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東へ進め!豪腕なんて初耳です

「一般納品、新規納品、二人ともどちらも問題無しね。エルダの依頼品は10日毎の一般納品の時に一緒に納品しても良いし、急ぐ時は毎日開いてる他の納品部でも受け付けてくれるからね。あ、そうそう。二人とも、新しい納品許可証兼身分証と交換しなくちゃね」


新しい許可証を見て、少女達が顔を綻ばせた。


「貴女達は文官部屋のお手伝いで納品部以外も出入りするからね。顔と名前はとっくに知れ渡ってるけれど、良い機会だからとワズラーン様から打診があったのよ」



【一般納品・ピュアチ部門納品許可証、文官部臨時職員:リュール】

【一般納品・魔物関連部門納品許可証、文官部臨時職員:エルダ】



裏返すと領主館の印璽と発行日や期限などがある。そちらはちら見して、表の『文官部臨時職員』に笑顔を浮かべている少女達。



「ワズラーン様は一年ぐらい様子を見て、貴女達が良ければ臨時職員へ切り替えようと思っていたらしいけど他のお偉いさん方からせっつかれたそうよ。本当ならばこの後にワズラーン様からご説明予定だったけど、今日は生活棟へお伺いすることになったでしょ?だから、ワズラーン様からの伝言をお預かりしているわ」



一枚の紙を取り出して、広げて見せるリュスカ。ワズラーンの几帳面な字が綴られている。



『納品部リュスカ殿へリュール嬢とエルダ嬢に下記伝言をお願い致す。………詳細は次回説明するが、断りなく臨時職員へと変更して済まない。不服であれば即日変更可。名称以外には勤務形態は変わらない。………(二人に告げる必要はないが、少しだけ賃金が上がる他、臨時職員のリュスカ殿と同じぐらいの特典をつけて申請済み。質問あればリュスカ殿から回答をお願い致す)執務棟文官部ワズラーン』



「これね、伝言部分だけじゃ勿体ないですよ、二人ともワズラーン様の配慮にこそ喜びますよとお伝えしたら真っ赤になって…最終的にこのまま貴女達に見せても良いと仰ったし、その方がワズラーン様のお気持ちも分かると思って」


「うん、凄く分かった!ワズラーン様って不器用だけどお優しい方だね。お手伝いの時は恐れ多くて言えなかったけど、これからは文官部屋の一員として、仲間のみんなの為にお手伝い張り切っちゃうよ!」


「エルダの言う通りですわ。…これまで月に一度から三度、簡単なお手伝いしかしておりませんのに、なんとも寛大な措置を頂いた上に私達が気にしない様にとのお考えまで…次回から、これまで以上に誠心誠意お手伝いさせて頂く所存ですわ」



リュスカか少女達はその返事をワズラーンに伝える事を約束して、改めて祝いの言葉を口にした。




笑顔の少女達が建物を出るのを見送り、リュスカは外の日差しの眩しさに目を細めた。薄暗い室内からは、少女達が光の溢れる中へと吸い込まれていくように見える。




生活棟を訪れると、領主夫人のエルディナや領主の三男のクルス、領主の孫息子二人が少女達を待っていた。


案内された部屋へ少女達が入室すると、紅茶と茶菓子の用意を済ませた侍女は退室する。

用があれば呼ぶから、この部屋の周りは静かにしておいてくれ、とクルスが何気ない口調で人払いを命じた。



「お久しぶりね、会いたかったわ。元気そうだし…ふふふ、とても嬉しそうね。リュスカから新しい身分証を受け取ったのね。二人とも、おめでとう」


「ありがとうございます。えへへ、臨時職員になれたのも嬉しいけど、エルディナ様に会えたのも凄く嬉しいです!」



エルダの返事と、はにかみにエルディナが『なんて可愛い事を言うのかしら』と笑み崩れている。


リュールはお行儀良く挨拶して、夏祭りの折りには母共々お世話になりましたとお礼が遅れた事を詫びつつ深く頭を下げる。



「それ、それな!!お前の母君、あの超伝説級の凄腕魔物ハンターじゃねぇかよ!!流石は魔王のカーチャンだぜ!」



エルディオンが興奮気味だが、リュールはすかさず「私の兄弟に魔王はおりませんわねぇ」としれっと答える。



「世間は狭いよなぁ。あの【放浪の豪腕リーナ姫】の娘がリュール嬢とはねぇ。君のお母上は素性を伏せて主に国外を活動拠点にしておられたから、国内ではプレート持ちのハンターが居た事自体もほとんど知られてないんだよ。ご本人からギルドプレートを見せて頂いた時にはあのオヤジ殿も流石に仰天して暫く絶句していたよ」



リュールとエルダはイフリーナの二つ名に絶句だ。インパクトのある二つ名の部分は聞いてなかった。



「リュールさんのお母上の事は、我々ルゴール家のみに留めて広めるつもりは一切ありませんのでご安心下さいね」



マリリオンが柔らかく告げ、エルディナもおっとりと頷いている。柔和な笑みを少女達に向けるエルディナの手はエルディオンの頬をつねって「こんなに可憐なお嬢さんに魔王とはなんですか」と教育的指導の真っ最中だ。



「ばーちゃんも見れば分かるっつーの!それに、リュールの魔王っぷりは街では結構広まってるんだからな。全員のほっぺを抓って周るつもりかよ」


エルディオンがブツクサと文句を垂れると、リュールが『なんと言う事でしょう…』と戦慄。

エルダが呑気に『リュール、学園の頃と同じ渾名になっちゃったね』と爆弾を投下すると、リュール本人は知らなかったようで石像と化している。



「大丈夫、リュールを魔王って呼んでたのは、私を虐めようとしてリュールに追い払われたあの人達だけだもん。そんなに広まってないと思うよ」



嫌われ者のヤーシュカの子分なんだから、手酷く虐めても構わないだろう。それに、男爵家の娘なら格下だ。


そんな考えの者達がヤーシュカに怯えてすっかり萎縮していた『無口で大人しく、見るからに無抵抗で何をされても泣き寝入りしそうな』エルダを襲おうとして、魔王化したリュールの怒りで撃沈する事が二度だけあった。


ヤーシュカとは関わりない事案だったので、ヤーシュカに報告義務はないと判断した少女達。報告した所で他家の取り巻き達のようにヤーシュカが二人の為に何かするとも思えず、リュールはその事をその場が済むと忘れていた。


だが、撃沈した側はリュールを魔王と呼んで恐れるようになったという。後日、単独行動中のエルダと出くわした際に『ひっ!魔王の片割れ!』と叫んで逃げ出すことが数回あったとエルダが懐かしそうに説明した。



数分後にリュールが石像化から復活すると『早速で悪いが』との短い前置きをして、クルスが二人に『魔力がなかった筈のお嬢さん方がなぜ魔法が使える程の魔力を持つのか』を尋ねた。

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