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東へ進め!魔法とスープ

クルスが伸びをしながらポツポツと漏らす。



「お嬢さん方の話だと……我々の住む『人間の世界』に比べて魔族や精霊の方は何というか『各世界がある事、その仕組み』なんかを色々と知っているし、その中での人間の世界には概ね無関心ながらも動向を把握しているように感じるんだよなぁ…」



「ああ、それな。俺さ、まるで動物園だな、って思ったぜ。俺達人間は動物園の集められた動物の一種類で、小さな柵の中で『動物園の見せ物』だなんて知らないままに生きてるけど、それを柵の向こうから眺められてるみたいじゃね?」



クルスの感想にエルディオンが身も蓋もない感想を返すが、デルロード国に『動物園』は無い。南の大国にある『動物園』を実際に見た事があるのは、クルスとエルディオンだけなのだ。噂で知っているだけの少女達やエルディナ、マリリオンはキョトンとしている。


クルスはエルディオンの言いたい事がきちんと伝わったようで、得心顔でスッキリ。



「私にはピンと来ないけれど、クルスは得る物があったようで何よりね。…クルスは本来の目的通りに『魔物被害を減らす』為の方法の模索を続けるものと考えて良いのかしら?」



エルディナの問いに、クルスが「勿論!」と力強く頷いて、当面は【禍津鍵】の詳細や各地の土着の古い【呪術】を調べるつもりだと言い添えた。



「ばーちゃん、俺は特産品の件の片手間になっちまうけど胡散臭いご令嬢方と胡散臭いオマジナイモドキについてちょいと調べるぜ。あ、動く前にじーちゃんにもちゃんと話は通すからな!」


「僕も手伝わせてください」



真摯な瞳のマリリオンに、エルディオンが「おう!頼りにするから宜しくな!」と朗らかに返す。

孫達の遣り取りを見てエルディナが笑い皺を深めて、少女達へと頭を下げた。



「二人とも、ありがとう。お礼になるか分からないけれど、私も魔法について教えるわ。私はクルスほどの魔力は無いけれど、ごく簡単な魔法ならば少し使えますからね」



敬愛する辺境伯夫人から直々に手解きを受けられるとあって、少女達が歓声をあげる。エルディナの庭や色彩への拘りを尊敬するエルダは喜びのあまり頬を薔薇色に染めている。



「えーと、そうだな…それなら、月初めの納品と文官部屋の手伝いの日に生活棟に泊まって勉強していくのはどうだ?予定を固定しちまえば楽だし、お袋も夕方以降なら手が空いてる事が多いんじゃないか?」



少女達は『そこまで甘えてしまうのは…』と、遠慮したがエルディオンとマリリオンに強く勧められ、エルディナからも『ぜひそうして欲しいわ』と言われた事でクルスの案が採用された。



「お袋にばかり先生役をさせるのも何だし、せっかくだから今からちょっとした『授業』でもしようか。お嬢さん方は火種や水を出せるんだろ?どっちが得意、不得意って感じたコトはあるかな?」



少女達が瞳をキラキラと輝かせながら「ありません」と、先生クルスに答える。



「火と水に関しては、人間や魔力そのものとの相性が良いのか何なのか知らんが大概の高魔力保持が使える。本にもあっただろ?」


「ありました!魔力保持者の中でも魔法を使えるのが高魔力保持者、その中で更に火と水以外の属性魔法を使える者は極めて少ない、です!」



エルダが挙手して答えるのをエルディナがニコニコと眺める様は授業参観めいていてほのぼのしている。



「クルス様は風の子をお連れになっているようですが、お貸し頂いた書籍には魔法と精霊の加護に関する記述は見当たりませんでしたわ。その辺りはどうなのでしょうか」



リュールの質問にクルスは『えっ?』と目を丸くするが、エルディオンは『あ、そういえば前にそんな話をしたな!』と、膝を叩いている。



「風の子?それは精霊なのですか??」



瞳を輝かせるマリリオンに、エルダが「見える訳じゃないから、精霊そのものなのか精霊の加護なのか分からないの」とニコニコと答えている。



「精霊の存在について、物語程度にしか知られていないから何とも言えんなぁ。だが、先刻のお嬢さん方の話を聞くと無関係でははいと思う。……いや、寧ろ濃厚に関係あるのかもしれんな。精霊信仰のある小さな国、あそこの王族は属性魔法が使える者が多い事で有名だからな。……いつか、それらも調べてみたいもんだぜ……」


「精霊の加護とやらで、魔力の無い俺らでも魔法が使えたら面白いな」


「本当ですね!僕達にも魔法が使えたら…考えるとワクワクしますね。便利さより、何というか…純粋に夢が膨らむ気がします」


「お前さん達、兄弟揃って以外と可愛らしいトコもあるんだな。…さて、話が逸れたが『授業』をもう少し。呪文詠唱等の不要な火と水の初歩的な魔法を基礎魔法と呼ぶが、この基礎魔法に呪文詠唱や陣などを加えると属性魔法になる。属性魔法には相性があって、同じ魔力の消費量でも使用者によって使える属性と使えない属性があるんだ。ここまでは大丈夫かな?」



少女達がコクコクと頷いているのを見て、クルスが更に続ける。魔力の無いエルディオンとマリリオンも興味津々といった様子で耳を傾けている。



「エルディオン。属性魔法といえば、思いつくのは何だ?」


「火・水・風・雷・土・緑・光…だな。マリリオン、他にも何かあるか?」


「思いつかないです。それに、僕は土と緑って分けるものだとすら知りませんでしたし」


「まぁな。属性といっても厳密な区分がある訳じゃないし、火と光を同一とする国もあるからな。水の中でも細分化して癒し・氷・霧なんて風に分けるとこもあるし」



他国へよく渡るクルスだからこそ、国内デルロードの書籍には無い豆知識も豊富で少女達は熱心に聞き入っている。



「クルス様、細分化された中でも使える属性と使えない属性というように使用者によっての相性があるのでしょうか?」


「相性だけの問題ではないが、使用者によって使える・使えないという差はある。単純に必要な魔力量に届かないから使えない物や、魔力量はあってもセンスが必要だったりするからな。単一属性魔法と、複合属性魔法になるとまた勝手が違ってくるけどな」


「複合属性魔法!本にあったから試したよ!!お湯が出てビックリしたよ~。スープを作るのに丁度良いし、魔法って便利だね」



笑顔のエルダにクルスが噴き出し、エルディナも口元を抑えている。



「…いや、柔軟な発想で素晴らしいよ?基礎魔法同士の複合は魔法の練習としても理に適っているし……でも、稀有とされる魔法でスープ……便利……お嬢さん方は本当に面白い人材だよなぁ……」


「スープや食用に使うのはダメですか?」


「いや、問題ないと思うが…お嬢さん方は魔法で出した水を口にするのに抵抗が無いのかい?」


「魔法だろうが井戸だろうが、水は水ですもの、抵抗はありませんわ。一応、加熱してから頂いておりますし。あ、勿論無味無臭なのは確認しておりますわ」



清々しいまでに「抵抗無し!」と笑顔の少女達に、クルスは「お…オトコ前!」と呟いた。


エルディオンはゲラゲラと笑い、マリリオンは微笑みつつもどこか遠い目をしている。

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