要か・・・しかし作戦行動中だ・・・

悩むカーター大尉に通信が入った。

「大尉、聞こえるか?」

「少佐なんでしょう?」

「このまま行けるか?」ほんのわずかな間、悩んだ大尉はそれを振り払う様にはっきり言った。

「モニター上問題ありません。いけます」

「解った」スイッチを切ると溜息(ためいき)をつき、流れ去るスクリーンの側壁を見ながら物思いにふけった。


なんでこんな奴らのお守りをしなければならないのか?

ゲノムエディスィングと薬により身体能力を向上させる代償に、精神疾患をかかえる連中。

確かにその反射速度や筋力増強は目を見張るものがあるものの、人の残虐性が表面化し、事あるごとに血を見ずにはおられない。

こんな連中に特務が勤まるのか?

しかし、さっきの様な衝撃は自分では耐えられなかっただろうとも思う。


あのカーネリーの運転手は相当なものだ。

あんな旧式のワークローバーで、4機のBRを見事足止めした。

顔を拝んで見たいものだ・・・


我に返ったカーターが前方に集中すると、先行するレナルズやマッケンジーニが、ばら撒かれた配管を見事に(かわしつつも奇声をあげ怒りを表している。


「任務に集中しろ。余計な事は考えるな。目標を確保する事だけを考えろ。いらぬ殺生はするな。解ったな」カーター大尉は全員に声をかけた・・が、返事は返ってこなかった。



巨大地下通路を横切る側溝に、”Liquid nitrogen”(液体窒素)と書かれている。


「3・・4・・5つ目、ここだ!」後方にオーソンを抱えたBRを確認した。


良かった・・・無事だったのだ。


アルフレッドは深く息を吐いた後、マイクに向かって言った。

「ブロディここを右に曲がる!見えるか?」


「見える!了解だ」


ランドローバーは落としていた速度を上げながら、大きな地下通路からランドローバーがなんとか走る事の出来る通路へと曲がった。


ランドローバーがアーチを描く天井の高さぎりぎりで走り抜ける。

ブロディが右手を床にこすりつける様に、左手でオーソンを抱えてBRを傾けさせ曲がってきた。


それをバックモニターで確認したアルフレッドは再びアクセルを強く踏み込んだ。


このTMPは火星を一周するリングの周りに様々な施設が埋設され、それを血管の様な通路がはりめぐらされ、繋がっている・・・・


まるで地下迷宮のようだ・・・アルフレッドはライトに照らし出された流れ去る無人の通路を見ながら、わずかの間見る事の出来た地図を思い出していた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