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火星の雪  作者: 上泉護
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地下へ


巨大なエレベーターがランドローバー、カーネリー、BRを載せ、ゆっくり・・ゆっくり・・降りていく・・・


冷たく淀んだ空気には金属と油とゴムの匂いが溶け込み、底を見通す事の出来ない暗く傾斜のきつい巨大な地下通路には”ゴトンッ・・ゴトンッ”という低く鈍い音が響いている。


その冷たい空気を浴びながら、4人はエレベータの淵から下を見下ろしていた。

所々にライトはあるものの、通路全体を照らし出すほど明るくはなく、暗い巨大生物が住む洞窟に所々松明が掲げられている。そんな風にマリアには見えた。


マリアが振り返ると、ランドローバーの窓からは興味津々とペグとベティが、下を覗き込んでいる。


追撃してくる者達を心配して見上げたアルフレッドにつられて、オーソンとブロディも暗く大きな天井を見上げた。


その天井の反対側から、何やら小さく炸裂音らしきものがしている。

おそらくこの天井を破壊しようと試みているのであろう。


「もってくれよ」というオーソンに


「かなり頑丈な造りだ・・・時間を稼いでくれるだろう・・・」とアルフレッド


下降を続けるエレベーターのフロアーは寒さが厳しくなってきた。

息を白くしながら、再びアルフレッド、オーソン、ブロディ、マリアが、先の見えない底へと振り返った。


その先行きの見通しが()かずエレベーターの流れのまま降る自分達の姿は、今の彼らの現状をよく現している様な気がして、4人は口を開く事なくしばらくの間立ち尽くしていた。


オーソンが気を取り直そうと

「まぁとりあえず順調ってとこだな、すぐに消えちまったが地図は頭に入ってるか?」と陽気に言った。

「あぁ、大丈夫だ。ポイントをおさえておいた」


「地図?」とブロディ

「あぁ、博士のラボまでの地図だ。意外と入り組んでいる」

頭に入りきらなかったのだろうオーソンが言った

「地図の紙ぐらい用意してくれていてもよかったろうに」

「いや・・・あらゆる痕跡も残したくなかったんだろう」と言いつつも、アルフレッドは(ふるい)にかけられている様な気がした。

実の孫でも来られなければ来ずともよい・・・と


”ゴトンッ・・ゴトンッ”と降下を続けるエレベーター全体を見渡しながらアルフレッドがつぶやいた。


「TMPは地下400m、傾斜角30度、時速5kmってとこか」


「約9分ですね」とマリアが即座に答えた。

この無防備なエレベーターに、約9分缶詰にならなければならないという事だ。


さすがだな、とアルフレッドが寒さに震えているマリアに笑った。


「ローバーに戻ろう。オーソン、ブロディ、ローバーで待機してくれ」

「おぅさ」

「了解」


ローバーに戻ったマリアは室内の暖かさにホッとしながら、出迎えたペグとベティに笑いかけた。

「おかえりなさい」というペグに

「ただいま」と笑顔で答える。


後ろでその様子を見守りながら、アルフレッドは微笑んだ。


出窓の様なランドローバーの下向きの窓からは、傾斜のある地下通路がよく見える。

シートに座りながら改めてその底を覗き見る。


博士はマリアに、地下で何をさせようと言うのか?・・・


火星を脱出する・・・その真逆な事をしている・・・博士が発明した物はどこにあるのか?・・・研究所はフォボスにある・・・なのになぜTMPに?・・・


国連の管轄下にあるTMPに、日本の”戦局を一変させるほどの強大な力を持つとても危険な物で、今の日本にとってなくてはならない物・・・”があるとは思えない。


結果的に見れば、彼らの火星脱出は不可能だった。あのまま真っすぐスペースポートに向かったならば、最悪の事態となっていただろう・・・ならば地下にこもって時期を待つのは正解だったと言える・・しかし・・・


