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女の子の笑顔に勝る攻撃はなし

「い、いきます!フォートレス様」


「あぁ────遠慮せずこい」




俺から50メートルほど離れた位置でアルシアが杖を掲げ、詠唱を開始した。


常人の魔力量なら約5分の1本で全回復する学園長謹製魔力回復薬を何本も飲んだアルシア。それでまだ全回復ではないというのだからアルシアの魔力量がどれだけ常識はずれなものか知れる。



詠唱の言霊が紡がれるにつれ魔力が渦巻き、風が巻き起こり訓練場の土が舞い上がる。

彼女から放出されるその巨大な力の奔流は過去に見た英雄達に劣るとも勝らないものだった。



「英雄、か────」



この世界でも何人も生まれ、そして戦い、そして死んでいった者達。

彼女のギフト(試練)はその英雄へ至る道の障害としてのものなのだろうか。





なぜ俺とアルシアが対峙しているかを説明すると、言葉ではめんど────もとい、ぐだってしまうと思うので、以下回想シーン。アルシアが別室で胸元の紋章を確認している間にルーシェリアさんとした会話より抜粋。












「んで、話したいことというのは?」


「はい。実はフォートレス様には一度アルシアと模擬戦をして欲しいんです」


「ん────あぁなるほど。分かった。アルシアの攻撃を防げばいいんだよな?」


「はい。誠に失礼ですが、フォートレス様のお力を示して欲しいのです。私達が純粋に興味があるというのもありますし、なによりアルシアさんは一度フォートレス様の能力に相対しておくべきだと思います。なにせこれから一緒に戦っていくコンビなのですから」


「それは全くその通り。まぁ俺は問題ないが、場所は?」


「第二訓練場が空いていたと思います。そこでやりましょう」


「ふむ。ではアルシアにも言わないとな」


「フォートレス様。そちらの部屋では今アルシアさんが服をはだけさせているところです」


「………………」


「………………」










以上回想終了。




そんなわけで俺とアルシアは現在第二訓練場のフィールドで向かい合っているというわけだ。

この第二訓練場とやらを例えるのならローマのコロッセオをきれいに整備したような形をしている。別にフィールドの下に控え室っぽいところとかはないけど。ルーシェリアさんとセレスさんは観客席に座って観戦している。



それにしても。




「…………長いな」



アルシアが詠唱しているのは恐らくLv.6火属性魔法。

俺はもう防御の用意は出来ており、回想シーンに入ったりしていたがそれでも彼女の詠唱は終わらない。


そもそもLv.6魔法は対軍魔法に分類される。一個人に向けて放つ魔法じゃないし、本来の運用方法ならがちがちに固められた防護の中、魔力を暴発させないように慎重にゆっくり詠唱をして切り札の一つとして放つのが基本。


なら彼女は軍や他の生徒から勧誘を受けたりしないのか?と言われれば──────




「恐いんだろうな。魔力の暴発が」




あの世界で例えるなら人類最悪の過ちにして人類最強の兵器、核兵器だろう。


放てば一撃必殺、しかし暴発すれば死は避けられない。そんなもの。

魔力というのは扱いがデリケートだ。魔法を放つには詠唱が必要である。これを省く詠唱破棄というスキルもあるのだが──それの説明は今は省略しよう。


魔力変換器官に魔力を流し込み、それを魔法として現界させ、放つ。詠唱はその一連の工程を安全に、確実に成功させるための道標。そして暴発を抑えるための安全装置(セーフティ)である。



もし莫大な、軍を相手取るほどの魔力が制御を失って暴発したら──────都市の一つや二つは軽く吹き飛ぶ。



老齢で熟練した魔法士が使うのならある程度信用はできる。

だがそれを操るのが十代の少女などとなると、兵士は信用できない。

同級生であるがゆえに、生徒達は理解できない巨大すぎる力に恐れをなす。



そうして彼女は孤独となり畏怖と侮蔑の視線を向けられ────そして俺を召喚した。




「────美少女に頼られて、それを拒否するなんて男として失格だよな」




思考を巡らせている間に閉じていた眼をゆっくり開けていく。


そこに瞳にうつるは一生懸命集中しながら言霊を紡ぐ少女。

ギフトといい、俺と巡りあったことといい、全てのことが告げている。きっと彼女はこれから大きな事に巻き込まれていくだろう。それこそ、英雄達が活躍してきたような大きな出来事に。






