東へ進め!月初めのお勉強会
デザートまで満喫して、至福の余韻に浸かる少女達。
エルディナとクルスに先導され別室に移動して、いざ『お勉強』の時間が始まるとそれまでの蕩けた表情を改めて真摯な態度へと変わった。
「魔力にしろ魔法にしろ、分からない事ばかりで『こうするのが正解』なんてものは俺も分かっていなくてな。手探り状態っていうのが正直な所だ。俺があちこちの国で見聞きして集めた呪文やら呪具も、相性なのか何なのか分からないが使えるモノや使えないモノがある」
呪文に関しては言語の違いも関係している…『かもしれない』のだそうだ。
「デルロードでは辺境伯領地以外には魔物が出ないから、魔法が珍奇ではあっても重要じゃないから余計に発展しないんだよな」
ブツブツと不満気にぼやくクルスに、エルディナは苦笑いを浮かべつつも頷いて同意を示している。
「…魔物の出現は魔力で抑制出来るの。ルゴール家ではそれを封印と呼んでいるわ」
少女達の顔を見詰めて、ゆったりとした口調でエルディナが説明を続ける。
「魔物の出現する場所は限られていて、其処に魔力を放つと封印が出来る。…辺境伯領家に伝わっているのはその程度で、魔力を持つ者が辺境地に居ない時の為の呪具の蒐集や使用も辺境伯領家の仕事の一つなの」
呪具の作り方も伝わっているが、これはセンスなのか相性なのか、魔力があれば作れるという代物ではないそうだ。エルディナもクルスも、挑戦しては失敗ばかりしているという。
「呪具…」
エルダの瞳が好奇と期待に煌めいたが、お勉強中なのを思い出してフルフルと首を横に振った。
「お嬢さん方なら悪戯に人々に広める事は無いと分かって居るが、一応の念押しはしておく。呪具の作り方を教えても構わないが、他言無用で頼むよ」
クルスの念押しに対し、少女達は力強く頷いた。
「魔物が出現する場所とは…魔王さんのお母様の仰っていた『壁の隙間』や『禍津鍵』と関係しているのでしょうか?」
「大いに関係しているだろうな。これは俺の推測でしかないが、昔から魔物が出現する場所っていうのは『壁の隙間』が出来やすいというか…そもそも、あー、壁が石や板のような均一な強度ではなく、膜みたいな…部分的に薄くなったり脆くなるモノだからこそ、隙間というか、小さな穴が空いた状態なんじゃないかと思う」
「うーん…あ、だからその穴の部分に魔力を放つと、穴を塞げるっていうことですか?」
挙手しながら尋ねるエルダに、クルスは頷く。魔力を放つ、とは具体的にはどうするのかとリュールが質問すると、それにはエルディナが答えた。
「私が呼ばれた時はいつも、基礎魔法の『水』を使うわ。とにかく魔法を使えば良いみたいだけれど、消費魔力が少なくて火種のように火事の心配も要らないから安心なの。クルスは風を使うのよね」
母親に水を向けられたクルスが頷きながら、空中に文字を書くような仕草をする。
「あっ!風だ!」
「まぁ、素敵!」
閉め切った室内に吹いた微風を頬に受けて、少女達が歓喜の声をそれぞれに上げる。
「俺は風の属性魔法と相性が良いから、呪文詠唱無しでも使える微風をよく使う。そういえば、例の襲撃があった開拓地、あそこでも『見つける』前に一応だが微風を使ってあったんだよなぁ」
夏祭りの前に起きた『魔物の群れが開拓地を襲撃した事件』の現場に【新しい出現場所】が【出来た】のを、テオールが発見したという。
「発見前に別の用で微風を使っていたにも関わらず、穴が開きかけてたんだよ。念の為に微風よりも遥かに消費量の高い魔法で塞いでおいたけどな」
因みに、別の用とは現場の血生臭さを和らげる事だったので
先程の微風よりは多少だが範囲と魔力の消費量が異なるそうだ。
「前置きが随分と長くなっちまったけど、まぁ、そんなこんなでな。デルロードに流通してる『魔法関連の書籍』は入門書の類も含めて、殆ど全てが辺境伯領家が情報の発信源だし、その大半がこんな感じで『魔物被害への対策』を元に先祖達が試行錯誤してきた産物だ。それでも、お嬢さん方の話を聞いて知らない事だらけだったと思い知らされてばかりだがな」
「私達の知っている事は、本当に僅かなものだけれど、二人にとって必要な事、必要だと思う事は喜んで教えるわ。だから、遠慮なくどんどん質問してね」
教師役の二人に、少女達は改めて深々と頭を下げて『宜しくお願いします』と声を揃える。
「此方こそ、宜しく頼む。じゃ、さっきの微風について少し説明しようか。あれは呪文詠唱を省くかわりに、俺なりの発動条件を設けてあるんだ。その辺りの仕組みを理解すれば、お嬢さん方がいずれ各々に相性の良い属性を見つけた時に役にたつからな。覚えておいて損はないはずだ」
基礎魔法を使う時のように漠然と魔力を練り上げた段階であの文字を書くような仕草をする事こそ、クルスの『発動条件』なのだという。
「何と書かれておりますの?」
リュールの問いにクルスはニヤリと笑って内緒だと答えたが、エルディナがあっさりと『微風と書いているだけよ』とばらした。
「ちぇ、少しは格好つけさせてくれても良いだろ?全く、お袋は………あ、いや何でもないです、はい。さーて、お嬢さん方!ええと、呪文詠唱のかわりに発動条件を設ける場合の説明を続けるぞ」
まず、発動条件を自分なりに決めるの。この時、なるべく覚え易くて簡単なモノにするのがコツだそうだ。
「あまり複雑な手順にすると、結果的に呪文詠唱の方が早くなって本末転倒ですからね」
「あ、そっか。それに、使い分ける時にゴチャゴチャになったら意味ないもんね」
「そういうこと。それと、発動条件を決めたらひたすら反復練習あるのみ、だな。雛型になる魔法の知識だったり、呪文のある魔法を短縮する場合は割とスムーズに出来るが、ゼロから作り上げる場合は特に反復練習がものを言う」
クルスの使う微風も、他国で確立された呪文詠唱による魔法を雛型にしており、呪文詠唱による発動と発動条件による無詠唱魔法の両方を実演して見せた。
発動時間は無詠唱の方が早く、さり気ない仕草が発動条件なので魔力の無い者ならば『あら、風が吹いたわ』としか思われなさそうだ。
詠唱魔法の方は異国の言語なのも相俟って、仰々しい厳かは雰囲気
ゼロから作り上げる場合については、また次回。そう言ってクルスが勉強会の終了を告げた。
「はは、物足りなさそうな顔だな?だが、夜更かしは良くない。次の予定は来月の頭になるが、その前に時間が取れそうなら連絡をするよ」
ルゴール家の人々の多忙ぶりを知る少女達は大人しく頷き、本日の勉強会は終了となった。
前話から一年近く経過しておりますが、待っていてくださる方や読んでくださる方がいるとしたら嬉しいです。