と釈然としないなにかがアルフレッドの心を満たしていた。

とそこにマリアが話しかけてきた。


「ビーンさん・・・」


「なんだい?」

「祖父は、私にここで何をしろと言うんでしょうか?」


「発明したものが、南アメリカやAARFの手に渡る様なら破壊してくれ・・・という事だろうな」


「祖父の発明は間違いなくニュートリノに関するなにかです。破壊するには危険が伴うんではないでしょうか?」

「NPT・・圧縮ニュートリノ研究所・・・その詳しい研究内容は俺も知らんが、日本が国家の存亡をかけていたものだと聞いている・・博士もそれがとても危険な物だと言っていた。破壊するにはそれ相当の危険が(ともな)うと考えるべきだろうな」


「そんなところに皆さんをお連れしてしまっていいんでしょうか・・・」マリアは苦しそうに言った。


そんなマリアにアルフレッドは微笑みながら


「マリア、人は時として避けえがたい運命の奔流に見舞われるものだ・・・

もしかしたら私達を巻き込んでしまったと考えているのかもしれないが、それは違う。


時代や世界の濁流の中で我々は出会った。

人はそれを運命だとか、宿命だとか言う・・


そう言って片付けるのは簡単だが、安易だしあきらめの前提が俺は好かん。

誰にでも起こりえる窮地(きゅうち)や絶望・・そんな中で出会いの奇跡を大切にして、心を一つに協力しあい、もがいて、あがいて、生き抜く努力をする事こそ大切な事だ。


起きてしまった事を(なげ)き、過去を振り返り続けるのではなく、未来を見据えて、慎重に、時に大胆に行動するんだ。

必ず道は開ける。そう信じるんだ」力強く言うアルフレッドに、目に涙をためたマリアは


「はい・・・」と笑顔で答えた。


横でそれを聞いていたアリソンが

「マリア、あなたが嫌でも、もうあなたは家族の一員。家族は運命共同体よ。大丈夫!必ずなんとかなるわ、安心して」と笑顔で言った。


「はい!」とマリアは元気に答えた。


「もうそろそろ着く筈だ、オーソン、ブロディ」とアルフレッドはマイクで呼びかけた。

「解った」とブロディ。

だがオーソンの返信がない。


「どうした。オーソン」と心配になってアルフレッドは呼びかける。


「あ・・あぁすまん。ついウトウトしちまった」とオーソン

「どうしたらこの緊張状態で寝れるんだ?」とあきれてブロディが言う。

「休めるときに休む。それが生き抜くコツさ」


オーソンの神経の図太さに皆が笑った。

「はっはっはっははは。もう少しで着くぞシャキッとしろよ」とアルフレッド


「おぅさ!まかせておけ!」と元気に言うオーソンに、横からアリソンが


「SAS(Sleep Apnea Syndrome の略 :無呼吸症候群)かしら?」と真顔で心配した。

「あ・・(いびき・・・」とマリア。


「はっはっはっ!そんなんで死にゃしないさ」とオーソン

「いやいや、案外危険な症状らしいぞ、これを機にダイエットしちゃぁどうだ?」とアルフレッド。

「そうよ、下手をしたら死ぬ事だってあるのよ」とアリソン。


「オーソンさん死んじゃ嫌よ」とベティ。


「わかった!わかったよ。ダイエットすればいいんだろう」とオーソン。


「酒はやめんがな・・・」と付け加えた後

「しかし静か過ぎやしないか?」と言った。


真顔になってアルフレッドが

「確かに・・ブロディなにか見えるか?」とBRのカメラ映像に期待して聞いた。


見上げるブロディが意識を集中すると今や遠く離れた天井がズームされる。

暗く梁がめぐらされたそれは、不気味なほど静かだった。


「特に異常は見られ・」と言った時、その天井が爆発した!


炎が噴き出し、暗い地下通路内が一瞬明るくなる!

破片が落ちる音が通路に響き渡った。


それを(にら)みつけたブロディが言った。


「ちっ、破りやがった!くるぞ!」



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