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火星の雪  作者: 上泉護
24/42


ペグとベティがマリアの手を引っ張って、楽しそうに晴れ渡る雪原に飛び出して行くその後を嬉しそうにケイティが追いかける。


更にその後からBRのコクピットを壊して動けない様にしておこうと、ローバーから降りて行くアルフレッドにブロディが声をかけた。


「親父さん」


「親父さん?アルフレッドでいい。なんだ?」


「あのBR、俺に任せてくれ」


アルフレッドは一緒にローバーから降りてきていたオーソンンと目を見交わした。


「だめだ、危険だ」いくら図体がでかくても、まだ十代の青年だ。危険な目に合わせられない。


「あいつらには借りがあるんだ」と言って、肩を指さした。

「それに今更危険だと言われても、もう遅い」


「まぁ、それはそうだがな・・・」オーソンがしぶしぶ認めた。


「手駒は多い方が切り抜けられる可能性も上がる筈だ」


アルフレッドはちょっと考えると、予断を許さないこの状況下ではブロディの言う事の方が正しい。と考え直した。

「・・・・解った任せよう。だが無茶をするなよ」


「解ってるよ。練習する時間をくれ」


アルフレッドはBRに目を移しながら

「よし、簡単だがレクチャーしよう」と言い、岩陰のBRに歩いて行く。

どういう意味なのか、オーソンが手のひらを上に向け首を傾げニッと笑った。

おそらく、”この男はなんでも知ってるな、俺にはお手上げだよ”という意味だろう。


ニヤッと笑ったブロディがアルフレッドについて行く。

オーソンもマリアも一緒に歩き出した。

それにつられて遊んでいたペグもベティもケイティも楽し気について行く。


皆が見上げたBRは、全体がオリーブグリーン一色で国籍を示す物や部隊マークなどは一切(いっさいついていない。

ブロディはそれをしみじみ眺めた。

挿絵(By みてみん)

散々追い回された嫌な機体である。

追われる様にこれに乗り走らせてはいたが、改めてゆっくり眺めると、今はただ静かに重機関銃を手に持ち立っている姿が不思議な気分だった。


アルフレッドが

「みんな下がっててくれ」と言いBRのコクピットへ登って行った。


コクピットに入り始動スイッチを回す。

軽い振動とモーター音、油圧がかかる音と共に、コンピューターが立ち上がり正面に文字の羅列が表示される。


BRの背から顔を出したアルフレッドが


「ブロディ、上がってこい」と呼んだ。


ブロディがBRによじ登り、スライドした背からアルフレッドのいるコクピットを覗き込む。


「これは知っていたか?と言って、コンソールパネルの下からヘルメットらしき物を取り出した。

頭を防御するというよりは、頭全体を覆いながらも動きを束縛しない様に耳当てと後頭部部分が切り離し可能と思われる様な形状だ。


「それは?」


「ブレインマシンインターフェース、略してBМIだ」アルフレッドは自ら被って見せた。

シートの後ろからコードを延ばして、ヘルメットのソケットに端子を差し込む。

「ノイズを拾わない様に有線になっている。接続し忘れるな」


「なんの為の物なんだ?」


「機械に脳のイメージを伝える物だ。操作の手助けをし、細かい動きを可能にする。宇宙仕様の物はスーツにフィードバックされて、感覚を再現されたりする」


ブロディは興味津々と改めてコクピットを見渡した。


「それは?」と操作スイッチやスティックが並ぶ中にある金属の部品を指さした。

数字が刻まれて回転する様になっているリングのようだ。


「残弾数だ。スクリーンが故障した場合や破壊された場合の補助的なものだ」と言って、正面のスクリーンを手で下げて、その先のハッチを開いた。

するとそこはそのまま機外になっていて、BRの外から手を入れれば、そのまま手を握れそうなぐらいだ。


「全ては最悪の事態に備えての緊急対処用だよ。スクリーンが壊れたらBRは盲目になってしまう。残弾数も解らなくなってしまったら致命的だ。その為の物だ。

BRに乗り込むときは面倒腐らず必ずセットし直せ。それが生死の分かれ目となる」とアルフレッドはブロディにシートを譲った。


「解った・・・」ブロディはそれが死線を潜り抜けてきた男の言葉の様に思えた。


「アルフレッド・・・あんたは・・・」詳しく聞くのも(はばか)られたブロディは(うめ)く様に言った。

そんなブロディにアルフレッドは


「昔船乗り(宇宙船乗り)だったのさ・・人手不足だったからなんでもやったんだ・・・」と短く、しかし誠意を込めた一言で答えた。ブロディにはそれだけで充分だった。


「そうか・・・これは?」とさりげなく話をそらした。

アルフレッドにも、そのブロディの心は染みるように解る。

信用できる人間・・・それ以上の心の共鳴・・・” 友 ”言葉では言い尽くせない感情は当人同士にしか解らないものだろう。

アルフレッドもブロディも、お互いの存在をかけがえのないものと感じた瞬間だった。


「あぁ、これはな姿勢制御レバーだ。これが方向操舵の操縦桿。右と左にあるのが左右の手を動かすスティックだ」アルフレッドは自分がかぶっていたBMIを、ブロディにかぶせた。

「しばらくじっとしていろ、お前の脳波を読み込ませる」とアルフレッドはパネルをタッチした。


” Electroencephalogram Scan ”(脳波走査)の文字が浮かびあがる。

開始の”Yes”をタッチすると

” 右手を振り上げて、打ち下ろすイメージをしてください ”などと次々と表記される。

ブロディは現れる指示メッセージ通りイメージを繰り返す。


” 終了しました。官、姓名をどうぞ ”が現れるまで10分ほどかかった。

ブロディはアルフレッドに向かってニヤッと笑うと


「軍曹、ブロディ・ベイル」と言った。

”ようこそ、ブロディ・ベイル軍曹”

