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火星の雪  作者: 上泉護
21/42

始動


出窓の様な下向きのフロントガラスから、眩しい朝の陽ざしが雪に反射し差し込んでいる。

パンとスクランブルエッグと焼いたベーコン、湯気の立つ珈琲がテーブルに並び、雪原の美しさとおいしそうな朝食が、これからの緊張感を忘れさせた。


テーブルに鼻面を出してベーコンを狙っているケイティに、

「だめでしょ!ケイティ!」とベティが叱る。

「ケイティだって食べたいよな~」とオーソン。

「これからますます大きくなるんだ、(しつけはきちんとしとかんとな」とアルフレッド。

そんな様子をマリアは笑顔で眺めている。


いつものように祈りを済ませると、朝食をとりながら、これからどうするかの話し合いが始まった。

「AARFが火星に進駐してくる恐れがある以上、のんびりと構えている訳にはいかんな」

緊張感があるのかないのかオーソンが言った。


「マリア、やはり最終的には地球に戻るとして、TМPへ行く決心に変わりないな?」と今一度アルフレッドは確認した。


「はい、祖父の意志がなんであるか、どうしても知りたいんです」


「ブロディ、君は?」


ベーコンをのせたパンを頬張ろうとしていたブロディは手を止め

「俺は・・・家族もいないし、生き残ったところでどうしようもない。マリアをTМPへ連れて行く」

パクリとパンに噛り付いた。

生き残ったところで・・と言った所が引っかかったが、あえて触れる事はやめた。


「解った。アリソン、TМPへ行こう」アルフレッドはアリソンに向かって言った。

マリアが立ち上がった。


「いけません!スペースポートへ向かうべきです!」


アリソンがマリアの肩に優しく手を置いた。

「あなたはペグとベティの友達でしょう?」ホットミルクのカップを両手で持って飲んでいるベティと、ペグが見ている。

「それは・・・」

「なら、放ってはおけないわ、それにアルフレッドに任せておけば大丈夫よ」ニコっと笑った。

とうとうマリアは泣き出してしまった。


「大丈夫よ・・・安心して、必ずなんとかなるわ」背中に手を回して軽くさする。


そんな様子を優し気に見ていたオーソンが

「ブロディ、俺も家族がいないんだ。いっその事、俺の息子になるか?」とニヤッと笑った。


ブロディが嫌な顔をして

「鼾がな・・」

「ぶわっはっはっはっは、男が細かい事を気にしたらいかんぞぉ!」ブロディの肩をバシバシと叩いた。

「いてぇな!こちとら怪我してんだよ!」

「あぁ、すまん!悪かった、大丈夫か?」


みんな大笑いし、ケイティが驚いてマリアの膝に飛び乗ってくる。

びっくりしながらも、マリアはケイティを抱きしめてやりながら、泣き笑いながら皆の顔を眺めた。


「行くと決まったら、とっとと朝飯(あさめし)食って出発だ!」オーソンが勢い込んで言った。

「まぁそう慌てるな、進軍は退路ありきだ」アルフレッドは続ける。

「TМP経由で宇宙(そら)に上がるには、やはりスペースポートに戻るしかない」


「スペースポートには例の奴らが張っている筈だ。AARF以上に危険だ」とブロディ。

「そこだ、俺が思うにブロディ達の話を合わせ見れば、そいつらも焦っている・・・」意外な事をアルフレッドは言った。


「最初の接触時は、マリアの名前しか情報がなかったんだろう・・

だからわざわざシャトルをオーバーランさせて、どさくさに紛れてそれらしい人物に接触を試みたんだろう・・・

それは作戦上しょうがないとしても、スペースポートに逃げ込んだマリア達を武力で突入し制圧しようとするなんて、作戦行動が強引すぎる」


「AARFが来る前にマリアを確保したい。と考えるのが妥当だろう。AARFと合わせて二つの脅威に対応するのは確かに危険だが、AARFが進駐してきた時こそ、そいつらにも隙が生まれる筈だ」

