異世界召喚はもうやめて!!
「お願いだから、もうやめて!」
真っ白な部屋の中で一人の美女が涙目になりながら祈っていた。腰まで伸びたプラチナブロンドの髪、翡翠色の瞳、透き通るような白い肌に純白のローブの上からでもわかる豊満な体つきはあらゆる世界の人々を魅了してやまないだろう。すでに半泣きになって必死に祈っているその姿さえも、庇護欲がそそられる。彼女の名はアリアディーナ。ディアと呼ばれる世界を管理している女神である。
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世界は無数に存在し、無数の神々がいた。神々は、自分が管理する世界をよりよくすることを責とし、地上に住まう生物を見守り、時に試練を与えてきた。しかし、長い時が過ぎるうちに世界を見守ることに飽き、神々の中に怠惰になっていくものが出始めた。神々が、手を抜き始めた世界は少しずつ歪みが生じていった。その歪みが限界に達すると世界は、大地が裂け、海は大荒れ、天変地異が世界を包んだ。そうなって初めて怠惰な神々は、危機に気づき慌てて世界を修正していく。しかし、そうなってしまえば神の力でも完璧に直すことができず、少なからず歪みが残る。そうなると今まで以上に気を付けて管理し続けなければならない。一度、怠惰を覚えてしまった神々にとってそれは苦痛でしかなかった。
そんな中、ある神が目を付けたのはヒトと呼ばれる存在だった。ヒトは多くの世界に存在している種族で、肉体的には非常に脆弱で複雑な精神構造をしている生物だった。にもかかわらず、ヒトは自分たちの世界を発展されることに優れていた。ある世界では、魔法と呼ばれる力を操作し、別の世界では科学と呼ばれる知識で文明を生み出した。そして、どの世界でも発展の中心となっていた。そんな彼らに目を付けた神々は、ヒトに接触し自分たちを信仰させていた。そうすることで、世界を管理する手助けをさせようと考えた。世界の様子を祈りという形で自分たちに報告させ、自分たちが管理する手間を減らしていった。しかし、歪みは本来神が修正するものであり、ヒトの手に余る存在であり修正は神自身の手で行わなければならなかった。
そんな時、ある神は気が付いた。
「自分の世界のヒトがだめなら、違う世界のヒトを使えばよいのだ」
世界には特別な力が存在している。それは、魔力や気、マナなどと世界ごとに様々な呼ばれ方をしており世界ごとに異なる特徴を持っていた。同じヒトであっても扱える力は異なる。ある世界では、無能と呼ばれるヒトが別の世界では魔力を操る天才と呼ばれた。これは、単純にそのヒトが得意とする力と自分の世界に多く存在する力が異なっていたために起きたことである。神々はそこに目を付けた。
まず、自分が管理する世界の歪みを人にわかりやすい形──とある世界では、魔物とか魔王と呼ばれる──にして生み出されるように世界を修正する。次に、その世界にいるヒトに力を扱う技術と異世界からヒトを召喚する技術、そして勇者や聖女といった召喚されたヒトをやる気にさせるような物語をでっちあげて伝えた。そうすることで、小さな歪みはその世界のヒトが討伐し、巨大な歪みが現れたら異世界から勇者を召喚して対処させる。神は、召喚する際にその相手を運び、甘言を用いてやる気にさせ、時々おかしなことになってないか見るだけでよい。どうしてもだめになれば神が対処しなければならないだろうが今までと違ってある程度はヒトがやっておいてくれるので負担も軽くなり万々歳であった。
加えて、異なる世界で育ったヒトを召喚することで世界に刺激を与え、世界が発展するきっかけとなった。世界を見守り続ける神にとって自分の世界に新しい文化が生まれ、発展していくのは何よりも面白い娯楽であった。そのため、この方法は、あっという間に神々の間で広まり、多くの世界がその恩恵を得ていた。
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「あーあ、リリアの世界はいいよねー。技術が発展してるからおいしいものも多いし、可愛い服も多いし。それに比べてうちの世界はいまいちなのよねー。頻繁に異世界からヒト呼んでるのに今一発展しないんだよねー」
「全く...アリアは適当すぎなの。ちゃんと管理してないと何かあったときに神託として伝えることもできないのよ。だいたい、私の神域に来るのにちゃんと最高神様に連絡したんでしょうね?」
「大丈夫でしょ。今まで神託が必要になった事態なんて一度もないし。私の世界のヒトは私の力なんかなくても優秀だから。それから、連絡なんていらないでしょ。最高神様なんて言うけど、碌にあったこともないんだし」
その部屋には、二人の美女がいた。一人は愛の女神、アリアディーナ。もう一人は友人である女神リリアンヌ。二人は仲がよく、連絡を取り合っていた。特にアリアディーナは、リリアンヌが管理する世界のファッションや食べ物に関心が高く、頻繁に彼女の元を訪れていた。
アリアディーナは怠惰な神であり、異世界召喚の話を聞いてすぐさま飛びつき自分の世界に広めた。自分が管理する手間が減り、文化が発展していくことに気をよくした彼女は適当な理由をつけては異世界召喚を行わせた。結果、彼女の世界では年千人単位で異世界召喚が行われ、元から彼女の世界にいたヒトは数を減らしていた。そのうえ、彼女は世界の管理はヒトに任せほとんど遊び惚ける日々を送っていた。
「アリア...流石に今回は戻った方がいいと思うわ。許可を得ずに違う世界に行くのはかなりまずいことよ。もし、最高神様の目に止まったらどうなることか。それに、世界の管理は神としての責なのだからちゃんと──「わかった!わかったからお説教なんてやめてよね」」
