これからよろしく
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前話の最後で「中級中位以下の全魔法の使用不可」という部分を「Lv.5以下の全魔法の使用不可」というように訂正しました。
「………………は?」
なんだそれは。なんだその常識はずれのギフトは。
中級中位以下の魔法の使用不可?耐久系ステータスの大幅減少?防御系魔法・スキルの習得不能?バットステータス過ぎる。こんなギフト、この世界のバランスが──ゲームバランスが崩れてしまう。
唖然としているとアルシアは取り繕うように
「あ、でもバットステータスだけじゃないですよ?保有魔力の大幅上昇とか、魔法の威力の上昇とか色々あるんです!」
「そ、それでも──」
あり得ない。本当におかしい。どうかしている。
確かにマイナス効果があるギフトを与えることは別段珍しくもない。だがそのマイナスギフトを与える理由としては『試練』を課すためというのが第一の理由なのだ。
マイナス効果のギフトを与えられることでその付与された人間は必死にそれを抱えながら生きようとし、見事乗り越えた先に『試練』を越えた褒美として新たな力が与えられる────といったように能力の進化を促すためにマイナスギフトは与えられる。
だが、これはいくらなんでもやりすぎだ。
「…………とりあえず、ステータスカードって持ってるか?持ってるなら見せてくれ」
「え?あ、はい…………どうぞ」
懐から取り出した免許証くらいの大きさの金属板。これが己の能力を表示する魔術具の一種【ステータスカード】だ。
ステータスを世界システムに導入した際、最高神様が当時の各国トップにステータスカードの魔術具のオリジナルと量産用魔術具を配布したらしい。そのオリジナルは今も各国の宝物庫に最重要魔術具として保管されていると聞く。
量産用魔術具のお陰で機能は少々落ちるが基本性能は同じステータスカードをいくらでも量産できるので、申請さえすれば普通に貰える。この世界の人間は殆どステータスカードを持ち合わせており、身分証明書にもなっていることを考えるとこの世界でステータスカードは信用度がかなり高いアイテムといえよう。
……ちなみになんでこんなに詳しいのかと聞かれれば城壁時代、中にいた兵士の会話を聞いたり、天界に昇った後で【下界マニュアル】なる謎説明書を読まされたりしたからだ。下界マニュアルは分厚さ広辞苑10冊以上ある阿保みたいなものだった。
あれ読むだけで何日徹夜したか……読み終わるまで寝るなっていうんだぜ?別に神は寝なくても平気だけどさ。寝なくても平気ってだけで寝ないってことじゃないからね?ヤバイ天界ブラックすぎぃ!!
アルシアから受け取ったステータスカードを見てみると
【名前:アルシア・シルスト 性別:女
年齢:16
種族:人族
筋力:D
魔力:S+
魔攻:S
敏捷:C
器用:B
耐久:G-
魔耐:G-
幸運:F
スキル:火属性魔法Lv.6 水属性魔法Lv.6 土属性魔法Lv.6 風属性魔法Lv.6 光属性魔法Lv.6 料理Lv.3 魔術Lv.2
契約:使い魔契約
対象:【千年城壁】
状態:神格制限
ギフト:【防御無視の魔法士】
・Lv.5以下の全種魔法の使用不可
・耐久系ステータスの大幅減少
・防御、付与系魔法・スキルの習得不能
・詠唱省略系スキルの習得不能
・ステータス『魔力』の大幅上昇
・ステータス『魔攻』の大幅上昇
・習得している全魔法のLv.6までのレベルアップ】
……詰め込みすぎだろう、というのがぱっと見の感想。
なにこの中学二年生が思いついただけのものをとりあえず詰めてみました感……お中元かよ。いやお中元でも詰め込みすぎだろ。ハムとビールとサラダ油をそれぞれ段ボール一箱分に詰められて送られてきた気分だよ……どんだけありがとうが欲しいんだ。
