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防御極振りと攻撃極振りの異世界譚(仮)  作者: 柴犬
プロローグ こうして二人は邂逅する
1/8

ファーストコンタクトって大事だよね

八百万(やおろず)の神という概念がある。


古来より日本に伝わる考え方の一つで、万物には魂が、神が宿るという概念だ。




分かりやすく例を挙げるとするなら、付喪神。

百年使われ続けた道具には神が宿り、大切に使われていたなら持ち主に恩を返す。ぞんざいに扱われていたなら、仇を返す。


まぁ付喪神は神と名がついているけれど、どちらかというと妖怪や魑魅魍魎の類いになる。だが神秘的なものになる、魂が宿るという点ではちゃんと八百万の概念には沿っている。



そしてこの例における重要な点は、『百年』という時間だろう。



人や、動物や、物は長く生きて使われ続ければ続けるほど、大きな力を得て、超常の存在に成り上がる。




人が長く生きて、仙人になるように。


猫が長く生きて、猫又になるように。


物が長く使われ、付喪神になるように。




万物は────【時間】を積み重ねることにより、一つ上の存在へと昇華する。




八百万の神にしたって、その概念のもとで成り立っているものだ。






────さて。ここで一つの物語を聞いてほしい。




昔々、一つの世界があった。



そこは剣や魔法、魔物や魔王が実在する紛れもない異世界。



最も数が多い人族を中心に、獣人族や土人族、森人族などの亜人族。自然そのものである精霊、そして一般的に『悪』とされる魔族など多種多様な種族が生きる世界。





そんな世界の辺境。

人族の国であるオルレイド王国と魔族の支配地である暗黒領域の境界に、人族の都市があった。


その都市を守る小さな城を中心とした五重の壁は、今まで一度も陥落したことはなく、敵の侵入をことごとく阻んできた。




剣や槍では傷つかず。斧や槌では揺らぎもせず。魔法ですらはじき飛ばし、逆に摩訶不思議な力をもって敵を返り討ちにする不屈の壁。


一説には女神の加護をうけたとも言われるその城壁は、内部で反乱が起こり自滅するまで千年間、一切の侵入者を許さなかったという。



守りの要であったその都市が滅びたことからオルレイド王国が地図から消えて、千年たった今でも人族のみならず、亜人族のなかでも御伽話として──────一つの神話として。その城壁は語り継がれている。

そして人々は敬意をもって今はもう暗黒領域に存在するその城壁をこう呼ぶ。





【不朽の千年城壁】と──────










◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆





「よいしょ……っと。これで良し」




薄暗い部屋。壁や天井、床はすべて石で出来ており、壁には等間隔で怪しく揺らめく松明が掲げられている。

出入り口は1つのみで、内側から鍵がかけられていた。

床にはチョークで書かれた巨大な円形の幾何学模様のようなもの────俗に言う魔法陣。



そしてそこにはその魔法陣をたった今書き終え、一息つく少女がいた。


恐らく16歳程度だろうか。サラサラと腰まである黒髪に整った顔立ちをしている。赤と黒のブレザーのような上着に膝上より少し高めの紺色のスカート。その上にベージュ色のローブを羽織い身の丈程ある杖を抱える姿は、誰が見ても魔法使いのようだと言えよう。



「召喚陣、ちゃんと書けてるよね…………線がきれてるところもないし……あとは……」



その少女は懐から布に包まれた拳大の何かを取り出し、しゅるしゅると布を剥いでいく。



その中から現れたのは────真っ白な石。



どこにでもありそうな石。そこらへんの道端に落ちていそうななんのへんてつもないその石を少女は床の魔法陣──召喚陣の中心に置く。



「露店商の人は魔術的な何かがある石って言ってたけど……確かに何かは感じるんだよね。それが何かはわからないけどさ」



一般的な教室ほどの広さのその部屋で、少女は一人言を呟きながら召喚の準備をする。


召喚魔法陣は1つの大きい円の周り、東西南北の位置に4つの小さな円がくっつき、それら全てを六芒星が中心に囲む形をしている。その全ての円の中には複雑な文字やら模様やらが描かれており、小さな円の中心にはゆらゆらと燃える蝋燭、大きな円の中心には先程置いた真っ白い石。






召喚の準備は、整った。







少女は召喚魔法陣から数歩離れた位置で杖を掲げ────詠唱を開始する。




「【我、アルシア・シルストの名をもって門を開く】」




ぎしり、と。空間が軋んだ。




「【偉大なる精霊よ。我が呼び声に答えよ】」




少女から溢れる魔力が部屋を駆け巡り、暴れ狂う。床に書かれた魔法陣の線がぼんやりと光り始めた。




「【その依り代に宿りて、我の盾となれ。壁となれ。我が魔力を喰らい大地を轟かす力を振るえ】」




魔法陣は煌々と白く光り輝き、蝋燭の火が天井に届くくらい肥大化し、オレンジだった炎は神々しき蒼へと変わる。

中央に置かれた石はがたがたと震えた後、ふわりと宙へ浮かんだ。




「【答えよ。応えよ。堪えよ。我が──】」






そして少女は気づく────魔力を喰われ過ぎていると。



本来なら、少女は中級程度の精霊を呼び出そうとしていた。しかし、この魔力消費量は中級なんてものではなく軽く上級──いや下手をすれば超級の可能性もある。


このまま召喚を続けようとして魔力が尽きてしまえば足りない分の魔力を補うため、精霊は生命力を喰らっていく。生命力すら喰い尽くされればもう────おしまいだ。





だが、少女が詠唱を止めることはない。


こんな魔力が暴れまわっている状態で詠唱を止めれば辛うじて与えている『召喚のため』という指向性を失い、魔力が解き放たれてジ・エンド。ここを中心に街の1つや2つ吹き飛ぶ超爆発が起こる。








僅かばかり生き残る可能性がある方を選ぶか、確実に死ぬ方を選ぶか。


彼女は、前者を選んだ。






「【────現界せよ!!我が精霊よ!!我が元に馳せ参じろ!!】」




ドガンッ!!という轟音が轟いたかと思えば、暴れまわっていた魔力が魔法陣に収束し存在(ナニカ)を形作っていく。





詠唱が、終わった。


もう魔力が尽き、生命力もある程度もっていかれた。


だが────生きている。





賭けに勝った────と微かに笑いながら倒れる少女。

横倒しになった視界に召喚魔法陣が入る。蝋燭の炎は蒼く蒼く燃え、光の円環が魔法陣の上に現れた人影を囲む。


そして。人影がゆっくりと口を開き────







「いぇーーーい!!呼ばれて飛びでて俺ですよっと!!

くっくっくっ!!末席とはいえ神の一柱を呼び出すとは中々やるな!!その蛮勇と誇りと知識に免じて話だけでも聞いてやろう────ってなんだ!?俺を呼び出したと思わしき少女がぶっ倒れてるんだけど!?メディック!!メディーーーークッ!!」









薄れゆく意識と暗くなる視界から得られる情報をもとに少女はこう思った。







────なんかとんでもないものを召喚してしまった、と。

お読みいただきありがとうございます。


今話は第三者目線ですが次話からは召喚されたバカ視点で話が展開していきます。

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