序盤の状況説明はお約束です
「…………えっと」
ぶっ倒れていた少女は魔力を使い果たし、生命力まで削られていた状態だった。
全く、誰のせいでこうなったのやら…………まごうことなき俺のせいですね。
本来なら必要な魔力量は彼女の魔力全てくらいで、生命力を削らなくてもよかったのだ。まぁ、それも能力をかなり制限した状態でなのだが…………。
結局生命力まで削ってしまったのは……その、演出のために少々魔力を吸いすぎてしまった。
炎が蒼くなることとか、現界したときに光の円環作ってみたりとかそういう演出のために少々魔力をもらったのだが、それがちょっと彼女の魔力量を超過してしまったようで。結果的に生命力までもらってしまったのだ。
「どうしような、この状況…………」
一応現界するための最低限の魔力と少しばかりの保険を確保して余剰分を召喚者であろう少女に流し込んだので、しばらくすれば目は覚めると思う。
しかし、目の前で倒れている少女は見れば見るほど美少女だ。
黒髪は艶々で松明の光に反射して光沢ができているし、睫毛は長いは目は大きいわ鼻筋はすっとしているわ唇はプルプルだわ肌は白いわプロポーションも最高だわ…………はっ!?
あぶねぇあぶねぇ……危うく気を失っている美少女をじっくりと視姦する変態になるところだった……バレたら主神様に殺されるな。
ふぅーと出てもいない汗を拭うしぐさをしていると少女が軽く身動ぎするのが見えた。
「あー、おーい大丈夫か?意識あるー?」
「……う、うぅん…………あ、れ?ここは」
むくりと起き上がって片手で目を擦る少女。その一挙一動がなんか可愛い。なるほど、これがあざとさか………。
「確か私は、召喚を…………っ!?」
世界の真理にまた一歩近づいた俺がうんうん頷いていると、どうやら状況を理解したらしい少女は俺を見るとバッと俊敏な動きで距離をとる。
えぇ…………なにその反応……傷つく……
器用に宙で体育座りをしていると、少女はおずおずとこちらを伺うように上目遣いで
「あ、あなたは……」
「俺?俺は何を隠そう、城壁神トレスだ!」
「ひっ」
……………………。
「あ……ご、ごめんなさい!あの、その、まだ状況が上手く飲み込めなくて…………あなたは、私が呼び出した、精霊……なんですよね?」
「……え?あ、はい。そうっすね」
「で、でも城壁『神』って……」
「あー、まぁなんつーか本来は神なんすけど、あんたから生命力根こそぎ奪うわけにもいかねーんで能力を制限しまくって今はどちらかというと精霊よりになってるってことっす」
「は、はぁ……」
「まぁ精霊といっても超級ぐらいの性能はあるんであしからず」
「超級っ!?というかさっきから口調がなんかおかしいですよ!?」
美少女から拒絶させられたら男なら誰でもこうなる。
保険の魔力を使って『燃え尽きたぜ……真っ白な灰に』状態を擬似的に再現しながらだらーとしていると少女は何やら慌てて姿勢を正してこちらを真剣な眼差しで見てきた。なにごと?
「つまり、あなた様は神の一柱ということなのですね。数々のご無礼申し訳ありません」
「いいって別にそういうの。俺は末席中の末席神だし、今の俺は神の力を殆ど扱えないから。敬わなくていいよ」
「ですが……!」
「それより、自己紹介してくれって。俺を呼び出した目的もなー」
へらへら笑いながらかるーくそう言うと少女は少しうつむいた後、こくりと頷くのだった。
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場所は変わらず、召喚された部屋。
ちょこん、と正座しながら座っている少女の対面にあぐらをかきながら座る。何もないのもあれだろうとポケットに突っ込まれていた栄養ドリンクと某固形栄養摂取食品を差し出しておいた。
話し合いのお茶請けとしては……あれだけれど。
初めは遠慮していた少女も強く薦めるともくもくと食べ始める。最近の栄養食品は味も良くなっているからか夢中になって食べていた。可愛い。
ふぅ、と一息ついた少女はじっと見つめるこちらの視線に気付き頬を染め、ふるふると顔を振った後に真剣な顔に戻して話し始めた。やっぱり可愛い。
「まず、私の名前はアルシア・シルストといいます。年は16。王立ルメトス魔法学園の一年生です」
「魔法学園?」
「はい。私たちが今いるこの国【ステルシア王国】にはいくつか魔法とか戦闘技術を学ぶ学園があり、そのうちの1つです。私はそこに今年入学したのですが……」
そこで表情に影をつくり、うつむいてしまった。察するに
「そこに俺を召喚した理由がありそうだな?」
「…………えぇ。実は私は魔法士なのですが」
「うん。まぁその見た目で剣士ですとか言われてもねぇ」
「この魔法学園に入学してからなのですが…………私に、ある日突然とある重大な欠陥を抱え込むことになってしまったのです」
「…………重大な欠陥」
「正確に言うのであれば…………ステータス上にとあるギフトがいきなり現れたのです」
「ステータスっていうと確か古代の魔術具で知ることが出来る自身の能力数値のことだったか。ギフトは……」
「神から与えられた特殊な力をもたらすもの……です」
「そうだな。俺の知り合いの神も何人か下界の人間に付与してた」
ステータス。ギフト。
なんともゲームのようなシステムだと思われるかもしれないが、管理者側──つまり神にしてみればはっきりとした数値があった方が圧倒的にやりやすいのだ。死後の転生だったり英雄、俗にいう勇者の選定であったり…………。
何より人だってちゃんとした指標があった方がやる気だって出るだろう。こちらの能力の数値は低い、ならこっちの高い数値を活かせる仕事をしよう────なんてことも出来るのだ。
このシステムを構築したのは最高神様らしい。なんでも俺のもといた世界のゲームを参考にしたとか。流石最高神様。次元の壁越えて世界を覗き見るとかパナいっす。
ギフトは神が人に与える特殊な力という認識で間違っていない。神々が戯れにつけたりその概念を司る神が、その概念のことを極めようとする者に手助けとして力を与えたりなど様々だ。
かくゆう俺はまだ一度も付与をしたことがない。だってめんどいし。
「ギフトは効果がプラスのものであったりマイナスのものであったりと様々な種類が確認されていますが、基本的に希少なものです。ギフトがあるとわかった当時は喜んでいたのですが……」
「その効果がマイナスのものであったと」
「………………はい」
「さーて誰の仕業やら……そのギフトはどんなのだ?」
「…………【防御無視の魔法士】です」
「…………そりゃまた物騒なギフト名だな」
魔法系のギフト……だろうか。となると魔法神サイスト様か……?
「それで、その効果は?」
「…………効果は」
躊躇うかのように少しの間を空け、アルシアは語った。そのギフトの────とんでもない性能を。
「──────主だったものは耐久系ステータスの大幅減少とLv5以下の魔法の使用不可。それと防御、付与系の魔法・スキルの習得不能です」