東へ進め!夏祭り⑧パイにスープに魚パン
夏祭り最終日、朝。キリリと引き締まった顔の少女達が、手籠を携えていざ出陣!と張り切る。
「ピュアチパイとピュアチのスープ、絶対にゲットするよ!!」
「勿論ですわ!!」
お目当ての品を入手するべく、勇み足で公園広場へ。既に結構な人が各試食コーナーへと並んでいたが、迷う事なくお目当てのコーナーへと別れて並ぶ少女達。
パイとスープを無事に入手して、試食コーナー脇に設置されたベンチへと移動する。
「はぅ」
パイをガブッと豪快にかじったエルダが身悶えしている。スープを飲んだリュールは悶絶しているように見える。
「これ、凄く美味しいよ!サクサクでバターがふんわりするの!クリームがこってりめだけどピュアチが甘酸っぱめだからくどく無いよ。むしろ食が進むから、幾つでもドンドン食べれちゃう!」
半分こね、と言ってパイをスープと交換する。
「まぁ…!」
リュールもパイの美味しさに目を見開き、恍惚の笑みを浮かべながら無心に食べ進める。
エルダはスープを一口飲んで激しく噎せている。
「あのパイ、絶品でしたわね!お店で売っていたら迷わず買いましてよ。並んでも買いたいですわ」
エルダが一口でギブアップしたスープをグイッと飲み干し、リュールがうっすらと涙を浮かべながらもパイを絶賛している。
「よ、リュール嬢ちゃん。さっきから見てたけどお前さん漢前だなぁ、あのスープを一気飲みするなんて無茶しやがって。口直しにコレやるよ」
ご近所のおじさんが口直しにとくれたのは、ピュアチのクッキー。これは小さいので、1人二枚くれるそうだ。
おじさんにお礼を言って、小さなクッキーをエルダと半分こする。ピュアチのスープが異常に激甘だったせいで、クッキーの味が全く分からない。
だが、クッキーのお陰で粘り着く強烈な甘さは消えた。
「色や香りはとっても素敵でしたけれど、あの甘さは驚きましたわ…身体に悪そうなぐらい甘いのですもの」
「あれなぁ、見た目は良いんだが酷い甘さだよな。うちの女房は甘い物好きなんだが、あれは無理だって残してたぜ。隣のじー様は普通に飲んでたけどな」
コアな甘党には受けが良いそうなのだが、あれを普通に飲める人よりも噎せたり吹き出している人の方が圧倒的に多い。
ピュアチの試食コーナーで、既に品切れになったのはパイとケーキ、タルト、ピュアチ茶だ。
「おー!売り切れてるね!!」
試食なので無料だが、自分の作ったレシピのピュアチ茶が品切れになっているのは嬉しい。
リュールが照れ笑いする背後で「そんなにうまかったなら、俺も飲みたかったのに。お前の自慢が長かったから品切れじゃねーか」と青年が連れに文句を言っているのが聞こえた。
「では、魔物コーナーに参りましょ」
ピュアチ部門の正面に魔物部門の出品物が展示されている。まずは数に限りのある試食に人々が集まっていたが、徐々に魔物部門の展示コーナーへと人が流れている。少女達も手を繋いで仲良くそちらへと向かった。
「あはは、これ可愛い!欲しいね」
「私は此方の御守りに心惹かれますわ~」
キャッキャと口々に感想を言っては展示物を眺める少女達。他の見物人達も、感嘆したり笑ったりと賑やかだ。
「すっげー!これちっこいけど本物みたいだな!!細かいトコなんてどうなってんだ?」
「目とか本物そっくりだけど、硝子か?いやぁ、凄いな。剥製かと思ったぞ」
「あれ、ぬいぐるみって書いてあるけどホントは本物の魔物じゃないの!?だって、あれってどうみても毛皮よ」
エルダのぬいぐるみは人目を集めているようだ。渾身の力作なだけに、エルダはご機嫌でその様子を眺めている。
「好評ね!うふふ、頑張って作った甲斐がありましたわね」
「えへへ」
ご機嫌なエルダと他の出品物を見物し、昼時になったので一旦公園広場を後にする。
「お二人とも、こんにちは」
公園広場を出てすぐの大通りで、マリリオンが声を掛けてきた。薄手の服を着て涼やかだが、興奮に頬を紅潮させた少年は晴れやかな笑顔を浮かべている。
人生初の夏祭りを満喫しているようだ。
「こんにちは、マリリオン様。ご無沙汰しております。…昨日は母共々お世話になりまして、心より感謝しております」
「いえ、僕は何も。…此方こそお礼を言わなければいけないと思いますが、それに関してはまた後日に兄か叔父から話があると思いますよ。ところで、お二人はもう帰られるのですか?」
「そろそろお昼だから、屋台でお昼ご飯を買って家で食べようと思って。マリリオン様はお昼ご飯はもう食べたの?」
マリリオンは領主館御用達のレストランを予約しており、そちらで兄のエルディオンと合流してから昼食を摂るそうだ。
宜しければご一緒に如何ですか?との誘いは丁重に断り、少女達は当初の予定通りに屋台で昼ご飯を調達する。
「もう店仕舞いだからね、コレとコレもオマケしちゃうよ!来年もまたご贔屓にね」
オマケも貰えてウキウキと足取り軽く家に戻る。
「これ、ちょっと辛いけど、お魚と凄く合ってる。リュールはこういうの凄く好きなんじゃない?エルディオン様のオススメ穴場スポットなだけあるね、美味しいよ~!でも辛い、なのに止まらないよ~」
「私、コレとても好きだわ!このモチモチの生地も良いわね。屋台のおば様は確かヴィーテンから来たと仰っていたわね。また食べたいもの、ヴィーテンに行ったら寄ってみましょうよ」
「良いね!じゃあさ、今年のヴィーテンの冬祭りに行ったら食べようよ。…この生地、お芋が入ってるみたいだね。このピリ辛のソースのトロっとしてるのは何だろねぇ。エヘヘ、冬祭りより前に遊びに行くのもアリだよねぇ」
屋台の『魚パン』に舌鼓をうっていたら、ピリ辛ソースで玉のような汗が吹き出してきた。食べ終わった二人は汗だくで、ハンカチはしっとりグッショリだ。
身体を拭き清めて、薄手のワンピースに着替えるとサッパリ爽やかになった。