暗躍
トムの事務所でマリアが警察に電話している頃・・・
瀟洒な住宅街の街並みに、不釣り合いな3機のBRが停機している。
晴れ渡る無人と化したストリートには、強い風がゴミをまきあげていた。
BRの足元には3人の男達が密談している。と言っても誰かいる訳ではないので、声を潜ませる必要は無かった。
「マクレガー、貴様のBRの再調整は済んでいるのか?」
「はっ!終了しております。特に問題はありませんでした」
ブロディ達を追って斜面を派手に転倒した為、各部の点検と精密射撃の再調整をしたのだ。
「よろしい、フォード貴様の方は?」
「はっ!問題ありません」
「ではブラボーチーム(ヘリ)の方は?」
「報告がありました隊長、全員死にました」
「あのガキやるじゃないか、我々相手にここまでやるとは・・何者なんだ?」
「目下調査中であります。情報部が身元を洗い出すのに時間はかからないでしょう」
「そもそもあいつらが最初にしくじったから、こんなに苦労してるんだ!あてにはならん!」
ひとつ溜息をついて、隊長と呼ばれた男が続ける。
「あくまでも我々は民間軍事会社だ。スポンサーの意向が第一とされる。目標を確保できればガキの方は殺しても構わん」
「はっ!了解しました」
「スペースポートの方はどうなっている?」
「公にはテロで片付く筈です」
「北は早々に退却したらしいな」街を見渡して隊長が言った。
北とは北アメリカ火星方面軍の事である。
「AARF(独裁政権国家連合)との艦隊戦で国連軍が大敗北を喫したと聞いた時は、正直驚きました」
「我々には好都合だが、そうとばかりは言ってられん。連絡のあった後続部隊は今どこだ?」
「はっ!現在火星の衛星軌道上で待機しております」
今まで黙っていたもう一人の部下が怯えた様に口をはさんだ。
「後続部隊が、D小隊って本当なんですか?隊長」
「あぁ、悪名高い悪魔の小隊だ」
「小隊のみでマガダン艦隊を壊滅させたっていうのは・・」
「”皇帝”の所属部隊だからな。本当だ」
「セローン中尉でありますか?」
「あぁ、重巡2隻をたった1人で沈めたらしい」
「なんでも小隊の兵士はゲノムエディスィング(ゲノム編集)で筋力が増強され、反射神経が恐ろしく高められているとか・・・」
「そうだ、ただ服用される薬の副作用で情緒不安定になったり、ひどい者は精神破綻をおこしているって噂だ」
部下の二人は顔を見合わせた。
「そんな連中に我等のしりぬぐいをさせようとしている。馬鹿な話だ!コーバートオペレーション(隠密作戦)が聞いてあきれる」
「そんな・・たかだか小娘1人確保するのに大袈裟ではありませんか?」
「それだけ我等新国家にとって重大事であるという事だろう」
遠くの空に目をやった隊長と呼ばれた男は
「ここでなんとか確保したい。網を張りたいとこだが、こちらも駒不足だ。」
「このブロックで動いている車両や人間を見逃すな。手当たり次第確保せよ。上空からの支援は無いが、我々の威信にかけて作戦を成功させるのだ。いいか!」
「はっ!」男達はバトルローバーに機上する。
3機のBRは散開し走り去った。
「現在Aブロックで走行している車両が2台あります。一台は北ゲートへ、もう一台は空港に向かっています」
BRの狭いコクピット内で隊長と呼ばれている男が
「よし、マクレガー貴様は空港へ、フォードは俺と共に北ゲートに向かう」
「はっ!」
モニターを確認するとマガジンに装填している弾丸は1/3になっている。
補給が必要だが今は無理だ。
隊長のジム・フリーマンは今回の任務について考えていた。
AARFは宇宙進出の橋頭保として火星を我が物とするため進駐してくるだろう。
我らの任務を明かせない以上、彼らは我らを敵とみなす筈だ。急がなくてはならない。
ここデモインの北アメリカ軍は早々に撤収し体制を立て直そうとしている。
おそらく大気圏脱出用の揚陸艇を使用して、大隊一つ宇宙に上げたのだろう。
「我々には好都合な事だ・・」BRの中で一人ごちた。
だが彼らの任務、マリア・ウィンフィールドなる少女を拉致する事が意味する物を彼らも知らない。
世界は社会主義陣営と資本主義陣営、そしてAARF(独裁政権国家連合)の三つ巴の戦争になろうとしている。
地球の環境は著しく悪化している現在、戦争などしている余裕はあろう筈もない。
ジム・フリーマンの様な立場の人間でさえ、時折考えさせられる事があるのだ。
そんな彼の組織は、いくつかの軍需産業が私企業の傘下となり、民間軍事会社を有する軍産複合体の体をなしていた。
ジム・フリーマンはディスプレイ上の流れる景色を見ながら思う。
上層部の意図しているものはなにか?
我々の突き進んだ先にあるのはどういった世界なのか?
そんな事を考えている彼の思考を着信が遮った。
「隊長、前方500mに移動する車両を確認しました」
「挟み撃ちにする。貴様は東に迂回し命令をまて」
「はっ!」
フリーマンのBRは高架橋の下を高速で走り抜けていった。




