第五話 孔明の罠
時まさに5月。
薫る風に誘われて、窓から校庭にゆったりと目を向けていたところ。
いた。窓枠のところに。
体長約30cmの、「現代妖怪」が。
しかし何だ、あの格好は?
白い羽根でできた大ぶりの扇を持ち、布の冠を被っている。
扇からビームを出したり、「ほかに することは ないのですか」とか言い出したりしそうな雰囲気。
こちらを見るや、ニヤリと笑った。
その刹那、先生の声が高くなる。
「ここから先は、テストに出すからね~。ノート取っとけよ~。それじゃあ……」
おおっと。
おかしな妖怪に付き合っている暇などない。
あ、あれ?シャーペン、芯を出してなかったっけ。
急いで押さなくちゃ……
(うがあああっ!)
授業中である。声を出すわけにはいかない。
いかないけれど……。
シャーペンのお尻ではなく、頭のほう。
金属の芯ガード(?)を、親指の腹で全力プッシュしていたのであった。
痛い、痛いって!
時々やってはまた忘れてやらかすんだけど、痛いんだよこれは!
ああ、先生がどんどん話を進めてる。
ふだんゆるゆるの癖に、こんな時だけ話を詰め込まないでください!
その間に中華風現代妖怪が、俺の机によじ登ってきた。
「我が名は小梅!シャーペンの芯を出そうとして尖ったほうを押してしまったり、カップ焼きそばのお湯を捨てようとして麺をシンクに落としたり、ゴミをゴミ箱に投げようとして中身の方を投げてしまったり!それ全て、わらわの仕業、罠によるものなのじゃ!」
つまり?
「『自分が100パーセント悪いけど、気持ち他人に転嫁せずにはいられない』ような小さな災いを司る妖怪である!人はその時『孔明の罠じゃ!』とか『天狗の仕業じゃ!』と泣き言を言い、わらわの存在に思いをいたすのじゃ。恐れ入ったか!」
小梅の罠、ね。
しかし、ちっちぇなあ。
「大きな災いになると、口を拭ってガチの責任を他人に転嫁するじゃろ?わらわの出番は無いのである!」
洞察力だけは孔明ばり……なのか?
30cmサイズだと思っていたが、近くで見るとすこし小さい。27cmぐらい?
ちなみにリモ子は32.6cm。人間なら、163cmと言ったところだ。
しげしげと眺めていたところ。
「あ、忘れとった。人の目には滅多に見えぬというのに、せっかくのご指名。リモ子たちにならい、サービスじゃ」
どこでそんな言葉を学んだものか、それはさておき。
着物の胸元を少しくつろげ、前かがみになった。
リモ子は同年代っぽく見えるし、はずみはその、大きいし。
でもこの小梅はねえ。どう見てもロリ系、アウトでしょと思いながら。
それでもやっぱり、目線を下げて覗き込もうとしたところ。
力が入った指先のせいでシャーペンの芯が折れ、目を直撃。
大爆笑が聞こえてきた。
孔明の罠じゃ!