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東へ進め!夏祭り⑦魔王再び

夕方から始まるコンテストの話で盛り上がっていた8人。



「おやぁ?賑やかだと思えば売れ残りの三人娘に木偶の坊三人小僧、それに噂の没落小娘達かい。ふん、どいつもこいつも色気づきやがってよぅ」



酒臭い青年が血走った目で近寄って来るが、既にかなり酔っているせいか足取りが覚束ない。


少年達は背中に少女達を庇うように立ち上がるが、彼等の脇をリュールがスタスタと歩み抜けた。



「随分と御酒を召されたようですわね、ご不浄はあちらですわ」


「うぇ?おほほーい、そうかそうか、あんたよく見たら結構綺麗な顔だな!よし、俺とイイとこに行くか!」



ゲスな顔でリュールの細い肩を抱こうと手を伸ばすが、目にも止まらぬ速さではたき落とされる酔っ払い。


背後でアーカイネは広場の護衛騎士を呼びに走り、キロイナは『あれが魔王リュール』と呟きながら観察している。

ミドリーロとエルダは呑気にお菓子をパクついているが、少年達はハラハラとリュールを見守っている。


「あぇ?んだよ…まぁ、良いか。じゃあな木偶の坊達、おめぇらは売れ残りのガキどもとママゴトでもしてな!」


はたき落とされたと気付いていない酔っ払いの戯言に、リュールが凍えるような目に侮蔑を宿して静かに怒りを蓄積してゆく。


「あららー。あのままだとあのお兄さん、トイレに頭から突っ込まれそうだね」


「あはは!幾ら怒っていても、リュールはそんな事しないと思うよ~…多分」


エルダの付け足した『多分』に、少年達がリュールを見る目に若干の怯えを滲ませる。



「不快な臭いでとっても迷惑ですの。酔っ払いの不愉快な寝言も鬱陶しいですし、お願いですから一刻も早くご不浄へと消えてくださいませ」



底冷えする冷気を纏わせて、リュールが霜のおりた瞳で酔っ払いを見据える。丁寧な口調には氷の棘が籠められ、周囲に集まって来た人々から『怖ッ』だの『魔王』だのと声が漏れ聞こえる。



「どいたどいた。おっと、またお前か!ふられた自棄酒であちこちに絡むなよ、馬鹿たれ」


騎士が酔っ払いの襟首を掴むと『きゅう』と脱力するような鳴き声を上げる。周囲から失笑が上がり、酔っ払いは真っ赤な顔を更に真っ赤にしてフガフガと文句を言う。


「あらまぁ、そうでしたの。…ご愁傷様ですが、私の大切な友人達への暴言を許す理由には全くなりませんわ」


まだ怒りの治まらないリュールの長いプラチナの髪が、吹き抜けた風に煽られる。月光の如き銀の髪を靡かせたリュールの濃緑の瞳に射竦められて、襟首を掴まれたままの酔っ払いが反射的に『ゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイ』と連呼する。



なぜか騎士も謝りながら、酔っ払いを回収していった。



「もしかしてあの方も騎士様だったのかしら?」


「違うよー、そんな訳ないって。名前は知らないけど、たまに酒場で飲んだくれてるしあの身体で騎士様は無いって」


酒問屋の息子だという少年が苦笑いする。彼は配達先であの酔っ払いをよく見かける、多分だが大店の放蕩息子なのだろうと言う。


「当たり~、あのバカが迷惑かけちまったみたいでゴメンなぁ~、これ、お詫びだよ~」


かなりベロベロなオッサンと、ほろ酔い加減の青年が乱入してきた。お詫び、といって渡されたのは『招待券』だ。


「きゃあ!これって秋の移動お芝居よね!!」


キロイナが頬を上気させて輝く瞳で招待券を押し抱く。ほろ酔いの青年が、もとはアイツの券だから遠慮なく貰ってくれと笑っている。


「ずーっと口説いてたヒトが居てさ、秋の芝居でプロポーズする!って券まで用意したのにな。いざその女の休日だ、祭りに誘うぞ!って張り切ったらその女は既に文官様とデートに行ってるっていうじゃないか。それで飲んだくれて荒れちまってアチコチで絡んで追い払われて…………アイツ、本当に馬鹿だよ」


ほろ酔いの青年は呆れ顔だが、尻拭いをして回りながらその馬鹿を探して居たそうだ。普段は楽しい奴なんだよ、と言っていたので仲の良い友人なのだろう。


「文官様って…」


先程、ワズラーンと侍女のデートを目撃している少女達は『まさか…ね?』と苦笑いする。


「あ、君らなら知ってるかな?ワズラーン様だよ」


まさか、だった。少女達は『アハハ』と乾いた笑いしか出ないが、ほろ酔いの青年は居眠りを始めたオッサンを激しく揺すり起こして『馬鹿のお迎えに行くよ、じゃあね』と立ち去っていった。



「恋愛って、楽しそうだったり人格が変わったりで色々と大変そうなのですわねぇ」



しみじみと呟くリュールだが、三人娘と三人の少年は『リュールの魔王化ほど人格は変わらないと思う』と小声で囁きあっていた。





夕方、コンテストが始まった。



腕相撲、喉自慢、大食いコンテスト。どれも盛り上がっていたが、一番の大盛況且つ番狂わせだったのは『美少女コンテスト』だった。




「キャー、可愛いですわ!最高ですわ、その笑顔、眩しくてたまりませんわぁ!!キャー!!天使!!」



リュールの滅多に無いデレッデレ全開の黄色い歓声と、薔薇色の頬やうっとりと潤んだ瞳。『リュールちゃんこそ可愛い!!』と、周りの誰もが思っていた。



そんな熱狂的なリュールは大興奮で、美少女コンテストの優勝者へと手を振っている。壇上の優勝者は紅葉のような手で、重く大きい優勝者の証のティアラがずり下がるのを一生懸命に抑えている。



「いやぁん!可愛いっ!今の天使的な愛くるしい仕草、見まして?萌えですわキュンキュンですわ!ユマちゃん最高ですわ!!優勝おめでとうございますですわ」



確かに可愛い。美少女コンテスト史上最年少の優勝者、幼女ユエ。


いつぞやの子供市で、兄とともに鉢植の花などを売っていた美幼女が優勝をかっさらっていった。



リュールとエルダが美少女コンテストに出場するだろうと予測していた人々は落胆したり、二人が出るなら勝ち目は無いからと出場を断念した娘達の悔しがる声が聞こえた。

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