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東へ進め!ハンカチ噛んでキィキィ

マリリオンが記憶を辿りながら、少女達へと確認する。



「アルテミア嬢は宰相閣下の御息女で第三王子殿下の婚約者候補筆頭、レアンドリア嬢は公爵令嬢で第三王子殿下の婚約者候補…で、宜しかったでしょうか?」


「はい、その通りですわ。レアンドリア様の従姉にあたるご令嬢が第二王子殿下の確定婚約者様ですわね」


「アルテミア様とレアンドリア様はとっても仲良しで、姉妹のようにお育ちになったそうだよ。だから、アルテミア様が殿下の婚約者様候補として学園に入学する際に、レアンドリア様も婚約者候補に名を連ねてご一緒されたんだって」



アルテミアとレアンドリアは王都生まれの王都育ち、幼少期からその仲の良さは広く知られている。なので、このレアンドリアの行動の意図は『アルテミアの為』だと皆が承知している。本気で殿下と婚約するつもりが無いことも。



「マリリオン様は、アルテミア派がヤーシュカ派の取り巻きの私達に『内密』でお見舞をだしたのが変だ、中途半端な儀式の噂の出所はお二人なのでは?と、思った?」



エルダの問いに、マリリオンが驚きながらも肯定した。



「そうなんです。都合良く『乙女二人』だったり、ヤーシュカ嬢の好む『恋のおまじない』あたりでヤーシュカ嬢を引っ掛けようと狙っているのでは?と考えてました。その後のお見舞で、噂を流したのはそのお二方だろうな、とも。…あの、違ったのですか?」



対立派閥の取り巻きへ表立って見舞いを出すなら、分かる。


だが、内密にするのはおかしい。それに、下級貴族の令嬢二人が風邪で二日学園を休んだだけで、高位中の高位である雲の上の存在のご令嬢方が見舞いを出すなんて異常だ。



「え?分かんないや、調べてないもん」



エルダのあっけらかんとした答えにエルディオンとマリリオンは一気に脱力した。



「私達も『怪しい』とは思いましたけれど、身分が違い過ぎますもの。此方から尋ねるなんて論外ですし、バレないように慎重に慎重に探るにしても…あちらの身分の高さを思えば自殺行為ですわ」



学園時代の少女達は子爵令嬢と男爵令嬢、家名があるのだから彼女達の言動如何では家や領地に咎が及ぶ立場だった。


本来ならば後ろ盾であるべき派閥のトップが、問題児の権化のようなヤーシュカとあっては余計に二人が迂闊な事を気軽に出来る訳がない。



「あっ、そっか。学園時代はお前らも『マトモなご令嬢』だったから今みたいな無鉄砲に斜め上へ驀進できる脳天気さは封印されてんだよな」


「うん、それって私達を貶してるよね?」


「え?すげぇ褒めてるつもりなんだけど。マトモなご令嬢なんて貴族社会のルールだらけで窮屈だし、つまんねぇじゃん」



キョトンとしたエルディオンの瞳は澄み切っており、本心から褒めた(つもり)のようなのでエルダもそれ以上は追及しなかった。かわりにエルディナが『お馬鹿さんね!』と、孫の頬をブニッと摘まんでいたが。



「それでは、その不穏で危険な儀式はまだそのままなのですね…」


「いいえ。私達が寝込んでからは行われなくなったそうですわ。年末に魔王が遊びに来て言っておりましたの」



ルゴール家の人々が固まる。リュールは『お隣さんが遊びに来た』かのような口振りだが、来たのは魔族の頂点に君臨する魔王だ。



「魔王さーん!何でー?そんなにお気軽に遊びに来ちゃってんのーーー!?」



壊れ気味…ほぼ壊滅のクルスが絶叫。エルディナに『五月蠅いわよ』と窘められて椅子に沈み込む。



「去り際の閃光、力加減が出来てないとお母様にお叱りを受けたそうですの。それで、特訓だか修行だかをされて『ちょっと魔王っぽくなったでしょー!』と浮かれて自慢に来ましたの」


「自力で世界を行き来できて、話し方も少しだけ成長してたよね。お陰で魔族の世界でもあまり馬鹿にされなくなったって、嬉しそうだったよね~」



ほのぼのと成長を語るが、成長したのは魔王。魔族とは人類の脅威であり敵で、魔王は総大将ラスボスでは無かっただろうか。


遙か昔、人類は決死の覚悟と壮絶な犠牲を払って魔族を退けたというのはこの大陸全土に共通する『歴史』なのだが。寝物語として子供の頃に読み聞かせる定番中の定番でもある。



「遊びに来たのは構わないのですが、どうも学園をウロウロして変な知識を得てしまったのには辟易しましたわねぇ。『お姉ちゃん達、僕のコンヤクシャーになって!』ですもの。呆れてものが言えませんでしたわ」



マリリオンが驚愕で硬直、エルディオンは固まりながらも腹の底から絞り出すような声で『断ったよな?』と確認する。



「うん。泣きべそ魔王の婚約者なんて嫌です、お断りしますって言ったら泣きべそかいてたよ。リュールがハンカチあげたらすぐに泣き止んだけどね、アハハ」


「魔王がそんなに泣き虫で務まりますの?と、心配になってしまいましたわ。尤も、魔族の世界は人の世とは常識も価値観も異なるそうなのでアレで問題ないそうですけどね」



少女達がキチンと断ったと知り、硬直の解けたマリリオンが安堵の溜息を吐いて胸を撫で下ろしている。それを生暖かい目で見守っていたクルスがふと思いついた事をそのまま口にする。



「魔王を手玉に取って、世界征服だ、ヤーシュカ嬢へ報復してやろう!とは思わなかったんだな」



口にしてから、冷や汗が滝のように背中を流れた。お伽話や夢物語ではなく、本当に…この二人はそれを望めば可能なのだ、現実に。



「ええ、魔王もそんなような事は口にしておりましたわ。断ったら余計にしつこくなって、コンヤクシャーがイヤならお嫁さんに来てーってダダを捏ねて騒いでおりましたわね。余計にお断り、断固拒否だとお答えしたらハンカチを噛んでキィキィ言ってましたわ。本当に禄でもない事ばかり覚える困った魔王ですの」


「ぷぷ。あれさ、絶対にヤーシュカ嬢の真似だよね!!」



思い出し笑いをする少女達とは対照的に、ルゴール家の人々の顔色はとても悪い。



「私達、誰かの力で何かをしようとは思いませんの。そんな考え方は恥ずべき事だと父母に教わっておりますし、権力を振りかざして力で人を従わせるやり方には嫌悪しか感じませんわ。そうでしょ、エルダ」



リュールが微笑みかければ、エルダも微笑んで大きく頷いている。



「うん!!本当にそうだよねぇ。私達は私達に出来る範囲の事を地道に頑張りながら、時々ご褒美で美味しいお菓子でまったりする生活が世界征服よりも素敵な『一番の贅沢』だって思ってるし」



エルディナが少女達の言葉に眦に涙を浮かべて微笑んだ。


ああ、なんという素晴らしい、奇跡のような少女達なのでしょうと深い感動を胸に二人を見詰めた。

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