けれどそんなことは一旦脇に置いておこう。




なによりもまず──────一人の女の子の手助けをすることを目標とでもしようか。






◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆







アルシアが詠唱を始めてから約30分程たった。



「準備──出来ま──した──フォー──トレス様──いき──ます」



アルシアの魔法発動の準備が整った。

Lv.6魔法の詠唱タイムは約30分か。つまりその30分が俺が彼女を守るべき時間。



「────神格限定解放。【千年城壁(フォートレス)】」





魔力の粒子が俺を取り巻き、渦巻き、荒れ狂う。


魔法とは違う──────純粋な【存在】の力。





「──────こいっ!!」


「──────【灼竜の咆哮(ドラゴニア・ブレス)】!!」





刹那、紅き焔の奔流が俺を焼き尽くさんとアルシアから放たれた。



その魔法名の通り竜のブレス────全てを消し炭にすると云われる破壊の炎を模したLv.6魔法。

勿論本物のブレスに比べれば数段威力は落ちるがそれでも軍団一つを塵と化させるには十分な威力をもつ正真正銘の対軍魔法。





並みの存在なら余波だけで消え去ってしまう竜の咆哮を、俺は。






「──────城壁展開」





──────前方に現界させた石造の城壁によって防いだ。



大きさは縦3メートル横5メートル程の小規模なもの。だが本来都市を守る大きさで発揮される力をこの小さな壁に凝縮しているため、防御力は折り紙つき。



竜の焔は壁に衝突し、進行を阻む障害物を消し去らんと劫々と音を立てて突き進んでくる──────だが。




結局、30分もの時間をかけて発動した竜の咆哮は目標に熱を与えることも出来ず、細々となっていき、ついには消えてしまった。




「…………ふぅ。まぁこんなもんか」



前方に展開していた城壁を消し、でてもいない汗を拭うふりをする。まぁこれは様式美ってやつで。




「【灼竜の咆哮】を無傷で…………」


「…………これが、神霊」




観客席で唖然としている二人はおいておいて、俺は杖を降ろし少しだけ疲れたような顔をしているアルシアに近づいていく。



「お疲れ。流石だな。凄い魔法だ」


「ありがとうございます…………でも、流石です。フォートレス様。私の魔法を防いだのはフォートレス様が初めてです」


「ま、そこらへんは城壁神だからな。そう簡単に防御を突破されちゃたまらねぇよ」


「はい…………でも、これで」



ほんの少しの溜めのあと、アルシアは顔をこちらにむけて、にこっと満面の笑みで



「私とフォートレス様はお互いの力を知った、真に信頼し合えるコンビになりましたね!」






……………………………。









……はっ!?あっぶねぇ!?意識がとんでた…………ふぅ。アルシア恐るべし。危うく堕ちるところだった…………。

まぁ俺は神だし?このくらいの攻撃じゃ防御は突破されない。そう簡単には攻略されないからね!


ところで籍ってどこでいれればいいの?




「あの、フォートレス様?」


「あーいやなんでもないよ?」


「……なんでしょう。時々フォートレス様が凄い思考をしているような感じがします」


「ハハハハ、イヤマサカ?」


「きっと私には思い付かないような深いことを考えているんですね!!」



いや深いことっていうか、あなたにとって不快なことを考えてるかもしれませんよ?



ちょこっと残念な感じがする彼女の頭をぽんぽんやっていると、ルーシェリアさんとセレスさんが冷や汗を垂らしながら近寄ってきた。



「凄まじいですね…………フォートレス様。もしやLv.7以上の魔法も防げるのですか?」


「ん?まぁLv.7、8くらいは余裕。9はぎりぎりで10からは全力出さないときついかな。Lv.10には対神魔法なんてのもあるし」


「…………」



うーん唖然としてますねぇ。紛いなりにも神ですからそれくらいは出来ないと。主神様にもしごかれましたし。



「さて、これからどうすればいいんだ?」


「…………はっ!?あ、えぇと登録も終わりましたし……こちらで色々と調整するので休んでいただくことが良いかと。アルシアさんも今日は色々あって疲れたでしょうし」


「分かりました。ではフォートレス様。私の部屋へ行きましょう」


「はいよー。ではルーシェリアさん達、また会えたら。あとアルシア、トレスな」


「……はい。トレスさん。学園長先生方、失礼します」


「……フォートレス様」




くるりと踵を返したアルシアを追おうとすると、ルーシェリアさんに呼び止められた。


振り返るとなんとも真剣な顔をしたルーシェリアさん──否、学園長の顔をしたルーシェリアさんがいた。




「……この学園の生徒達は私の子供のようなものです。どうか、ご容赦を」


「…………?危害を加えるなって?心配するなよ。そんなことはしない」


「……はい。そうですよね。呼び止めて申し訳ありませんでした」



そう言って一礼すると、ルーシェリアさんは学園長室の方へ歩いていった。セレスさんはこちらに慌ててお辞儀をしそれに着いていく。



「……ご容赦?」



はて、俺がここの生徒達に容赦しないことがあるのだろうか────って、あぁ。



「……トレスさん?どうかしました?」


「ん、んにゃなんでもねぇよ。んで寮ってのは?」


「はい、こっちです」




ウキウキしながら歩いていくアルシアを微笑ましく見つめながら、俺はここに来る道中でみた他の生徒達がアルシアへ向けていた畏怖と侮蔑の視線を思い返していた。

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