7月20日②
眩しさにやられた目が落ち着いたのを感じ、咲希は目を開けた。びっくりしたね、と兄がいた方を振り返ると――――
そこに秀の姿はなかった。それどころか、部屋ですらなかったのだ。
(―――え!?何!?どういうこと!?)
咲希はパニックになった。自分は部屋にいたはずなのだ。それなのに見たこともない広場にいる。しかも、兄の姿はない。
「お兄ちゃん?お兄ちゃんどこ!?」
兄の姿を探してあたりを見回す。すると咲希は見たこともないと思った広場に既視感を覚えた。
「あれ、ここどこかで……」
思い出そうと広場を更に見渡し、広場の中央にある噴水に向かう。つい最近見た気がするのだが、どうにも思い出せない。じっと考えこんでいると、何かが走ってくる足音が聞こえた。何気なく音の方向に振り返ると、馬に乗った騎士のような人たちが複数咲希の方に向かっていた。そして、騎乗したまま一人の騎士が剣を咲希に突きつけた。
「お前は何者だ。突如現れたというのは本当か。」
咲希は目の前にある剣先に、恐怖と混乱で石のように固まった。
「黙ってないで答えろ。」
その冷静だが威圧感のある声にビクッとし、咲希は恐る恐る相手の顔を見た。銀色の髪で、長過ぎず短過ぎずといった長さのシンプルな髪型。瞳は深い紫色で、意志の強さが表れているようだった。よく整ったその顔立ちに惹き込まれるように見ていると、また既視感を覚えた。
(私、この人を知っている……?それにこの言葉は………)
「もう一度聞く。お前は何者だ。」
(これ、ソルディール語!?)
咲希は一気に血の気が引くのを感じた。目の前に騎士が兄と自分しか知らないはずのソルディール語を話している。そこでハッとして、噴水に振り返った。
(そうだ、あの噴水。お兄ちゃんのゲームで最初に出てくる背景にあったやつだ。その後もデートイベントとか色んなところで出てきた……え?じゃあここってソルディール国……?どういうこと!?………っ!!)
この場所がソルディール国だと思い至った咲希は、再度目の前の騎士を見た。
「グレン・レオハルト………?」
グレン・レオハルト。精鋭が集う国立騎士団で、20歳という若さで副団長になった男。そして、攻略対象者である。