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火星の雪  作者: 上泉護
27/42

占領の街

そそり立つ岩壁に突き出した岩々へ、雪を被らせた峡谷の奥に細長い街が伸びている。


その手前の開けた場所にはアルフレッドとオーソンが最初に来た時にはいなかった、角が取れたようなAARFの揚陸艇と全体的に丸くずんぐりしたBR達が、ひしめき合いながら街を占領する準備を進めていた。


武装しているブロディのBRをランドローバーとカーネリーで挟むように隠し、それらの隙間をすり抜けていく。


動き出すな・・・動き出すな・・・と念じながら運転するアルフレッドの視界は、カーネリーとブロディのBR以外の無秩序な世界が高速で後方へと流れ去る。


しかしそのアルフレッドの願いもむなしく、AARFのBR達が動き出した。


数機のBRが振り返り発砲し、追撃に移ったBRも挟み込む様に撃ってきた。

前後左右から降り注ぐ弾丸の何発かがオーソンのカーネリーに当たった。


「大丈夫か?!オーソン!」


「あぁ!大丈夫だ!風通しがよくなって少々涼しくなっただけだ」

四方八方から撃ち込まれる弾丸は容赦なく彼らを襲う!

3台は連なり回避運動を取りながら、セントラルタワーへと疾駆する。


ランドローバーはタイヤを滑らせ左にドリフトしながら、炎上している建屋の横をすり抜けてメインストリートに入り、カーネリーとブロディのBRがそれに続く。


ストリートに駆け()った彼らは、遮蔽物(しゃへいぶつ)の無い直線道路が続き、脇には巨大な重機が鎮座し、その先にセントラルタワーがそそり立っている遠景を見ながらアクセルを踏み込む。


追いかけメインストリートに飛び込んできたBRが銃撃してくる。

アスファルトに着弾し飛びぬける弾丸が彼らに降り注ぐ。

通りの横の巨大な重機に跳弾(ちょうだん)が当たり、その振動で積もった雪が落ちた。


”街中にはまだAARF軍が入り込んでいない・・・行ける!”それはギリギリのタイミングだった。


狙いをつけられない様に右に左へと狭い道路を蛇行しながら走り抜けるが、それにも限界があった。

”ガンッ”と大きな音と衝撃が室内に響く!

ランドローバーのどこかに弾が当たったのだ。


ペグが悲鳴をベティが歓声を上げる。

ブロディが速度を落とし背面走行になり反撃を開始した。


「足止めする!準備をしていてくれ!」


「死ぬなよ!」と言うオーソンに

「少しでいい!すぐ追いつけ!」とアルフレッド


ブロディは建屋の陰に走りこむと、身を隠し追ってくるBR達に反撃する。


重機関銃を撃ち込む振動がBRの腕を震わせ、弾丸が追尾してきたBR達に降り注ぎ、数機に命中火花を散らす!


大きなバックパックの様な物を背負ったBRがそれを(かわ)そうと横を向いた時、そのバックパック下部に命中し爆発炎上した!


炎が飛び散り周囲へ散乱する様子を見て


”火炎放射器のタンクか?・・・”ブロディは思った。


その炎に足止めされる様に、追撃してきたBR達の足が止まる。


機関銃をリロードしながら油断なく確認するスクリーンに、数機がその炎を避ける様に回り込み攻撃してくる様子が映る。


ブロディが潜む建屋の一部が吹き飛び破片を撒き散らす。

ばらばらと降ってくるほこりと破片の中でブロディは見た。


炎の中、黒いBR10数機がAARFのBRを破壊し、串刺しにしながら後方から現れる姿を・・・


”あいつらか・・・”


一機が大きなランチャーでブロディの隠れ潜む建屋に照準を合わせた。

ブロディが飛び出すのと同時に建屋が吹き飛び爆破される。

逃げ出した人々の姿を見て、ふとブロディはマリアと初めて出会ったスペースポートを思い出した。


ブロディのBRに銃弾が集中し、我に返る。


ブロディは背走しながら、串刺しにされ動かなくなっているAARFのBR火炎放射器タンクに狙いを定め銃弾を撃ち込む!


爆発し再び炎が立ち上がる!


