とあるおっさんの異世界論 ~お前の異世界グンマかよ!~
本作には残酷な描写がございます。私自身にとっても。
俺の名前は岸田。20の大学生だ。
高校生の時に読んだライトノベルに感激して、小説かを目指して1年努力してきた。
とはいえ、所詮素人。独力では限界を感じ、一念発起して友人に意見を求めることにしたのだ。
「ご注文はどうなさいますか?」
「ドリンクバーふたつ」
「かしこまりました。あちらの入口前にドリンクコーナーがございますのでセルフサービスのご協力をお願いいたします」
ウェイトレスは伝票を置き、一礼するとスタッフルームへ下がっていった。
「どうかな?正直に教えて欲しい」
「うーん、まぁキャラクターはテンプレートだけど好感持てるし悪くないと思うよ」
友人は珈琲を含むと顔をしかめた。
「展開もどこかで見たことあるけど、しっかりしてるし矛盾もない。でも、肝心の異世界感ってのが全くないんだよね」
「え、どういうことだ? 詳しく教えてくれ」
「まずさ、お前の異世界1日が24時間、およそ30日で1か月、1年365日であってるよな?」
「あぁ。その方が分かりやすいしな」
「確かに、独自の単位で200日が1年とか言われても分かりにくい。でも、この秋の収穫祭とかカボチャ飾り出してハロウィンまるだしだ。 そもそも元々カブだし」
「季節も同じようにあるんだろ?女の子が1行だけ説明してたけど」
「あぁ、春夏秋冬しっかりあるぞ」
わずかに生まれた空白。痛いところを突かれた。素直にそう思った。俺は続く言葉を受け入れるのが恐ろしく、思わずドリンクを飲みほした。無性に喉が渇く。
「じゃぁさ、日本と何が違うんだよ?」
もっともだった。友人はさらに続ける。
「身分制度があって、中世と同じ封建制度。魔法があって魔物の被害に困っている」
友人が珈琲を啜るわずかな時間が果てしなく長い。
「日本だって身分制度あったし封建制度だったぞ? 確かに魔法や魔物はないな。でも、陰陽士と妖怪に置き換えちゃだめなのか?」
「それじゃダメなんだ!異世界で姫や女騎士は鉄板要素なんだ」
「まぁ確かに、お約束ってのはあるな。アーサー王伝説にはマーリンやエクスカリバーがつきものだし、助さん角さんのいない水戸黄門はありえない」
「だろ?! やっぱり異世界行くからには出すべきなんだよ」
思わず熱くなった俺を、友人は手のひらを見せ制止する。
「お前の気持ちは分かった。ならせめて“らしさ”を出さないと」
“らしさ“か。いざ面と向かって問われると回答に困る。
「うーん、口調や服装だけじゃダメなのか?馬や馬車で移動だって異世界らしい要素じゃないか」
「それは異世界と言うより中世ヨーロッパの要素だ。中世ヨーロッパ風の世界に魔法がある世界っていうのがお前の言う異世界なんだろう?」
「あぁ、そうだ」
「なら、ヨーロッパっぽさを出そう。歴史が参考になるから一度調べてみろ。この作品で言えばそうだな、獣人は迫害されて苦しい思いしてるんだろ?」
「その通りだよ。亜人種は人間に迫害されている」
「ならジプシーの扱いやユダヤ人の歴史を調べてみろ。中世において彼らがどんな目にあったかよくわかるぞ。正直言って、獣人だとばれて怒鳴られるなんて可愛いもんだ」
「そんなひどいのか?」
「国のない人種がどんな悲惨な目にあうかよくわかる」
「描写が足りてないのか?」
「そういう訳じゃない。これはただ俺が目に付いただけだ。話の趣旨にそぐわないなら無視しても良い。これはあくまで深みを出す要素だな。どんな酷い目にあったか語りたいわけじゃないだろ?」
友人は言葉を切ると半分ほど残った珈琲を空にした。
「だが、決定的にまずいところがある。この食事の描写はどうにかした方が良い」
「どういうことだ?」
「中世ヨーロッパで食える食事なんて限られてる。同じ程度の発展しかしてないのに異世界だからと言って簡単に手に入ると思うか?現代みたいにサンドイッチ、具沢山のスープが毎日食べられるなんて異常だ」
「そこは魔法で……」
「種火は何とかなるかもしれない。けど、魔物のせいで畑広げられないし狩りにも苦労するだろう。家畜なんか人でや飼料がいるから簡単に飼えない。第一、誰が魔物から守るんだよ」
「そこは冒険者が」
「ちょっと順番を考えてみろ。冒険者は依頼を受けて村に向かうんだ。毎回、依頼してたらお金なんていくらあっても足りない。普段は住人でどうにかするしかないんだ。更に言えば冒険者も碌にいない、山奥の簡素な村って記載がある。だったら地主だって収穫時期でもなければ保存食くらいしか食えないぞ」
「だが、詳しく書いても話の本筋とは関係ないんだろ?」
「そうとも言えるし、そうでないとも言える。例えばだ」
「とある寒村がゴブリンに襲われ、食事もわずかにしか取れないほど困窮している。でも依頼を受けてやってきた主人公をもてなすためにサンドイッチが出てくる。興ざめだろ」