「なるほど・・・」とオーソン


「だからと言って、無策でいくというのは無謀というものだ」


「そこで、二重三重の安全策をたて、臨機応変に対応していく必要がある」

皆がアルフレッドの言葉に聞き入っている。

「現在、そいつらが先んじている、と思われる事と、我々が有利な部分が一つずつある」

「なんだそれは?」とオーソン


「マリアがTМPで目指すべき場所をそいつらが知っている可能性があるという事。

そしてマリアとブロディに協力者がいる事を、そいつらが知らないという事だ」


「なるほど・・・」とオーソン

「だから、その有利な点を徹底的に利用する」


「我々は二手に分かれる。まず、オーソン」


「おう!」


「カーネリーで先行して俺と偵察だ。そしてアリソン」と言いながらフロントガラスに地図を広げた。

「これから通過する地は、ノクティス・ラビリントスという」

地図上のそれは、細かい丘や岩盤が迷路の様に入りくんでいる。

身を隠すのに適当な場所を選んで、アルフレッドはペンで丸をつけた。


「この地点をA、ここをB、ここをCポイントとする」

「先行した我々が安全を確かめたら、次のポイントにローバーを進めてくれ」

「合言葉は、天気に関する話が”問題なし”、家族の話だったら”危険”だ」

「定期的に無線を入れる危険性もあるが、やむを得ない。時にはスピードも必要だ」

「Cポイントまで進めたら、しばらく待機、俺とオーソンで内偵(ないてい)する」

「”ケイティが見つかった”と言ったら、TМPは残念ながら諦めて、別々にスペースポートへと向かう」

「それでいいな、マリア」最後はマリアに聞いた。

これ以上迷惑をかけ、彼等を危険にさらす事は出来ない。

「はい、お願いします」とマリアは力強く言った。

アルフレッドが言う

「みんな、いいか?」全員が頷く。ペグもベティも頷いた。


「よし、出発だ」


アルフレッドはオーソンのカーネリーに乗り込み、ランドローバーのハンドルはアリソンが握る。

始動させ動き出したカーネリーの腕から雪が滑り落ちる。

カーネリーの窓からアルフレッドが手で合図を送り、タイミングをズラして出発した2台はマリネリス峡谷へと向かった。


ノクティス・ラビリントスは峡谷に入ってから50kmほど内にある。

しばらくカーネリーを走らせた二人の視線の先には、徐々に岩壁がそそり立ち始め、ごつごつと岩肌が多く見られる様になってくる。

しばらく走り続けると、カーネリーはぐるりと岩壁に囲まれる様になった。

「どうやら峡谷の端に入ったようだな」

更に走り続け、二時間程度過ぎた頃、カーネリーを停止させた。


カーネリーの車内でアルフレッドはオーソンと細かい打ち合わせをすると周囲を見渡した。

双眼鏡で丘の上から遠くまで確認する。

「ポイントAを通過、問題なしだ」と言うと、無線のマイクをアルフレッドは持った。

スイッチを入れる。

「こちらアルフレッドからアリソンへ、こちらアルフレッドからアリソンへ」

すぐに返信があった

[こちらアリソン、どうぞ]

「今日はいい天気だ、絶好のドライブ日和だね。助かった、昨日は難儀したよ」

[まったくだわ。あっという間に冬が来たって感じね]

「そちらは問題ないかい?」

[今のところないわ]

「目的地までもうすぐだ」

[こちらもよ、久しぶりに会うのが楽しみだわ]

