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火星の雪  作者: 上泉護
22/42

セントラルタワー


そそり立つ岩壁に突き出した岩々へ、雪を被らせた峡谷には細長い街が伸びていた。


TМP埋設工事に従事している何千という工事関係者達の新しい街は、

峡谷に沈むように・・・どこか不思議と(さび)れた感じがした。


カーネリーを徐行運転させている二人の前には、資材置き場に山積みにされた様々な資材や、メンテナンスを待つ巨大な重機が雪を被り静かに(たたずんでいる。

それらの足元にはストリートを挟む様に飲み屋街が立ち並び、多くの人々を支える種々の商店が点在していた。


工事関係者の家族だろうか、数人歩いている。

アルフレッドの目に、赤い服を来た中年の女性が目についた。

子供を連れ歩いている。


ペグと(おな)(どし)ぐらいか・・・と思われる男の子二人だ。


嬉しそうに雪へ自らの足跡を刻む男の子達が通り過ぎた場所には、仕事にあぶれた老人なのか、雪を避け資材の下にうずくまっていた。

比較的暖かい時刻ではあるが、初冬に入った火星の寒さは厳しい。

アルフレッドは振り返り目で老人を追いながら、

大丈夫だろうか・・・と心配した。


よく見ると・・・帰る家のない浮浪者が多くいて、必要最低限の身の回り品を引きずる様に歩いている。


やはりそこにも・・・火星の厳しい現実が、美しい雪にも覆い隠す事ができず露わになっている・・・


そんな風にアルフレッドは感じた。

四角いボックスを積み上げた様な建屋が立ち並ぶ街並み・・・

その先には飛行機の尾翼を思わせる瀟洒(しょうしゃ)なビルが、雪を被る事無くそびえ立っている。


それはまるで・・・低所得者達を見下(みくだ)すかのようだった。

またそう思う施政者達は間違いなく存在した。


「こりゃぁ・・また・・・」オーソンがうめく様に言った。

支配権力を連想させる物が嫌いだったからである。


そんな街並みを眺めながらカーネリーを進める二人の上空には、岩壁と岩壁の間に透き通る蒼い空が見える。

その蒼い空に向かってそそり立つセントラルタワーの足元まで来た。


タワーの向かいには、岩盤をくり抜いた広い駐車場があり、そこにはランドローバーや、ワークローバーが数台停車している。


「気に入らんな・・・」オーソンが言った。

「まぁそう言うな。奴らがどこかで見ている可能性がある。怪しまれない様に最初に窓口へ行こう」


二人はカーネリーを降りると、仕事を探しに来た労働者の様に振る舞いながら・・と言っても、当初そのつもりでここを目指していた訳なので、彼らの服装や立ち居振る舞いはごく自然で、興味津々とセントラルタワーまで歩いて行く農夫の様に傍目(はため)からは見える。