「言いたいことはわかる」
「だろ? 逆に話を盛り上げることもできるんだ。言葉で直接説明しない部分を匂わせるんだ」
「どういうことだ?」
「石臼から漏れた穀物の細かいカスを必死に集めてる農夫を見てどう思う?貧しさ、切羽詰まった印象を受けるだろ?」
「確かに」
「文章のはしはしから伝わる細かいメッセージで読み手はイメージを固めるんだ。しっかり場面の想像ができた後にキャラクターが“実はゴブリンの襲撃で困ってるんです。畑が荒らされて食事もままならない。どうか助けてください”と告げるんだ。説得力抜群だろ?」
「俺にもお前の言う場面が想像できたわ」
「読んでるときだけはお前の世界にいるんだ。魅力はお前自身が伝えないと」
そこで友人は珈琲に手を伸ばして空になったカップに気づく。おかわりより話を優先したのか顔をしかめて水を一口含むと続きを切り出した。
「さて、話を戻そう。異世界らしさを表現する方法だ。鉄板で言えば月が二つあるとかだ」
「あぁ、有名な作品でも見るな」
「日本じゃ絶対あり得ないからな。そうだな、こんなのはどうだ?」
どうやらこの世界は二つ太陽が存在しているようだった。幸運にも身に着けていた腕時計で確認したところ、昼にあたる午前7時から午後6時までは赤い太陽、夜にあたる午後8時から午前6時までは青い太陽が昇っているらしい。夜と言えるのは太陽の入れ替わる1時間。太陽の輪郭がわずかにのぞいているせいで、星もわずかにしか見えなかった。
僕を拾ってくれたのは100名ほどの部族だった。夜を貴び、変化の象徴とみる風習から珍しい黒髪を歓迎してくれた。なにより、彼らは数日前に族長が変わったばかりで“タクマ”という彼らの言葉で星の名を持つ僕がやってきたことは吉兆に他ならなかったのだ。
「どうだ?異世界です!っていうより一気に魅力的になっただろ?」
「あぁ。彼らはいつ寝てるのか、太陽が変わるとどうなるのか一気にワクワクしてきた」
俺の高評価に友人はしたり顔だ。長い付き合いだが、テストでいい点とった時もこんな感じだったな。
「見たことない情景は心が躍るものだ。だから、よく日常を観察して当たり前を破壊するんだ」
「ありがとう。俺はちょっとありきたりな世界に固執していたようだ」
「勘違いするなよ? 勿論それだって悪くないんだ。歴史ものだって面白いし、現代ものだって面白い。ヨーロッパの街並みを見るだけで思わずワクワクするのもまた事実。けど、どんな世界か雰囲気が伝わってこない。それはあまりに風情がないと思わないか?」
「本当その通りだな」
「ちょっとおかわり入れてくる。お前もいるか?」
「大丈夫だ。さんきゅ」
俺は自分が大好きだった作品を思い出した。神や竜、魔族が入り乱れる世界で、主人公は生き生きと暴れまわっていた。次第にアニメだけでは飽き足らなくなり、原作はもとより設定集まで買いそろえて世界にどっぷり浸っていた。
「待たせた。どうだ、いい案は浮かびそうか?」
「いくつかな。ありきたりだが古代魔法文明を使ってみようと思う」
「無難だが、悪くないな。やはり古代の超文明はロマンがある」
「だろ? 書きあがったらまた読んでくれないか?」
「喜んで」
どこか晴れ晴れとした気分だった。俺は大切なことを忘れていたのだろう。俺が好きになったものがなんだったか。単なる記号じゃない彼らの世界で生きる彼らが好きだったんだ。
「あ、一つ言い忘れていた」
「なんだ?」
「出すものはしっかり選べよ。でないと悲惨ことになる」
友人の真剣な表情に思わずつばを飲み込む。一体どうしたんだ。
「どこでも支払出来るギルドカードって思いっきりクレカか電子マネーだろ?! PCもない世界がどうやって管理するんだ! 田舎じゃいまだに使えないところだってあるんだぞ?! 別に出すなって訳じゃない。出すなら納得させろと言っている! 古代からシステムを維持し続けている精霊や商売の女神を登場させたり、やりようがあるだろ?!」
お読みいただきありがとうございます。
まず筆者は群馬に偏見はございません。
住んだこともありますし、だるま大使でトンコツを粉落としで食わされたこともあります。
本作はランキングを漁ったり、本棚から好きだった読み返しているうちに感じた胸の内を好き勝手に書かせていただきました。
偉そうに書きましたが、本作についても自分の描写力の無さに苦心しております。
きちんと作品を登校する皆さまは尊敬もしております。
が、遍歴のプレンズウォーカーにして異世界フェチである私としては許せない点だったので自身の修行もかねて書かせていただきました。
エッセイや書き方論を読んで勉強中です。
お勧めあればこっそり教えてください。
あと、異世界行く方法も募集中です。