表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
火星の雪  作者: 上泉護
18/42

バトルローバー

ブロディは手当てを続けるマリアを放って、背中のハッチがスライドされシートが外に出ているBRまで歩いていった。

あちこちの傷の痛みに顔をしかめながら、BRによじ登りシートに座る。

挿絵(By みてみん)

中を覗き込むと、パネルやスクリーンに囲まれた中央に操縦桿があった。

グリップのいたるところにボタンやトリガーが並んでいる。

簡略化され特定の動作しかできないWRとはまったくの別物だった。

動かせるか?・・・操縦桿の他にもいろいろなスティックがあるが、それらの意味する所は解らない。

どうやら起動させる回転スイッチらしきものが左膝の奥にある。

試しに押し込みながら回してみると、軽い振動とモーター音、油圧がかかる音と共にシステムが立ち上がり、正面の画面に文字の羅列が表示される。

手当てを終えたマリアが(のぼ)ってきた。

「なにしてるの?」そう聞いた彼女の髪は、寒風になびいていた。

「こいつを頂くのさ」そう言うとマリアの手を取り自分の膝の上に座らせた。

シートの横に有るスイッチを押すと、シートがスライドし落ちて行く様にBRの胸部へと入っていく。

沈み込む様にポジションに着くと、ぐるりと囲んだスクリーンパネルに映像が映し出される。

そこにはもう一機のBRと固形燃料を燃やした炎、マリアが介抱したBR乗りの二人が横になっている。

二人はしばらく興味津々とあちこちを見回した後、密着している事に気が付いて顔を見合わせた。

ばつが悪そうにブロディが

「動かしてみる」と中央の操縦桿を持つと、少しづつ前に倒す。

するとBRが歩き出した。向きを変えようと操縦桿を左に倒すと、左へ左へとBRは歩いていく。

前方に障害物がないのを確認すると、ブロディはアクセルを軽く踏み込んだ。

BRは歩行を止め、足の裏のBSBで滑走し始める。

「いけそうだ」

顔の近い二人は、目を見かわした。

照れくさそうにマリアが微笑む。

「よし、いくぞ」徐々にアクセルを開けていく。

スピードが増していくと、勝手に機体を屈めて重心を低くした。

二人をぐるりと囲んだスクリーンに、ライトで照らし出された火星の大地が流れていく。

ブロディはおもむろに口を開いた。

「生きる意味・・とか言ってたよな」

「え?えぇ・・なぜ?」

「仮に・・そんなもんがあるとして、人生なんてどんなに頑張ったって100年がいいとこだ。死んじまえば生きる意味もヘチマもねぇ、よほどの偉業を成し遂げなきゃ名前すら忘れられていくんだ」

マリアがちょっと考えてから答えた。

「人生の意味は、自分が自分自身に与えるもの・・・本にはそう書いてあったけど・・・わたしもあんまりピンときてないの・・」マリアは微笑した。

「でも、自分の評価を他人任せにしない。自分で自分自身の評価をする。どんな困難な人生でも・・どう生きるか・・態度決定はできる・・・それは自分自身で決める事だって・・・そうあった・・」BRの外は冷え込みがきつくなっているが、機内は空調で暖かかった。

狭い室内で密着している所からお互いの体温を感じる。

「わたしから見たブロディは、わたしの何倍も立派に自分で自分の態度決定をしてる・・・偉そうな事言えないね・・・」ニコっと笑った。

しばらく黙ってスクリーンを見ていたブロディが、(つぶや)く様に言った。

「やっぱカウンセラー向きだな。保母はあきらめた方がいい」

「なに、それ?」二人は声をあげ笑った。

「寒くないか?」

「全然大丈夫」マリアの美しいブロンドごしにスクリーンを見たブロディの表情は、彼が何年もしていなかった優しい笑顔だった。


そのまま30分ほど東に向かってBRを走らせていると、バッテリー残量の警告サインが点滅し始めた。

「くそっ、後続の奴が補給する予定だったのか?」ブロディは毒づいた。

マリアがパネルを覗き込んで不安そうに言う。

「あとどれくらい走れそう?」

「まぁこいつは軍事兵器だからな、10kmってとこじゃないか?」

WRと比較して少しはもつだろうとの考えだ。

「行けるところまで行こう」

しかし5kmも走ったところでアラートが点灯し、徐々に速度が落ち動かなくなってしまった。

ブロディはため息をつくと

「歩くしかないな」

「うん・・・」

ライトも消え、暗い厳寒の世界にBRから降り立った二人は、肩を寄せ合うように東へと歩き出した。

延々と・・・ただ延々と星空に荒野が広がっている。

振り返っても追手の気配は感じられない。

今の彼等には、ほんのわずかな希望にすがり、一歩づつでも歩いて前に進むしかない。

それでも一人ぼっちよりはいい・・・二人でいれば・・まだ気力が生まれた。

「雪・・・」マリアがつぶやいた。

「本当だ」ブロディが空を仰ぎ見ると、雪がまるで落ち葉が舞う様に降ってきた。

静かな暗く赤い世界に雪が舞っている。

二人はしばらくの間、空を仰ぎ見ていた。

「きれい・・・」マリアは呟いた。

「あぁ・・本当だ・・・これが食えたならなぁ」

「ふっふふふ・・積もったら丸めて食べられるよ」

「言ってろ」

マリアが笑う。つられてブロディも笑った。

彼らは疲れ果て傷ついた体を、一歩・・一歩と前へ進めていく。

そんな二人の足跡を雪が静かに覆っていった。


彼らは追手を撒くため、迂回する道を選んだ。

それはある意味成功したが、過酷な火星の環境では無謀な、死へと向かう道でもあったのだ。

二人を雪が包んでいく・・・

静寂と雪が火星の赤い大地を覆い、少しだけ明るく感じさせる。

マリアは限界だった・・ふらふらとしていた。

手を貸しているブロディも傷と疲れで、限界にちかい。

マリアはガクッと膝を雪に落としてしまった。

「少し休もう・・そこの岩場まで行けるか?」

「ごめんなさい・・少し休めばまだ行けます」

二人は岩場の陰に少しだけ雪の避けられる場所を見つけると座り込んだ。

追手から奪った固形燃料で暖を取る。

マリアは岩に背を預けると目を(つむ)った。

ブロディも睡魔には勝てず、引きずり込まれる様に眠りに落ちていく・・・

固形燃料は2時間程度もったが、だんだんと火が弱くなり、そして消えてしまった。

二人はそれに気付く事なく寝入ってしまっている。


それはとても危険な・・死へと続く眠りだった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