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火星の雪  作者: 上泉護
17/42

拉致

やはり二人分の重量のせいか、グライダーはあっという間に高度を落とし地表近くまで降下してきてしまった。

まるで赤い大地が高速で動くやすりの様に見えてくる。

ブロディは肩と右足の痛みに耐えながら、態勢を立て直すと着陸に備えた。

「タッチダウンだ・・いくぞ」

マリアは歯を食いしばる。

ブロディは着陸の寸前に少し上昇し速度を落とすと、マリアを下敷きにしないよう左足で地面を蹴った。

グライダーはバランスを崩して仰向(あおむ)けにひっくり返る。

その勢いで結ばれたシートが切れ、二人は大きく飛ばされ別々に転がり止まった。

マリアは飛び起きると、うつ伏せに倒れているブロディの元に走る。

「ブロディ!大丈夫!?」

ブロディに返事はない。

左肩と右太ももから血が流れている。

マリアは自分のシャツの袖を引きちぎると、ブロディの太ももを縛った。

肩は穴の開いた彼のシャツの下に布をいれて圧迫する。

マリアは涙を止める事が出来なくなって

「ブロディ!」と叫んだ。その時!

上空から銃撃された。彼らの前方10mに砂塵が上がる。

あきらかに重機関銃である。

見上げると2機のBRがパラシュート降下して来る。

逃げ道を探そうにも荒野が広がっているだけで、身を隠す所とてなかった。

BRから逃げ切る足もなく、ブロディはピクリともしない。

そうこうしているうちBRは2mの高さからパラシュートを切り離し、大きく膝を曲げて着地した。

その勢いのままBSBで滑走し、あっという間に二人を挟み込んだ。

ブロディに寄り添っているマリアにBRから声が掛かった。

「マリア・ウィンフィールド、一緒にきてもらおう」そう言うと、BRの巨大な手でマリアを掴む。

「は、放して!」マリアはもがくがブロディから引きはがされてしまった。

血にまみれたブロディはピクリともしない。

確認するまでもない。死んでいる・・・

仮に生きていたとしてもこのまま放置しておけば、じきに死ぬのは明白・・とフリーマン隊長は判断した。

「ブロディ!ブロディ!!」マリアの悲痛な叫び声が荒野に響き、その声は遠ざかてっていく。

BRはそのまま東へと滑走していった。


夕日が優しく赤い荒野を包み、冷たい空気がさらに冷たさを増していく。

そんな中ブロディは気が付いた。

突っ伏したままBRの走行跡を見る。

「ゴフッ」とせき込むと口のそばの砂がまき上がった。

「く・・そっ、これだから・・神様って奴は・信用ならないんだ・・」

彼は左足を軸に少しづつ起き上がっていく。

暮れかけていく火星の大地が、冷え込みながら赤々と夕日に照らされている。

「運命ね・・・くそが・・・そんな御大層なもんじゃねぇよな・・・」

足を引きずりながらVTグライダーに向かって歩いていく。

左足に重心を乗せ立っている彼は、VTグライダーを持ち上げると、ちょっとそれを見入った。

ベルトのいくつかがバックパックの付け根で切れている。

「人生に目的と勇気を持って立ち向かえか・・・簡単に言ってくれるぜ・・・」

そう言うと残ったベルトを装着し始めた。


BRの2機はマリアを確保後、30kmほど東に進み、遅れているマクレガーと合流する為に野営をしていた。

BRを風除(かぜよ)けにし、固形燃料で暖をとっている。

暗くなった空に満天の星が輝いていた。

「F装備を準備しておいて良かったですね」

「当然の事だ。マクレガーから連絡はあったか?」

「5分ほど前に。後一時間程度で追いつけると連絡がありました。」

「よし合流次第、揚陸艇に向かうぞ」

「了解」

揚陸艇は大気圏突入と脱出をそれぞれ一回づつ行えるものだ。

向かうと言うからには、宇宙(そら)に上がるという事か・・・

マリアは二人の会話を聞きながらも、ブロディの事が気になってしょうがなかった。

あの怪我で大丈夫だろうか?助けを得られたのだろうか?

いくら考えても絶望的な答えにしかならなかった。

BRのパイロット達は、じきに地球に帰れる安堵感からマリアの前でも普通に会話をしていた。

「フォード、貴様のBRは照準がズレているのではないか?無駄弾ばかり撃ちおって」

「隊長、心外であります。あいつがなかなかの腕だったんです」

「はっはっは、そういう事にしておくか、しかしとんだ邪魔が入ったものだ」

チラッとマリアを見た。

「正直ここまで手こずるとは思っていなかった」

「そうですね。ブラヴォーを失うとは思いませんでした」

「まぁいい・・任務完了だ。地球に帰れるぞ」

マリアにも簡単な携帯食料と水が与えられていて、彼らも同じ物を食べると地面に敷いたシートに横になった。

マリアは座って火を見ながら、度重なる彼らの襲撃で身も心もヘトヘトになりながら、ブロディの事を考え涙と怒りをこらえていた。


ブロディはBRが走り去った方角へ、暗くなった空をグライダーで飛んでいた。

振り返ると西の地平線に、夕日の残照がわずかばかりの光を残している。

地上は暗く、巨大な岩石がわずかに見える程度だ。

注意深く暗い大地を見回していると・・・いた・・前方約3km、光が見える。

痺れてきた左手で滑空モードに切り替え、飛行音を消す。

徐々に降下していき、ブロディは闇の中に消えた。


フリーマンは火の前で銃の手入れをし、フォードは腕を組んで眠っているようだ。

固形燃料のジリジリと燃える炎の音だけが静かに聞こえている。

フリーマンはマリアに話しかけた。

「お前まだ学生の様だが、高校生か?」とても会話をする気にはなれなかったが、なんとか隙を見つけてブロディの元に戻らなければならない。マリアは慎重に言葉を選んだ。

「大学生です」

「大学?そんな歳には見えんな」

「APです」(Advanced Placement:飛び級の略)