数分、世間話をしてから「じゃあ、また」と言って無線を切る。

”天気の話”で”問題なし”である。

アリソンは静かにローバーを進めた。


切り立った断崖が迷路のように立ち塞がっている。

「こりゃ迷子になりそうだ。アリソン達は大丈夫かな?」とオーソン

「このカーネリーの(わだち)で解るだろうし、いざとなったら無線で聞いてくるさ」



更にカーネリーを走らせ太陽が中天に輝く頃

Bポイントに着いた。

Aポイントと同様に安全を確認すると、無線を入れる。

彼らは順調にシリングタウンへと近づいていった。



「もうそろそろCポイントだ」


順調にローバーを走らせて来た二人の視線の先に、Cポイントと位置付けた、狭隘きょうあいな門を思わせる巨大な岩盤が現れた。

速度を落としながら”門”へと近づいて行く。


すると切り立った断崖を背に、一人の男が手を振っているのが見えてきた。

そのまま近づきカーネリーの窓を開ける。


「やぁ、どうしたんだ?」自然にオーソンが声をかけた。

そこらの鉱夫が着ている様な服装をした男が


「ちょっと家族を探してるんだが、心当たりないか?」と聞いてきた。

「家族?俺達はロックビルから来たんだが、誰ともすれ違わなかったな」


「車内を確認させてもらってもいいか?」


「なんだと!俺が嘘ついてるとでも言うのか?」オーソンはわざと気色ばんだ。


「悪いな、政府の仕事なんだ」と言いながら男は銃を向けた。

オーソンはアルフレッドと顔を見合わせると、黙って手を上げた。


カーネリーに上って車内を確認した男が言った。

「悪かったな、これも仕事でね、勘弁してくれ」

男は案外人がいいのか、素直に詫びた。

「まぁなんだか解らんが、見つかるといいな」とオーソンは声をかけ、カーネリーを進ませた。

振り返ると岩陰にBRが潜ませてある。

窓を閉めると


「あまりにも解りやすかったな、すぐに知らせよう」とオーソン

「いや、Bポイントで待機しているから問題ないし、すぐに無線を使うと逆に勘ずかれる。しばらく走らせよう」


30分くらいしてからマイクのスイッチを入れたアルフレッドは

「こちらアルフレッドからアリソンへ、こちらアルフレッドからアリソンへ」

[こちらアリソン、どうぞ]

「さっきふと思い出したんだが、君はネブラスカに姉さんがいたね」

「えぇ、それがなにか?」

「今度の土地に呼んでみたらどうだい?」

まったくのでたらめだが、火星入植者のごく普通の会話をした。

[姉さんは地球を離れないでしょうね。保守的な人だから]これもでたらめである。

「まぁ、何年かしていい所だと解れば気も変わるさ」

[そうかしら]


「そういえばさっき、政府関係者だと名乗る男に銃を突きつけられて車内を臨検されたよ」

あえて、さっきの出来事に触れておいた方が自然だと思ったのだ。

[政府関係者が?なんなのかしら?]

「さぁねぇ・・・家族を探してるだとか最初に言われたけど、どうも違いそうだ」

[なにも取られなかったんでしょう?]

「あぁ」

[じゃあいいじゃない。私達には関係ない事だわ]

「まぁ、それもそうだな・・・じゃあ現地で」と言うと無線を切った。


アリソンの後ろで無線のやり取りを聞いていたブロディとマリアは、それが奴らだと確信した。

アリソン達はBポイントで待機せざるをえなくなったが、その無線を聞いていたのは他にもいた。

やはり傍受していたのだ。

フリーマン隊長はこの無線の(あるじ)達を”無関係”だと判断した。

アルフレッド達の方が1枚上手だったのである。


アルフレッド達の乗るカーネリーは、断崖絶壁に囲まれる様にあるシリングタウンが見える場所まで来た。

当初の目的とはかけ離れてはいたが目的地には違いなく、感慨をもってこの細長い街並みをしばらく見続けた。


街の中ほどに、高い飛行機の尾翼を思わせるビルが見える。

二人は目を見交わすと頷きあう。


アルフレッドとオーソンは内偵の為、シリングタウンへと入りこんだ。



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