心底うんざりしたような表情をしたアリアディーナは、リリアンヌの言葉を遮った。
「もう...。リリアは心配しすぎなのよ。このぐらいで罰を受けるならとっくに受けてるわよ。今、こうして問題ないってことは大丈夫ってことなのよ」
笑顔でそんなことをいう、アリアディーナの姿にリリアンヌは何も言わずただため息をついた。
「あれ?」「...ん?」
そんな彼女たちの元に連絡が届いた。相手は今まさに話題にしていた最高神。神々の中で唯一自分の世界を持たず、あらゆる世界と神々を管理しているいわば上司のような存在であった。しかし最後に連絡をよこしたのははるか昔、世界が生まれた時だろうか。滅多に現れることがなく、神々の間でもその存在さえ怪しいと思っているものも少なくない。そんな相手からの連絡に疑問を覚えながらもアリアディーナは、内容を確認し──
「...はい?」
目が点になった。書いてある内容が理解できず、二度、三度と何度も繰り返して確認する。しかし、何度確認しても書かれている内容は同じ。内容を理解していくうちに、アリアディーナの顔が真っ青になっていく。
「うそ...嘘よね。これ、冗談よね...」
「アリア...これ...」
「わ、私帰る!!」
「アリア!」
いつものおちゃらけた雰囲気は見る影もなく、ガクガクと震えながらアリアディーナは自分の世界へと戻っていった。
頻発する異世界召喚について───────
そう始まった連絡は、すべての神々に届いていた。
本来、自分の世界で発生した歪みはその世界の神が対処すべきものであり、異世界はもちろん自分の世界の生物に対処させるべきではないとされていた。しかし、対処を任せたことで発展した世界も多かったこと、特に異世界の者に対処させることは効率及び世界の発展という点において大きな成果を出しているため、今までは黙認していた。しかし、最近は異常ともいえるほど異世界から召喚を繰り返し、碌に神としての責任を果たさないものが目立つ。故に、最高神の名のもとに規則を追加することとした。これは、本連絡が届いた時をもって規則となる。規則を破ったものは、厳罰に処す。
そして、その規則は──
異世界召喚によって召喚されたもののカルマはその世界の神のカルマとし、規定値以上カルマがたまった神は「転生1000年の罰」に処す。
カルマは、ヒトが生きていくうえで行ってきたことの積み重ねである。どんな善いことをしたか、どんな悪いことをしたか、そういったことが積み重ねられヒトの来世が決まるとされる。そのカルマを神も同様に積み重ねることになる。これは、怠惰にしていた神にとって最悪といってもよい規則だった。
本来、異世界からヒトを召喚するということは諸刃の剣である。もし、邪な心をもつヒトを召喚してしまえば世界にとって害悪にしかならない。そうならないよう、召喚するヒトは厳正に審査しなければならない。能力はもちろん、人格も十分に考慮する。さらに、召喚された後に堕落する可能性もあるためそちらにも気を回さなければならない。それは、神にとって負担にしかならない。そのため、多くのまともな神からすれば異世界召喚は最後の切り札として人々に伝えている。しかし、怠惰な神々はそんなことは一切考えず楽するために好き勝手に召喚させた。アリアディーナも同様であり、好き勝手に召喚させ自分は碌に介入していない。召喚するヒトもまともに調査せず、よほどの悪人でなければスルーしていた。
しかし、これからはそうはいかない。召喚したされたもののカルマをその世界の神も積み重ねる。つまり、召喚したヒトが悪事を働けば神の責任となり、最終的に罰を受けることになる。「転生1000年の罰」は、何かしらの生物を形でどこかの世界に転生させられ、合計1000年生き続けるという罰だ。転生させられる先は
小さな羽虫、食べられるだけの小魚、飢えて死ぬ運命を背負った乞食など楽しみなど存在せず、生きるために必死にならざるものばかり。楽すること・面白いことを求め続ける神にとって地獄のような1000年である。
「やめてやめて召喚しないで今のままでいいからお願いだから」
そんな未来が遠からず訪れることを予見してアリアディーナは自らの神域で自分の信者たちに言葉を伝えようと必死だった。何せ好き勝手異世界召喚を繰り返していたことで召喚されたヒトの数は元々自分の世界にいたヒトと同等以上いる上に、これからも増え続けていくのだ。世界を滅ぼすような大悪党は、いなくても善人ばかりのはずもなく、確実にカルマは蓄積されていく。さらに、碌に世界を管理をせず、信仰していたヒトの前に現れたのも異世界召喚技術を与えた最初のころだけ。そのうえ、世界に異常が起きても彼女は何もせずヒトの努力でどうにかしてきた。そのため、彼女の世界では名前こそ知られているが心から信仰しているヒトはいない。
「ちゃんと管理するから勝手に他の世界に遊びに行かないから」
必死になってアリアディーナは、自分の世界にいる人々に向けて語り掛ける。しかし、誰もその声に反応しない。アリアディーナは、異世界召喚が行われるたびに自分の首が締まっていくのを感じていた。必死に呼びかけても、聞いてくれるヒトはいない。何か困ったことがあればすぐに異世界召喚に頼る。祭りあれば、祭りの目玉として異世界召喚を行う。ことあるごとに異世界召喚を行うよう仕向けたのはアリアディーナ自身。目的は、自分が楽しむため。その結果がこれである。
「お願いだから、異世界召喚はもうやめて!」