近代科学の(すい)を集めて建築されたビルと、通り過ぎてきた寄せ集めた箱の様な住宅街とは明らかに異質で、所得格差を嫌でも感じさせる。


セントラルタワーの側面には、黄色と黒のラインで縁取りされた巨大なシャッターがあった。

それは巨大な重機や資材を地下に搬入する為のエレベーター入り口であり、街の中央を縦断するメインストリートからそのまま入れる様になっていた。


アルフレッドとオーソンは、そのセントラルタワーの側面にある巨大なシャッターの右隅下の横に、小さな看板と窓口を見つけ歩いて行く。

その看板には”WANTED!!”(急募)と大きく書かれた看板が設置されていて、周りには数人の男たちが声を張り上げ文句を言っていた。


「どうして募集が突然打ち切られたんだ?訳を教えてくれ!」

一人の男が窓口で大声を上げている。

窓口の男が、

「我々も知らされてないんだ、明日また来てくれ!情報が入るかもしれない」


「俺達には死活問題なんだ!そんな悠長にしてられるか!責任者を出せ!」


「いい加減にしろ!募集はあくまでも募集だ!応募定員が満たされれば打ち切られるのは当たり前の事だ!」

受付の男もとうとう切れてしまった。


男は持っていた地図らしき物を地面に叩きつけると立ち去って行ったが、まだ十数人の男達がどうしたものかと、それぞれ顔を突き合わせて話している。

そこにアルフレッドとオーソンが歩いて行った。


すると、そこで立ち話をしていた男が振り返り話しかけてきた。


「あんた達も仕事目当てか?」


「あぁ、そうだ」とオーソンが受けた。


「まったくとんでもない話だ!俺なんかわざわざニューボストンから来たっていうのに、募集打ち切りだなんて!これからどうすりゃいいんだ!」


大声で誰かに現状を打ち明ければ、少しでも心が安らぐかの様に男は言いつのった。


「本当か!?募集打ち切りって!」芝居っけがあるオーソンが、少々大げさに言った。

「あぁ!本当だ!」

アルフレッドとオーソンはある程度この事態は予想していたので、その男と別れ慌ててそれを確認しに行く(てい)で、当初の打ち合わせ通りに受付へと向かう。


「すまない、募集打ち切りと聞いたんだが」とアルフレッド

受付の男は先ほどの怒りが少し収まったのか、撤去し忘れている看板を思い出したのか


「あぁ悪いな、今は募集が打ち切られている。他を当たってくれ」と言った。


アルフレッドは窓口の男の目を覗き込むように、小声で言った。

「なぜ募集が打ち切られたのか俺達は知っている・・・」


怪訝そうにした受付の男も、やはり気になっていたようで小声で返した。

「なんだそれは?」


やはりこの男にも知らされていない・・・とアルフレッドは確信した。


「俺達はデモインから来たんだが、あの街の事は知っているか?」


「知らん、でなんだ教えてくれ」デモインの街名が出たので興味を持ったらしい。


「教えてもいいが条件がある」

「なんだその条件っていうのは?」


「俺達を中に入れてくれ、ナカオカ博士のゆかりの者だ」アルフレッドは当たりを付けて言った。

「それは出来ん。がなぜだ、目的は?」ナカオカ博士について否定も肯定もしない男に、


脈ありだ・・・アルフレッドは心の中で思った。


「昔いろいろ世話になってね、博士の死に方に納得がいかないんだ・・・

クレーンの橋脚に挟まれて亡くなった事は知ってる。少々調べたいのさ」マリアに聞いた事を小出しにしながら言った。


「なぜ詳しく知ってる?あんた達は誰だ?」

「だからゆかりの者さ、博士の遺品から謎を探りたいんだ。調べるだけだから、あんたに迷惑はかけない」


しばらく考えた受付の男は

「いや、やはり駄目だ、あんた達の素性が知れない」

「じゃあしょうがない、他をあたるよ」と二人は(きびす)を返し立ち去ろうとした。


「ちょっ、ちょっと待ってくれ」受付の男は二人を呼び止めた。

振り返った二人に、男は少し考えると

「話を聞かせてくれ、中に入ってくれ・・・」


二人が中に招き入れられ様とすると、外にいた十数人の男達が(いぶかし気にそれを見た。

「トイレを借りるだけさ!もれそうなんだ!」とそんな男達にオーソンが声をかけた。


小さな個室に案内された二人は、向かい合ったソファーに座らされた。

「まず、あんた達の持ち物を確認させてくれ」と受付の男は言った。


素直にボディチェックを受けると、特に危険な物はもってない二人に安心したのか、本題に入った。

「俺はマイク・コーウェン。あんた達は?」

「アルフレッド・ビーンだ」

「オーソン・ハンズだ」

「俺が立ち会いの下、あんた達を博士の私室に案内する。もちろん怪しい真似(まね)をしたら撃つ。それでいいか?」


ビンゴ!・・・オーソンはニヤリと笑った。


「あぁ、それで構わない」

「よし、聞こう」

アルフレッドはマリア達を抜いた真実を話し始めた。

「デモインの街の構造は、空港を中心にA・B・Cのブロックに分かれている」

マイクは真剣に聞いている。

「Aブロックは特権階級の富裕層の家々が立ち並ぶ特別なエリアだ。知ってたか?」

「あぁ、だいたいは・・・」

「俺達はそのAブロックに立ち入ったんだ」一呼吸開ける。


「どうなってたと思う?」


「なんだ!早く言ってくれ!」マイクは焦る様に聞いた。

「人っ子一人いなかったのさ・・・無人だ、無人の街になっていた」

「なんでだ?」

「デモインのAブロックには軍に通じる人間が多い」

「だから!?」


「国連宇宙艦隊とAARFとの艦隊戦で国連宇宙軍が負けたんだ。おそらくね、火星に進駐してくるだろうAARFから逃げ出したんだ」


「なんだと!・・・なら、なぜ俺達に知らせない!?」

以前トムがブロディ達に向かって放った言葉と、同じ事を言った。


「いきなり火星に住む入植者の多くに知らせたらどうなると思う。大勢がスペースポートに群がりパニックになるだろう。

自分らの避難が難しくなると上の連中は考えたんだろう。

嘘だと思うなら、上の方の上司に連絡をとってみろ」


「なんて言えばいい?」


「そのまま言えばいい、変な二人組が来て、今言った様な事を言っているってな」

マイクは電話を取ると、ちらちらと二人を見ながら電話を掛ける。


「繋がらない!変だ!これは非常回線だ、誰かは出る筈なのに!」マイクは焦りだした。


マイクはマスターカードキーを二人に投げ渡すと

「勝手に行ってくれ、俺は逃げる」と言って身の回りの物をバッグに詰め始めた。


その腕をオーソンが掴むと、

「案内してくれる約束だよな、まさか反故(ほご)にするつもりじゃないだろうな・・」

すごみを効かせて言った。

「わかったよ!ついてきてくれ」というとマイクはマスターカードキーを拾い足早に部屋を出ていく。


廊下を進み、角を曲がった所のエレベーターに3人は乗り込んだ。


「15階に博士のフロアがある。そこに案内する・・・くそっ!俺達を見捨てやがって!あいつら!」


「いや、見捨てちゃいないさ、ただ特権階級の避難が終了してから知らされるんだろう。

それに必ずAARFが進駐してくるとも限らない。

TМPの工事をぎりぎりまで伸ばしたかったんだろう。

そしてまた、おそらくAARFはここの職員には手を出さないとも考えたんだろうさ」


「なんでだ?」

「火星をそのまま、我が物にしたいからさ」

マイクは怪訝そうにしている。

「TМPの必要性はあいつらも解っている」

「なるほど・・・」マイクは少し落ち着きを取り戻した。


「もしあんたが火星脱出に失敗したら、TМPの管理職員になりすますといい・・

できれば外の連中も作業者だと言って、守ってやって欲しい」オーソンが言った。


「そんな・・・俺はただのビルの管理員だ!頼まれて受付業務をしていたがTМPなんてなにも知らない!」


「じゃあ、ちょっとでも詳しい人間に頼んで、作業者のフリをするんだな」マイクは変な顔をしたが


「あぁ、解ったよ、もしそうなったらそうするよ」と言った。


「外の連中についてはなんでなんだ?あんた達には関係ないだろ?」

「まぁ同じ火星の釜の飯を食った同志みたいなもんだ、俺達が脱出する時は全員に知らせるさ」オーソンが言った。

エレベーターの扉が開き、15階の廊下が真っすぐ伸びている。


「こっちだ」とマイクは廊下を進み、ある扉の前で止まった。



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