冗談はさておき。
「なんだかなぁ……ふざけてる」
「ふざけてる……ですか?」
「あぁ。バランス崩壊も甚だしいぜ、これ。デメリットも、メリットも」
デメリットの方は言わずもがな。このデメリットだけ与えられていたらおそらく戦うことは諦めたほうがいいし、戦わずとも生きていく過程で不自由もでてくる。ステータスランクは上からSS、S、A、B……と続いていきGまである。そして各階級でも三段階に分かれ、CランクだったらC-、C、C+と分かれる。
彼女は物理的防御に関するステータス『耐久』がG-な上に『魔耐』――――魔法に対する耐久力もG-。ぶっちゃけ言えばペーパーナイフで死ぬレベル。これぞほんとの紙装甲。なんちゃって。
…………けふん。
話を戻そう。
メリットの方は……これだって本当に破格中の破格だ。魔法の攻撃力に補正がかかる『魔攻』はSランク。魔力量を示す『魔力』に至ってはS+だ。Sランクとは英雄レベル。世界の命運をかけた戦いの最前線に立つ勇者クラスのステータスなのだ。
魔法スキルのレベルもそう。魔法のレベルはその属性の魔法で使える種類が増えるたびに上がっていく。最高レベルは10だが、Lv.10とLv.9はこれまた最高クラスの英雄の証。百年に一度の天才が一つのことだけ極め続けてやっと到達出来るのがLv.8。彼女はそれよりたった二つしかレベルが違わないスキルを五個所持している。
……けれどLv.6の魔法ともなれば詠唱はとんでもない長さになる。耐久は紙、防御もない、詠唱は長い、集中するため身動きがとれない…………詠唱中にかるーく攻撃すれば簡単に仕留めれてしまうまさに『重大な欠陥』なのだ。
デメリット、メリットを考慮し、もう一度言おう。…………やはり、ありえない。
「……しかし、なんだ?この違和感……」
超高火力なのは確か。むしろ攻撃魔法に関しては彼女はその世界でもトップクラスだろう。それは誰もが認めること。
だが彼女は砲台にしかならない。むしろ砲台としても欠陥品。
彼女をわかりやすく例えるのであれば
『ヘイ!マイケル!みろよこれ!!一撃で都市を吹き飛ばせるギガアメイジングな大砲だぜ!!』
『OH!!超クールでエキサイティングじゃねぇかジョニー!!これがあれば世界は俺たちのものだな!!』
『ただし一撃撃つのにすごい時間かかって、ナイフ一突きされると周り巻き込んで爆発しちまうけどなマ!!』
『あ、ミー急用思い出したわ。あばよジョニー』
『え?ちょまっ……マイケェェェェルッ!?』
みたいな。
ステータス向上は確かに強い。だがそれを打ち消してしまうほどにデメリットの方が強いのだ。だからアルシアもこのメリットがありながらもこのギフトを『マイナスのギフト』と言った。
けれど。これは彼女を守れる…………それこそ俺のような絶対的な防御能力を持つ奴がいたら解決するのではないか?
このギフトは……まるで、まるで何かに守られることを前提にしているような…………?
「……けほっ」
「ん?」
思考の海に沈みそうになっていた俺を可愛らしい咳が呼び戻す。
見ればアルシアがなにやら苦しそうに口に手をあて咳き込んでいた。改めて周りを見るとこの部屋埃っぽいし、扉が一つあるだけで窓もないから空気がどんどん悪くなっていくのも当然。どう考えてもうら若き乙女を長時間居させて良い場所じゃない。
「あー、すまん。一回この部屋でるか」
とんでもない問題を目の当たりにしたおかげで仕事から解放されたハイテンションも下がってきた。思えばなんであんな風に登場したんだろうな……あの登場方法についてアルシアから一言も突っ込みないし。あれも深夜テンションっていうのかしら。だとしたらまた俺は黒歴史を生産したってことに……!!
