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東へ進め!エルダと愉快なお誕生日①

目覚めたのはまだ夜明けの薄明かりの頃で、もう少し寝ていても良さそうな時間帯。寝返りをうって目を瞑るが、寝れそうにない。喉も渇いているし、もう起きてしまおうか。もぞもぞとベッドから出て、伸びをする。



「背、少しは伸びた…かな?うーん。リュールより小さいままだから分かんないや」



窓辺で寝癖の激しい髪と手櫛で挌闘しながら、夜明けの街を見下ろす。王都に比べれば華やかさには欠けるが、レッテンの美しい街並みはエルダのお気に入り。毎朝こうして眺める時間も気に入っている。



隣の部屋はまだ静かで、朝が弱めのリュールは寝ているようだ。足音を忍ばせて部屋を出る。



薄暗くてよく見えないが、この階段にもすっかり慣れて難なく一階へ。

昨夜リュールが魔法で作った氷塊が夜の間にじわじわと溶けてできた冷水を飲むと、身体中に染み渡るような心地良さを感じる。



「やっぱり、凄いよねぇ。流石、リュール。うーん、もう一杯!」



エルダも魔法で水を出したり、水をお湯にする事までは出来るのだが、リュールのように魔法で凍らせるところまでは出来ない。



「私もそのうち出来るようになるかな~?」



エルダに焦りは無い。魔法という特殊な性質の事柄なのを差し引いても、リュールと自分を比べる事に意味が無いと理解しているからだ。



「あ。起きたのかな?早いけど…うふふ」



階上からの物音でいつもより早いリュールの起床にエルダがはにかみ笑いを浮かべる。朝が弱めのリュールが今朝に限って早起きをする理由が、自分の誕生日の為だと分かっているだけに擽ったいような気分になる。



「お誕生日おめでとうございます、エルダ。貴方にとって素敵な14歳になりますように。おはよう、今朝もエルダの方が早いのね」


「ありがと!おはよう、うん、楽しみで早く目が覚めちゃったよ!」



律儀に誕生日の祝いの言葉と朝の挨拶を寄越すリュールに、エルダがニコニコと応じる。


交互に顔を洗って、寝汗のベタつく身体を拭き清めて着替えている内に外はすっかり明るくなった。



朝食からエルダの好物を作ろうと早起きをしたリュールに『今日は座っていてくださいな』と、お手伝いをやんわりと拒否されてしまう。

それでも、そわそわと落ち着きなくリュールのそばをうろうろするエルダ。多少恐ろしい手付きで包丁を使っているのを除けば、ごく普通の調理過程でごく普通の朝食が出来つつある。


竈のそばまでリュールにくっついていたら「暑いだけですわよ」と苦笑いされた。


お手伝いは何度申し出てもダメだが、座っていろと言われたのを無視しているのは許される。この匙加減がリュールらしいなぁ、とエルダが内心でニマニマしている。



「朝からご機嫌な甘えん坊さんですわね?」



普段は朝から分担して家事を行う分、確かに今朝はいつもよりリュールにべったりしている。



「お誕生日だからね!」



胸を張って答えると、リュールが声を上げて笑う。



豪華な昼ご飯に備えてやや控え目ながらも、エルダの好物ばかりが食卓に並ぶ朝ご飯。



食後、テーブルを片付けたリュールが薬茶を淹れていると誰かが来たようだ。

手の空いているエルダが応対に出ると、これから砦や領主館に出勤する人々がエルダへと誕生日プレゼントを贈りに来たのだという。



「砦の皆から、この前のお礼も込みでエルダ嬢ちゃんに。誕生日、おめでとさん!」


「文官部屋から小さな仕事仲間エルダへの誕生日プレゼントです。おめでとうございます、健やかな一年になりますように」


「開拓部からはこれを。おめでとう、これからもお嬢さん方の活躍に期待してるよ!」


「侍女連からはこちらをエルダさんへ贈りますね。お誕生日、おめでとうございます」



贈り物を両手に抱えて受け取り、弾んだ声音と満面の笑みで礼を述べる。玄関から出て、来客達がそれぞれの職場へと向かって行くのを見送った。



「朝から嬉しいお客様でしたわね」



薬茶を飲みながら、リュールも我が事のように嬉しそうな顔をしている。



昼に向けて家と外を行き来するリュールに留守番を頼まれ、一階で魔術関連の書籍を眺めている間にも来客は途切れ途切れに訪れる。テオールやルゴール家の人々からもプレゼントを貰い、エルダの頬は緩みっぱなしだ。



「さぁ、主役のエルダはそろそろお着替えの時間ですわ。可愛らしい妖精さんに変身して来てくださいな。私も着替えて参りますわ」



身支度を整えて、晴れ着姿で二人仲良く家を出る。



「エルダは本当に可憐ですわ…溌剌とした新緑の妖精さんみたいですもの、背中に羽があっても私は驚きませんわ。それにこの瑞々しいお肌、ふっくらした薔薇色の頬。健康美を具現化していますわ、最高ですわ」



蕩けた表情のリュールはまだエルダを絶讃している。



「リュールは綺麗でエルフみたいに透き通って、凛とした雰囲気だよね!私、リュールのお月様みたいなこの髪も好きだよ」



並んで歩きながら、互いに褒めあう。エルダはいつもの手籠だが、リュールは大ぶりな籠を持って公園広場を目指す。


広場の中央付近は日差しを遮る物がないので、木立のある一隅にスペースを用意しての昼食会になると聞いている。

エルダは気軽なピクニック気分でウキウキと公園広場へと入って、人集りを見つけて大いに驚いた。



「えっ…!?」



目玉がコロンと零れ落ちるのではないかという程、大きく目を見開くエルダを人々が笑顔で迎える。笑顔の人々の輪の中には、町の人もチラホラ…。



エルダの予想を遥かに上回る大勢の参加者達から「おめでとう」の嵐に祝福されて、エルダがまだ少し茫然とした様子ながらも「ありがとう」と返す。傍らに寄り添うリュールも、エルダへの祝福に感謝の言葉を返している。


一段落ついた所で、エルダは人々の真ん中へと押し出された。敷物の中央に座るエルダに、人々から贈り物の山が紹介される。両手でも到底抱えられない量の贈り物は押し車に積まれ、後で家に届けてくれると聞いて一安心。


リュールの姿を探せば、少し離れた場所でアーカイネら三人娘を従えて飲み物を人々へ配っていた。手から手へと回される飲み物は「凄く冷たいぞ!」「うひゃあ」「気持ち良い冷たさだねぇ」と、人々を驚かせている。



「皆様、本日はお忙しい中をエルダの誕生日祝いにお運び頂きまして誠に有り難うございます。お手元に飲み物は行き届いておりますでしょうか?早速ではありますが、エルダの誕生日を祝し、皆様のご健勝を願って乾杯と致しましょう。」



リュールの堂々とした短いスピーチの後、エルダの誕生日を祝って乾杯の声が真夏の公園広場に明るくこだました。

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