その大きな火柱をものともせず、火炎の中を黒いパニッシャー達が歩いてくる・・・


その姿は炎の熱に揺らめき、蜃気楼さながら地獄から這い出して来る不気味な使者の様にブロディには見えた。


背走し反撃するブロディはセントラルタワーへと向かう。


そこに正確な銃撃が降り注ぎ、”ガンッガンッ”と数発当たり激しい振動と共にスクリーンが一瞬明滅した。



その頃アルフレッド達はセントラルタワーの足元まで来ていた。


今はもう誰もいなくなっていた窓口の前で、大きなスリップ音をたてながらランドローバーとカーネリーを急停止させ、アルフレッドとオーソンが飛び降りて来る。


窓口横の扉から駆け入った二人は、巨大なシャッターの開閉スイッチを探した。


「どれだ!?」とオーソン


窓口横のボックスを開いたアルフレッドが

「これだ!」とボタンを叩く。


セントラルタワーの壁面にあるシャッター上部のパトライトが回転し、危険を告げる音声が流れた後、

巨大なシャッターが音をたてながらゆっくりと上がり始めた。


いらいらするほどゆっくり上がっていくシャッターを見ながらアルフレッドが

「ローバーをエレベーターに乗せるぞ」と言い、二人はローバーへと駆け向かう。


アルフレッドがローバーに乗り込むと、アリソン、マリア、ペグ、ベティが驚きながらセントラルタワーを見上げている。

嬉しそうに見ているベティの頭を撫でながら、

「舌を噛むから口を閉じていなさい」と言い、シートに飛び込むとアクセルを踏み込んだ。



縁石に乗り上げながら勢いよくランドローバーとカーネリーはエレベーターへと乗り入れ、エレベーター内にタイヤのスリップ音を響かせ停止させる。


アルフレッドはすぐさま再びドライバーズシートから立ち上がると

「マリア、一緒に来てくれ」と言って外に駆けだして行く。


ランドローバーとカーネリーを載せてもまだ余裕のあるエレベーターの天井は高く、タワーのほとんどがこのエレベーターの為の物になっている事が解る。


”なにか”を探し、フロアの淵まで走ってきた彼等の視界の先には、30度程度の傾斜をもった不気味なほど巨大な地下通路が漆黒の地底へと下っていた。

それはエレベーターと言うより、ケーブルカーに近い物だった。


アルフレッドの視界の隅に、フロアの下に突き出したエレベーター全体に比べると小さすぎるほどの、コントロールルームの様な物が見えた。

フロアの端にそれに入る階段がある。


「マリア、こっちだ」とマリアを促しエレベーターの左端にある階段まで走る。


階段を降りると狭いながらも3人が入り込めるボックスの様なコントロールルームがあった。

冷たい金属臭がする室内にある窓からは、目も(くら)むほどの傾斜が真っすぐ下まで伸びていて底は暗く見えない。


一瞬たじろいだマリアの横で、アルフレッドが”ガチンッ”と大きなレバーを押し込んだ。

するとエレベーターのいたるところでライトが点灯し、操作パネルに電源が入る。


コントロールパネルはいくつかのボタンが点灯し、液晶には数字が、画面にはカメラ画像が浮かび上がっていく。

おそらく数字は積載重量や下降深度、温度などを表し、幾つかの画面は、エレベーターの死角を映し出し安全を確認する為のものなのだろう。


その中で三人はナカオカ博士が残したであろう何かを探す。

しかしなかなか見つける事が出来なかった。


「ない・・な・・・」とオーソン

「いや、必ずある。探すんだ」とアルフレッド

時が無常にも過ぎていく、マリアはブロディは大丈夫だろうかと心配しながらも、あちこち探した。


「マリアだと認識させるシステム・・・」アルフレッドは考える。

マリアはコントロールパネルの右下に貼り付けてある、このエレベーターを造った会社であろうロゴに目を止めた。

そこには”TUGE Heavy Industries ”(柘植重工業株式会社)と書かれていた。

「これは・・・」

「どうした?」とアルフレッド

「父が生前務めていた会社です」マリアは何かを思い出したかのように

”TUGE”の”U”の字の間に指を入れた。


「私が幼い頃こうやってよく遊んでいた時、祖父がフィヨルドと環境破壊の話をしてくれました・・・日本ではU字谷と言って・・・」それは数少ない祖父との記憶だった。


その言葉を遮る様に、”ピンッ”と機械音がし、”指紋認証マリア・ウィンフィールド確認”とアナウンスされる。

ロゴの下からイヤホンが入った小さな引き出しがスライドして出てきた。

マリアはアルフレッドを見た後、それを耳に入れると、祖父の声が聞こえた。


恐らくカメラか熱センサー、もしくはその両方で感知して、確かにマリアが耳に入れた事を確認してのガイダンスなのだろう。

「今マリアの周りにいる人達は敵かい?もしそうならば「はい」と答えて、名前を聞かれたと言いなさい」


「いえ、味方です」マリアは答える。

音声認識で返答する仕組みなのか、室内に声が響いた。

「ありがとう、皆さん。ご助力に感謝します」と言った後、時間が惜しいとでも言うかの様に、すぐ本題に入った。

「マリア、このまま最下層まで行くんだ・・・最下層の扉が開きしばらく真っすぐ進み、地図に従って行くと私のラボがある」

画面の一つが地図に切り替わった。

それを3人が覗き込み確認する。

「そこへ向かうんだ。急いでくれ・・・」


その途中、激しい銃撃音が外からし、ブロディのBRがタワーへと向かってくる姿が見える。


シャッターが自動で降り始めた。

「待て!ブロディがまだだ!」

アルフレッドがボタンを叩くが反応しない。

「待って!まだ来ていない人がいるの!」叫ぶマリアの声は爆音に遮られた。


降り始めたシャッターに、高速で駆け向かいながらブロディが

「ギリギリか・・・」と呟く。

パニッシャーからの銃撃が降り注ぎ、足に当たり一瞬ふらつく。

ブロディは態勢を立て直しふらつく様に疾駆しながらシャッターへと突っ込んでいく!

身を屈める様に縁石を飛び越える!


「行け!」と


ブロディはわずかな隙間にBRの頭から飛び込んだ。

金属をこすらせる嫌な音をたて、跳ねるように横に転がりながらエレベーターに飛び込んだブロディのBRは、カーネリーの足にぶつかり突っ伏し止まる。


閉まりきるシャッターを背に、立ち上がるブロディのBRに向かって階段を上がってきたオーソンが

「すまんブロディ!自動でしまっちまった!」と言った。


「勘弁してくれよな」とブロディにしてはめずらしく、笑いながら言った。


「でどうなった?」とBRの背面ハッから顔を出しながらブロディが聞いた。

「このまま最下層まで下って、博士のラボに向かえとの事だ」とアルフレッド。


とその時、”ゴトンッ”といってエレベーターが動き出した。


ゆっくり降りるエレベーターの、傾斜のきつい大きな地下空間で少し緊張が解けたブロディが大きく息を吐いた時、エレベーターの巨大な天井がゆっくり閉まっていった・・・






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