第二話 あい!まい!もこ?
「で、リモ子。君は結局何なの?」
「だから、リモコンを隠す妖怪だってば。使う時に限ってリモコンが見当たらない、それは私のせいなのです! 昔もいたでしょ?ぬりかべとかすねこすりとか」
道で急に進めなくなるのは、ぬりかべのせい。
妙に足がもつれるのは、すねこすりのせい。
「……だったっけ?」
「そう。石破○ゲルの妖怪事典にも書いてあったよ?」
「水木し○る、な?確かにどっちも妖怪っぽいし、島根県に生息してるけど」
……あれ?鳥取だったっけ?
考え事に、ちょっと上を向いたら。
空から30cmの女の子がー!
しかもふたりー!
縞ね!水玉!
「呼ばれたから出てきました!あたしはあい!」
「あたしはまい!」
また妖怪ですか!?
「どうでもいいけどよく似たふたつ。『あれ?どっちだっけ?』とふと気になる!それはあたしたちのせいだよ!」
「島根と鳥取、栃木と群馬だね!」
謝れ!4つの県の皆さまに謝れ!
「夏、小さくてピカピカした虫が道端に転がっていた時!ふと思う!」
「あ、カナブン。……あれ?コガネムシだっけ?どっちかな?」
「テレビにかわいい小動物!」
「あれ?ハリネズミ?ハリモグラ?」
……そういえば、ヤマアラシなんてのもいたな。
違うことははっきり分かってるんだけど、どう違うのか分からない。
って、うわあ!
「なんだお前!どこから湧いて出た!」
何か陰気な30cm妖怪が、うっそりと。
「あたしはもこ。よく似たふたつに思いを馳せた時、『ついでに気になる、さらにどうでも良いみっつ目』……を象徴する妖怪……」
「あいとまいの影に隠れてるんだよ!」
「陰キャだね!」
やめなさい!いろいろと心が痛いからやめなさい!
「栃木!」「群馬!」
「……茨城……」
だから謝れ、な!
あれ?そういえば……「茨城」?「茨木」?「いばらき」?「いばらぎ」?
「石破○ゲル!」「水木し○る!」
「……松崎しげ○……」
それは陰に隠れてるんじゃなくて黒いの!
むしろ陽キャでしょ!めちゃくちゃ歌うまいし!
影があるのは建築妖怪・城島し○る!……あれ?農家だったっけ?
「良かったね、まい! 簡単にドツボにはまってくれるよ!」
「そうだね、あい! どうでもいいことが気になりだしてるね!」
「……わたしたち、ここで暮らせそうだね……ふひっ」
どういうこと?
「妖怪は、認識されなければ生きていけない。たとえば私、『リモコン隠し』は、昔は存在すらしていなかった。テレビが無かったから、認識されようもなかったの」
そりゃまあ、そうでしょうね。
「人間が認識してくれれば、私たちはこの世界に存在できる。私たちを見ることができて、はっきり認識してくれるユウタ。あなたは私にとって大切な存在、なんだよ?」
潤んだ目がこちらを見上げている。
ど、どうしよう。何か言わないと……でも、何を。
そうだ!
「あのさ、リモコン隠しと言えば、ライバルがいるじゃん。その、名を呼ぶのが憚られるアレ」
潤んだ目がジト目に変わる。
俺はいま、明らかに何かその……「チャンスを失った」。
くそ!もったいない!
「あんなのと一緒にしないでよ!あれは、現象そのものは大昔からあったと思うよ?だけどそれが『怪事』と認識されるようになったのは、インターネットが広まってからじゃない? だからあいつは私より新しい妖怪!若僧のシャバ僧なの~!」
つまるところ、彼女たち「現代妖怪」とは。
現代になって認識されるようになった森羅万象、あるいは「日常あるある」。
それを司る存在なのである!!