「ベイル軍曹か、そりゃいい!」と言ってアルフレッドが笑い、ブロディも笑う。

ブロディはマリアは別にしても、人に対しこんなにも自然に接することができる自分自身に驚いていた。


「BRの移動は、基本足の裏のBSBブレードソールベルトで移動する。歩く走るは操縦桿を握らないと操作できない。それらの補助をするのがBМIだ」

アルフレッドは五つのセンサーをONにし、機体の状態をチェックする。


「問題なしだ。動かしてみろ。アルフレッドはBRから降りながら

「みんな離れるんだ。ハッチを閉めろ」と言った。

ブロディが沈む様にBRの胸に滑り込んでいく。


スクリーンに外の景色が映し出される。

みんなが心配そうにBRを見上げている。

いや、ベティだけは楽しそうだ。

ケイティが” ワンッワンッ ”と吠えているのをマイクが拾っている。


「いろいろやってみる」とスピーカー越しにブロディの声が外に流れた。


「その集音マイクと外部スピーカーは、それぞれオンオフが可能だ」


「了解」というと、BRがゆっくり歩き出した。

少し離れると、BSBで滑走する。

スピードが上がると機体が重心を低くしていく。

前回乗り込んだ時は一緒にマリアも乗っていた為、無茶な操作が出来なかったが今は違う。

操縦桿を右に左に倒し旋回を繰り返す。

雪を散らし雪原に二本の線をひきながらBRは疾駆する。


操縦桿を戻すとアクセルを思いっきり踏み込んだ。

体がシートに押し付けられる。やはりWRとは段違いのパワーだ。

左旋回しようと操縦桿を左に倒すと、バランスを崩して右に吹っ飛んだ。

ごろごろと回転しながら30mほど雪原に筋をつけながら止まった。

BRの上体を起こした時、ふと思うところがあった。


再びアクセルを思いっきり踏み込み加速する。

今度は姿勢制御レバーで機体を傾けさせてから、操縦桿を左に倒す。

体がすごい力で反対側に引っ張られ、機体が”ガタガタ”といい始める。

吹っ飛ばされそうになるのを、操縦桿と姿勢制御レバーで調整する。

それを右旋回、左旋回と何回か繰り返すうちに要領がつかめてきた。


ローバーに戻り、窓からそれを見ていたアルフレッドがアリソンに

「あいつは頭じゃなく体で覚えるタイプだな・・・」と言った。


しばらくBRを乗り回していたブロディだったが、エネルギーを無駄に消費しては・・と前回の”ガス欠”を思い出し、早々にきりあげるとランドローバーの元に帰ってきた。


荷台のアルフレッドとオーソンがそれを迎えた。

「ランドローバーの荷台にBRを乗せろ」とアルフレッドが声をかける。


「了解」と素直にランドローバーの後ろから荷台によじ上った。

荷台に上がり、視点が高くなったBRの視線の先に、近づいてくる何かが見える。

スクリーン上に目を凝らすブロディの脳波を読み取ったBМIが自然とズームする。

それは2機のBRの姿だった。


距離にして3km。


「親父さん!まずい奴らだ!こっちに真っすぐ向かってくる!」

荷台で作業していたアルフレッドは


「だからアルフレッドでいい!何機だ!」

「2機だ!」

「オーソン!カーネリーに戻れ!」


「おぅさ!」オーソンがカーネリーに駆けていく。


「やり過ごすのは無理だ!シリングタウンへ向かう!ローバーから振り落とされるなよ!」


ローバーに駆け入ったアルフレッドは、

「追手が迫ってる!全員シートベルトをつけろ!」

楽し気に話していた女性陣は、急いでアリソンがベティを座らせ、シートベルトを装着する。

マリアとペグはシートに座りベルトを装着する。


アルフレッドがドライバーズシートに滑り込むと

「出発する!オーソン準備はいいか?」


[いつでもいいぞ!]


動き出したランドローバーの中で

シートベルトを装着しながらアリソンが

「見つかったの?」と聞いた。


「見つかった!シリングタウンへ向かう!」


ランドローバーの巨体が徐々にスピードを上げていく。


ランドローバーの右前方に着弾し、赤い岩を巻き上げた。

”バチバチ”とフロントガラスに石が当たる。


「くそっ!奴らめ!」

ランドローバーが大きな岩に乗り上げ、室内が大きく揺れた。

ベティが楽しそうに歓声を上げる。


ブロディのBRはランドローバーの荷台で後ろ向きにしゃがみこむと、応戦する武器が無いかコクピット内を探した。

拳二つ頭の上に、取っ手があるので試しに引き下ろした。

ちょうど目に当てられる高さに降りたそれの中にはスクリーンがあり、外の景色の中心に照準があった。

その箱の様なバイザーの両側にはグリップが立てられている。


それを持ちやすいように横にすると”カチッ”と固定される。

外では頭部の折り畳まれた砲身が、”ガツンッ”接続され伸びた。


左右のグリップをそれぞれ両手で握り、上下左右に動かす。

すると頭部の砲身が上下に動き、砲座が左右に旋回した。


雪原を雪を跳ね上げ滑走し近づいてくるBRに照準を合わせる。


ブロディはローバーの振動を読みながら


「喰らえっ!」とトリガーを引いた。









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