D小隊
雪を被り岩壁がそそり立つ峡谷の底を、3台のローバーが走っている。
速度を落とし待っていたランドローバーとカーネリーに追いついたブロディのBRへ
「ブロディ!たいしたもんだ!」と窓を開け、オーソンが叫んだ。
「これで全部片付いた。追手の心配はない」とマイク越しに言うブロディに
「いや、安心するのはまだ早い。AARFの事もある。このままセントラルタワーに向かうぞ」とアルフレッドが言った。
ランドローバーとカーネリー、ブロディのBRは並走しシリングタウンへと疾駆する。
散々追いかけまわされた奴らをなんとか黙らせてやったという満足感から、ブロディはふと迷路の様に切り立った岩壁を何気なく見上げた。
すると遥か上空・・・雲一つない蒼天に、幾筋もの赤い炎が火星の大気に雲の線を引いている・・
それは一定の高度に達すると突入の速度が落ち、その輪郭が黒い点々の様に浮き上がった。
目を凝らしたブロディの前のスクリーンが自動でアップされる。
それは四角い箱のような形をした人工物が、逆噴射をし制動をかけている姿だった。
「空を見ろ!」とアルフレッドとオーソンにブロディが言う。
アルフレッドは下向きのフロントガラスから、上空を覗き込む様に見上げた。
「AARFの大気圏突入揚陸艇か!?」アルフレッドがうめくように言った後、3人は一瞬言葉を失った。
空一面を覆う様に黒い点が続々と現れ、それは明らかにシリングタウンを目指し降下してくる。
その黒い点々が覆う下に駆け込もうとしている無謀さを、三人は嫌でも感じざるを得なかった。
オーソンが最初に空を見上げながら
「早かったな!TMPは諦めるか?プランCか?」と言う。
プランCはTMPもスペースポートへ向かうのも諦め、火星で隠れ潜み時期を待つというものだ。
一番避けたかったプランだが、あまりにも進駐軍が早すぎた。
しかしアルフレッドは力強く否定した。
「いや、このまま行く。駆け抜けるぞ!」
それはナカオカ博士の遺言・・・
” セントラルタワーのエレベーターに乗れ ”と言う言葉に一縷の望みをかけたからだ。
「了~解!」オーソンはただ、このまま引き下がってはなんの謎の解明もできないと快諾し
「へへ・・そうこなくっちゃな」とブロディは独り言ちる。
雪を散らし3台は並走しながらシリングタウンへと疾駆する。
峡谷の先に見えてきたシリングタウンの上空には、いまや肉眼でもはっきり見る事が出来る揚陸艇が無数に浮かんでいる。
数えきれないほどの数だ・・・
ベティ以外の全員が緊張を隠せない。
しかしベティだけは楽しそうに見上げていた。
アルフレッドはローバーを走らせながら覗き込む様に上空へ目をやると、一機の揚陸艇が間近まで迫ってきているのに気が付いた。
その揚陸艇の直線的なフォルムは、他の揚陸艇と違いアメリカ的だった。
「あれは・・・AARFじゃないぞ・・・」
その揚陸艇の後部ハッチから、着陸途中であるにも関わらず数台のBRが飛び降りて来る。
深くBRの膝を折り体全体で衝撃を吸収し、態勢を直しながらBSBでなめる様に疾駆する。
その飛び降りてきた黒いBRの、左腕の赤いハーケンスピアが通常の2倍近くあった。
「あれは・・パニッシャー・・・D小隊か・・・」アルフレッドはうめいた。背中に冷たい汗が流れる。
「なんだあいつらは?」ブロディもその姿にどこか異常を感じ機銃を向けた。
それを制する様にアルフレッドが
「ブロディ!そいつらにかまうな!真っすぐTMPへ行くぞ!」と叫んだ。
「かまうなったって、撃ってくるぞ!」
「そいつらはAARFじゃない!南アメリカのD小隊だ!」
「だから!?」
「いいから!ついてこい!」と右に旋回する。それにオーソンのカーネリーが続く。
「了解!」とブロディは半分怒る様に応えると、カーネリーについて行きながらアクセルを踏み込んだ。
そこにパニッシャーから機銃掃射を受けた!