「も、申し訳ありませんフォートレス様!お気になさらず……」
「いや気にするって。一応俺の契約者なんだし……それにフォートレスって長いし噛みそうだろ。トレスでいい」
「そんな!恐れ多いです!」
「お、おう……」
実を言うと、神になってから人間と直接対話するのはこれが初めてだったりする。だからこうまで下手にへりくだられると……凄まじき罪悪感。元が庶民ですよ?次が無機物ですよ?文句なしの美少女に尊敬されると……ねぇ?
さて、どうしたものか。
「じゃあこうしよう。俺が神ってことを一度忘れてくれ」
「わ、忘れるですか……」
「あぁ」
むむむむ……と目をつむって頭を両側から拳でぐりぐりするアルシア。もうやだこの子可愛すぎ。天界にお持ち帰りしたい!
……そんなことしたら主神様に百回殺されるだろうなぁ……あの人恋愛関係にはうるさいし。自分に夫がいないからって僻みすぎ……っ!?
なんだろう。今とてつもない寒気が。気のせいだよね……うん!気のせいだ!(震え声)
「わ、忘れました!!」
きっと忘れられていないだろうけれど(というかこの短時間で忘れられたら彼女の頭が残念すぎる)、本人が言っているのでまぁ良しとして。頭をぐりぐりしすぎたのか若干涙目になっているアルシアに軽く悶えつつ、彼女と目線の高さを揃える。
ちなみに彼女の身長は160あるかないか程度。今は俺の地球で死んだときの肉体を模しているから身長175くらいなので軽くしゃがんで目線を合わす。
綺麗な黒目を見つめながら俺はアルシアにゆっくりと言い聞かせるように言葉を発していく。
「今の俺は神じゃない。君の契約相手であり使い魔だ。対等な立場だ。だから様とかつける必要もないし敬語もいらない。オーケー?理解したか?」
「なるほど。無理です」
……ほほぅ。
「フォートレス様は私の召喚に応じてくれました……私の救世主になってくれるかもしれないんです。だから……」
謙ってる割には俺の言葉即却下とかしてましたが……まぁそのあたりはアルシアにとって譲れない一線なのか。
ならばこちらも妥協案。ありとあらゆるサボりの言葉を考えていた俺にかかればこの程度!全部主神様に却下されてたけど!
「じゃあ、あれだ。フォートレスってのは俺の今の真名だろ?真名は人にバレないのが一番いい。だから日常時はトレス。力をフルに発揮するときに真名を呼ぶってことにしよう。様も正体がバレる危険があるから名前呼びと同じ感じで。敬語は……もう諦めるけど、外ではある程度軟化した敬語でよろしく」
「む……むむむむ……」
アルシアは数分うんうん唸った後、観念したかのように
「……分かりました。では外ではトレスさん、二人きりの時は真名で呼ばせていただくということで」
「オーケーオーケー。そんじゃま……これからよろしくな。アルシア」
握手のため手を伸ばすと一瞬きょとん、としてそれからあわあわと慌て始めた。いや今度はなんだよ。
「か、神様に触れるなんて……そんな……!」
……あー、もうめんどい。
「ほれ」
「あ」
無理矢理アルシアの手をつかみ、握手の体制へ。それにしても小さくてすべすべだぁ。ただの変態か俺は。
「いーから。これから長い付き合いになりそうだからな。誓いの握手だ。それに実体化してるけどこれ魔力の集合体だから神の肉体ってわけじゃない。パートナーになるのにいちいち遠慮するな」
「ぱ、ぱーとなー……!!」
「あぁ。なんで顔赤くしてるのか知らんが、パートナーだ。だから、これからよろしくな。アルシア」
「…………はい。これから、よろしくお願いします!フォートレス様!」
薄暗い石造りの埃っぽい部屋。そこで握手をしながら一人の少年と少女は誓い合う。
これから、どんな困難にぶつかっても助け合う仲間として。
呼び出した者と呼び出された者として。
そしてなによりも、パートナーとしての誓いを。
この二人がどんなことを為し、どんな風に成長していくかを知るものは、神を含めて誰も居ない。
『あぁ――――――本当に、どうなるんだろうな』