「さすがに世界的権威の科学者の孫って事か・・いくつなんだ?」

「14です」

「14?」ジム・フリーマンは驚いた。自分の娘より年下なのに大学生とは・・・

この美しい少女は容姿だけでなく、なにか運命に選ばれた様な・・そんな不思議な感覚をフリーマンに感じさせた。

我が子と引き比べてみても、彼女の尋常ならざる頭脳と容姿は現実主義者の彼でさえ、なにかとてつもない運命なり宿命といったものを感じさせたのだ。

炎の光に照らし出される少女は、触れ得難い神聖なものにさえ思えてくる。

彼も人の親として、彼女に対し理不尽な事をして申し訳ないと思っていた。

その為、決してマリアに手荒な真似をする事は無く。ただ軍人として任務を全うする。それのみだった。

「じぃさんの発明したものはなんだ?預かった物を持ってるんだろう?」

彼らは自分同様なにも知らないのか?とマリアは驚いた。

「私も知りません。ただ火星にくる様に言われただけです」

嘘か(まことか探る様にマリアを見ていたフリーマンは

「まぁ、おいおい解るだろう・・」と、それを聞き出すのは自分の仕事ではない。とそれ以上追及するのをやめた時、彼らの後方、BRの陰で小石が転がる音がした。

フリーマンは素早く銃を抜くと、横で寝ているフォードを揺り起こした。

無言のまま指で指図する。

フォードも無言で銃を抜き、フリーマンの指示に従う。

音のした場所を挟み込む様に、二人が銃を構えて近づいて行く。

無駄の無い訓練された動きだ。

フリーマンが油断なく周囲を見渡しながら近づいて行った時、”ドサッ”という音と何かが転がる音がした。

その方に銃を向ける!

フォードが倒れている。

その刹那、フリーマンの後ろから彼を何かが襲いかかった。

フリーマンに油断はない。

腰を落としながら銃を構えなおす。

が、銃をはたき落とされた。

「ブロディ!」マリアが歓喜の声をあげた。

BRを背に、サバイバルナイフを足から引き抜いたフリーマンとブロディが対峙している。

フリーマンが鋭い切っ先をあびせる!ブロディがそれを後ろに飛び退(すさ)り避ける。

が、右足の痛みにふらついてしまった。

続けざまに繰り出すナイフに防戦一方のブロディは息が上がっていく。

鋭い切っ先にブロディは脇腹を切り裂かれながらも、繰り出された右手を掴んだ。

フリーマンは左でブロディの顔を殴りつけた。

ブロディはわずかに頭を下げ急所を外すと、右膝をフリーマンのみぞおちに叩き込んだ。

苦しみに前かがみになったフリーマンの顔に、強烈な右ストレートをみまう。

避けようとのけぞったフリーマンの顎をブロディの拳がかすめた。

わずかに頭がふられる。それが良かった。

脳が振られたフリーマンは軽い脳震盪を起こし、2・3歩後ずさる。

ブロディは痛みに歯を食いしばりながら後を追う。

フリーマンは苦し紛れにナイフを振り上げた。

ブロディの左わき腹から右胸にかけて浅く切り裂いた。

ブロディも後ずさった。

フリーマンは軽い脳震盪、ブロディは体のあちこちの傷の痛みにより、お互い動けないでいる。

その時、マリアが華奢(きゃしゃ)な体でフリーマンに体当たりした。

フリーマンの注意がマリアに向いた瞬間をブロディは逃さない。

大地を蹴り一瞬で距離を詰め、顔面に右ストレートを叩き込む。

フリーマンは後ろに吹っ飛ばされると動かなくなった。

「大丈夫か?」痛みに顔をゆがめながらブロディが聞いた。

「えぇ!ブロディこそ大丈夫?」マリアは嬉しそうに言ったが、足を縛られている為、立ち上がれずにいた。

フリーマンのナイフを拾うとマリアの足の結束バンドを切り、二人のBR乗りを縛り上げた。

そこでようやく一安心して、ブロディは痛みに耐えかねて座り込んだ。

マリアは急いでフリーマンの荷物から医療キットを見つけ出すと、ブロディの手当てをしながら言った。

「ブロディ・・もうじきもう一機のBRが合流するって言ってた」

「まったく・・おちおち休んでもいられねぇのか・・・」と言ってから、ブロディの傷の手当てをするその手際のよさから

「うまいもんだな・・」と言った。

「人の手当てをするなんて初めてなの・・良かった・・」と嬉しそうにマリアは笑った。

ブロディの手当てが終わるとフォードの元に向かい、頭から血を流し倒れている彼を手当てしながら聞いた。

「この人は・・・」

「石を投げつけたのさ」複雑そうな顔をしてマリアは

「そう・・・」とだけ言った。

「お(やさ)しい事だな・・」


「この人達だって、理由があっての事だろうから・・」マリアは少しだけ悲しそうな顔をして答えた。


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