銃弾がブロディのBR横を空気を切り裂き雪と赤い土を巻き上げ駆け抜ける。
「かまうな!」とアルフレッド。
その正確さにブロディは旋回を続け避けねばならず、狙いを定められない。
「こいつら・・・今までの奴らとは段違いだ」とどこか嬉しそうなブロディがつぶやいた。
アルフレッド達が向かうその先にはAARFの揚陸艇が着陸し、無数のBRが後部ハッチから出てきている。
攻撃意志がない事を解らす為に、大きく迂回する。
AARFのBR達は機銃を向けたものの、攻撃の是非を上官に問う様な間が生まれた。
アルフレッド達はその脇をすり抜けていく!
AARFのBR達は突然の事に驚き、攻撃を受けた訳でもないので彼らを見過ごし、アルフレッド達は駆け抜けていく!
が、後方から切迫するパニッシャー群の、異常な程の圧力に気が付いたAARFのBR達が、危険を感じ即座に攻撃を開始する。
壮絶なAARF軍と南アメリカ軍との戦いが始まった。
AARFのBRは特徴的なフォルムをしているので、振り返り見ながらベティが言った。
「カエルみたい」
彼等からは南アメリカ軍に攻撃するAARFのBR達の背を見る形となった。
激しい銃撃戦が始まり弾丸が飛び交う。
突っ込んでくるパニッシャーの群れを囲むように散開するAARFのBR達。
明らかに戦い慣れしたAARFのBRに無駄な動きはなかった。
しかし・・・その入り乱れた戦場は一方的な戦いとなった。
次々とAARFのBRが破壊されていく。
速さも、射撃の正確さも、格闘能力も桁違いだった・・・
至近距離から弾丸を何発も撃ち込まれ、踊る様に倒れるAARFのBR。
その様子をブロディは振り返り見た。
後ろ向きに銃を乱射していた一機のBRの背中から、血まみれのハーケンスピアが突き出した。
コクピットを串刺しにされたのだ。
あれは、パイロットの血か・・・
視線を前に戻しながらブロディが
「あいつら何者なんだ?」とアルフレッドに聞いた。
「あいつらはD小隊だ・・・あいつらだけでマガダン艦隊を壊滅させたんだ・・・うわさではゲノムエディスィング(ゲノム編集)され、薬漬けで正気を保っていないとも言われている」
一機のパニッシャーがAARFの囲みを突破し、アルフレッド達を猛追してきた。
「おやっさん!先に行ってくれ!」とブロディ
「だめだ!やめろ!死ぬぞ!」とアルフレッド
ブロディはパニッシャーに突っ込んでいく!
「ブロディ!戻って!」とマリアが悲鳴に近い声を上げた。
シリングタウンの入り口近くは、数えきれないほどのAARFのBRがひしめき合っている。
背面走行しながら機銃掃射するブロディのBRは、彼等の目には友軍と映ったらしい。
ランドローバーとカーネリーの前に道ができる。
凄まじい速さでブロディの弾丸を避け切迫してきたパニッシャーがブロディの視界から消えた。
”ガンッガンッガンッ”凄まじい音と振動がし、破片がコクピット内を飛び交い、ブロディの右足に刺さる。
速い!今まで襲ってきた奴らとは、そのスピードも正確さも違う!
凄腕だ!
「へっ!」ブロディは凄惨な笑みを浮かべた。
ブロディの死角へ死角へと回り込みながら切迫してくるパニッシャーに、ブロディはついていけない。
背面からハーケンスピアでコクピットを串刺しにしようと突っ込んだパニッシャーは、屈みこむ様に右足を後方へ投げ出したブロディのBRに足を払われ、回転しながら派手に転倒し転がった。
「やろう!」パニッシャーのコクピットで、まだ若いパイロットが狂気じみた怒りを爆発させ、大地にスピアを叩き込み回転を止めると瞬時にBRを起き上がらせる。
「許さねぇ!串刺しにしてやる!」
交信している訳ではない二人は、それぞれのコクピットで独り言を叫ぶ。
「おまえらとは喧嘩の年季が違うんだよ!」ブロディが吠える。
血を好むD小隊の若いパイロットとの戦いは、幼い頃から喧嘩に明け暮れたブロディの戦いと、見事に合っていたと言えた。
瞬時に立ち上がり凄まじい勢いで突っ込んできたパニッシャーは、ブロディのBRにハーケンスピアを打ち込んでくる。
その左腕をわずかに機銃で払い狙いを外させる!
ブロディのBRの右肩を巨大なスピアが火花を散らしかすめる!
金属をこする嫌な音がコクピット内で反響する!
「へっ!おもしれぇ!」逆にスピアを撃ち込む!
それをしゃがみこむ様に躱したパニッシャーが、低い位置から機銃を乱射する!
上空へ撃ち込まれる弾丸を、回転しながら左へと避け、回転しながらパニッシャーに銃が向いた瞬間に弾を撃ち込む。
数発がパニッシャーに火花を散らし命中した。
「くそがっ!!」コクピット内で涎を撒き散らしながら若いパイロットは叫んだ。
ブロディはその回転の勢いのまま回し蹴りをパニッシャーにくらわす!
勢いよく蹴られたパニッシャーは吹っ飛んだが、瞬時に態勢を整えるとBSBで逆走し距離を取る。
「くそがぁあああああ!!!」
そこへ正確なブロディの弾丸が着弾し飛びぬける。
それが右足付け根にまとめて当たった。
”ガクンッ”と姿勢を崩したパニッシャーが遠ざかっていく。
「追うなブロディ!ついてこい!」とアルフレッド
「了解!」ブロディは踵を返し、ランドローバーとカーネリーを追った。
それを遠くに見ながら、若いパニッシャーのパイロットは狂った様に叫んでいた。
「許さねぇ!許さねぇ!!殺してやる!殺してやる!殺してやるぞぉ!!!」
その横に並ぶ様に追いついたパニッシャーから
「けっ!マッケンジーニざまぁねぇな!」と話しかけられた。
「うるせぇ!!グレン殺すぞ!!」
「なんだと!てめぇ・・やろうってのか?」2機のBRの間で殺気が噴きあがっていく。
「やめろっ!二人とも!作戦行動中だぞ!エンプ(皇帝:エンペラー略)!止めてくれ!」とマーク・カーター大尉が揚陸艇のコクピットから別のパニッシャーに頼んだ。
一台のパニッシャーが凄まじい速さで2台の間に滑り込み、それぞれの急所にピタリと照準を合わせる。
「くっ・・・」喧嘩をしていた二人は、冷や汗をながしながらうめいた。
「わかったよ・・あいつらを追えばいいんだろう・・・」とマッケンジーニ
「くそがっ・・」二人にとっても”皇帝”は特別な存在で有る様だ。
マッケンジーニはコクピットで皇帝のパニッシャーを一瞬にらんだが、
正面のスクリーンに向き直ると追撃に移る。
その姿を見ながら、マーク・カーター大尉は考えていた。
”あいつ・・何者なんだ?・・・
ただの汎用機に過ぎないBRT-48で、あのマッケンジーニと互角に渡り合った・・・”
研究者でもある大尉は、研究材料としての興味をブロディに対し持ち始めていた。
彼の目には”類稀なる被検体”と映ったらしい。
AARF軍の中をすり抜け走り去るブロディのBRを、大尉はいつまでも目で追っていた。




